「AI資本主義」は人類を救えるか       中谷巌一橋大学名誉教授

  1.AI資本主義とは

     これまで、産業資本主義から金融資本主義と発展してきたが、これからAI資本主義へ発展していくと思われる。

     AI資本主義は人類をどこに持って行くのか?ハッピーなものにするにはどうすれば良いのか考えてみた。

     今までの技術では人間の筋肉を高める技術であったが、AIは人間の知的生産性を高める画期的な技術である。

     AIは脳に作用するため、使い方を間違えると文明を破壊する可能性がある。人間が考えないでAIに頼り過ぎると

     人間が期待しない方向に進んでしまう恐れがあるので、人間が使い方をしっかり監視することが重要である。

  2.AI社会に向けた傾向と不安

     AI社会に向けて次のような動きが出てくるので問題点を良く考えておく必要がある。

     ・ヒューマ二ズムからデータイズムへ

       人間の自立性が損なわれ、リベラルデモクラシーは衰退に向かう恐れがある。

     ・市場における供給側の力が増す可能性がある

       個人情報がプラットフォーマに蓄積されることから、供給側から消費が操作される恐れが大きくなる。

     ・情報社会は管理社会でもある

       情報社会はすべてが監視される社会になる恐れが強いので安全にはなるが、自由が制約される恐れがある、

       自由?と幸福?のどちらを選ぶことになると考えられる。

   ・ホモサピエンスがホモデスク(神様のような人)になる

      情報社会では、不老不死、デザイナーベービー、サイボーグ人間になる傾向がある。

      将来は好きなような子供が産めるようになるため、人間がサイボーグ化する恐れがある。

  3.中国のAI利用例 : 芝麻伝用

    ・中国の芝麻信用が実施しているスマホ決済「アリペイ」には個人信用スコアシステムがあり、これを信用に利用している。

     このシステムは学歴、職歴、資産状況、交友関係、ボランティア活動の実績を基に、350点~950点で採点する

     これは民間企業が個人の道徳的行動を方向づけすることになるが、社会的善なのか疑問がある。

    ・共産党が以前に失敗したことがあり、理由は計画経済の失敗である。当時はデータがなかったため計画経済が

     出来なかった。今の中国は計画経済を作成するためのデータを集めている。(多分失敗すると思う。)

  4.AIは人間を幸せに出来るか?

    ・人間がどういう社会を求めるかを明確にする必要がある。それを進める体制が重要である。

     資本主義の資本の論理を見直す必要がある。今の資本主義では、投資した時の収益を最大にすることであり、

     そのためには、他者を踏み台にすることもいとわない状況である。AI時代にはみんなが幸せになるためにはどう

     すれば良いのか考える必要がある。

   5.移り変わる人間の自己認識

    ・これまで哲学者が人間の立場を見直してきており、人間は自律性を失なうことを明らかにしてきた。

     ・コペルニックスの地動説:人間は宇宙の中心ではない

     ・ダウインの自然淘汰説 :人間と動物は同じである

     ・フロイドの精神分析   :人間は意識的に行動していない

     ・チューリングの人工知能:人間は情報圏の主人ではない、構成する1つのエージェントに過ぎない

   21世紀の人間観には次の2つが出てきた

    ・リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」 : 遺伝子が持つ生き残り戦略の戦略の結果が生物の進化である

    ・キース・スタノヴィッチ「心の2重過程理論」: 人間の心には2つの部分があり、合理的理性的な部分が従で、

     衝動的・刹那的な部分が主である ⇒ 人間は「ロングリーシュ型ロボット」であるということである。

     しかし、ロングリーシュというように繋がれている綱はかなり長いため、かなりの自由度があり、そこがポイントである。

     21世紀の人間論には上の2つの考えがあるが、総合的な人間観が必要であると考える

  6.AI資本主義の課題と取り組み

    ・AI資本主義の最大の課題は意識しないで流されると不味い方に行くと考えられる。

     合理的で主観的なことを考え直す必要がある。これまで世界を偏った視点で見てきた

     哲学の流れを考えてみると3つの考えがある

      形而上学 : 認識とは無関係に唯一の本質が存在する

      自然主義(科学技術):世界はすべて物質で出来ており、人間の行動を含めすべて科学で究明できる

      構造主義 : いかなる事象も認識主体によって観察され構築されたものに過ぎない

              すべては解釈に過ぎない : この理論の、まずいところは相互主義だということである

     現代思想としてマルクス・ガブリエル「新しい実在論」が出てきた。なぜ世界は存在しないか?

     世界は存在しないが、世界を構成しているものは存在するという考えである。

     人間と動物の違いは、人間は常に何者であるか探求する存在であるである。

     最も重要なことは私だけが自らの可変性を理解していることである。

     世界はこうだということを記述できないが、世界は瞬間人的に動いていると言える

    ・AIは人間によって決められて処理を決められたように実行する。人間が指示した以上のことは出来ない。

     そのため、人間はどうなりたいのか、どのような社会を創りたいのか考える必要がある。

     これまでの資本主義のエッセンスは他者の排除(搾取)による収益最大化であり、その結果、地理的

     フロンティア、自然フロンティア、人的フロンティアが消滅している。

     これからのAI資本主義では、排除の対象であったヒト、モノをネットワークに包摂しないと豊かな創造性は

     生まれなくなった。自然を包摂することで根源的な創造力が再生されると考えられる。

  「一言」AI資本主義という言葉に惹かれて講演を聞きに行ったが、技術屋にはなかなか難しかった。

      訊いていてわからないところは聞いたままに記述しましたので、分かり難いところもあると思います。
 
      総論的にはAIの時代は人間が自分をしっかりと見据えて、厳しく監視していくことが大事だと思った。