激動の世界経済~どうなる2020年以降の日本経済のゆくえ     東洋大学 竹中教授  

   ・日本・世界の経済はどういう流れで動いているか説明する。ダボス会議に行ってきたが、色々なヒントがあった。

    今の経済はグレートモデレーション(大いなる安定)といわれる心地よい状態にあると言われている。世界の

    30ケ国で株価が最高レベルを更新した。大いなる安定は続くかということが話題となった。ダボス会議では世界

    の多くのリーダーは今の大いなる安定は続くと言っていた。IMFの経済見通しでは世界の成長率は昨年の3.7%

    が3.9%に伸びると予測しいている。10年前のリーマンショックで大幅に落ち込んだのが回復してきた状況である。

   ・日本の成長率について、政府の見通しでは、2017年度1.9%に対して2018年度は1.8%になると発表している。

    日本の潜在成長力は1%弱と言われている。日本のすべての人が無駄なく活動した時の成長力を潜在成長力と

    定義しているので、日本の実力の2倍くらい伸びると予想しているのである。

   ・2004年から2005年頃にグレートモデレーションと言われたことがあった。しかし、リーマンショックが起き、成長率

    が下がった。大いなる安定と言われるが、リスク要因はないかと言われると今のリスク要因は北朝鮮問題である。

    何をするか分からない米国と北朝鮮のリーダーがいる状態である。北朝鮮問題のキーは中国である。北朝鮮

    問題はしばらく続くと思う。1994年に北朝鮮が核兵器を開発していることが分かり、カーター大統領が北朝鮮に

    行って解決したが、その後も核兵器やミサイルを開発していた。中国は今の状態が良いと考えているので、解決

    は難しく、しばらく続くと思う。

   ・もうつは米の金利である。何故米国の金利が上がるかというと、トランプ大統領が進めている法人税の大幅

    な引き下げとインフラ投資である。赤字財政になるので、ドルが足りなくなるので、長期的にはドル高円安になる。

    短期的には円高になることもある。今は米国の株が下がれば、日本の株も下がっている。米国に資産が還って

    いくとドル高になる。そうすると新興国で金利が上がる。そうなるとグレートモデレーションの中で変調が出てくる。

   ・今年のダボス会議には世界の70ケ国のリーダーが集まった。G7の首脳の中で安倍首相だけが行かなかった。

    国会が会議中のため閣僚も誰も行かなかった。参加者の中でも話題になった。官房長官に直訴したが駄目だった。

    日本の法律で国会は最高決定機関に位置付けられているため、国際的な動きに対応できなくなっている。国会

    がんなっている。

   ・第4次産業革命に向けてAI人工知能、ドローンを含めたロボット、IoTビックデータ、シェアリングエコノミーが

    組み合わさって大きな変動がくるということである。最近、成田空港に行くと入国審査が人工知能の顔認証だけ

    出来るようなり、短縮された。入国審査は国にとって非常に重要なことであるが、人工知能でうようになった。

   ・人工知能については、数年前まで東大の松尾豊准教授が人工知能の研究をしていると、指導者からはまったく

    評価されなかったが、今では非常に有名になっている。2012年にディープラーニングが実用化された。人工知能

    が自己学習するようになった。その成果の象徴的な出来事は囲碁で人工知能が世界の最強の人に勝ったこと

    である。ビックデータからディープラーニングを行うようになった。成田空港ではパナソニックの顔認証が使われて

    いる。ニューヨーク空港ではNECの製品がテロリストとの照合を行っている。人工知能により、今の仕事の47%

    なくなると言われている。現在、銀行の最も重要な業務である貸付業務も含まれている。公認会計士も含まれて

    いる。公認会計士がいなくなると言われている。野球の審判もいなくなると言われている。本当になると思う。

    このような状況を考えると、これから投資する会社がどのようになるか考えないといけないと思う。

   ・ダボス会議では、独国のメルケルさんはビックデータの戦いと言った。フランスのマルケル大統領は負ける企業

    を助けないといけないと法人税を22%にすると言っていた英国メイさんはウーバーという特定企業を指して

    排除してはいけないと言った。タクシーは運転手の信頼性を国が補償することであるが、ビックデータがあれば

    運転手の評価は出来る。ライドシェア産業は米中で争っているが、日本はタクシー業界の反対で入っていけない。

   ・第4次産業革命の成果をどう取り入れていくかが重要になる。日本政府は2016年に取り組み出したが遅れた。日本

    では2014年に東日本大震災が起きて、その対応に追われていたことがあり、仕方がない面もあった。日本は人工

    知能そのものでは遅れたが、それを取り入れたロボテックでは進んでいる。コマツが土地改良を行う時に、ドローン

    を飛ばし土地の傾斜などを見て計画を立てている。今まで、計画を立てるのにブルトーザの専門家が1日かかって

    いた作業を、女性事務員が3時間で出来るようになった。測量技師は1万人余ったが、今は仕事が多いので、失業

    した技師はいないとのことである。10か所で実験をやる予定だったが、1300か所で実施するようになっている。

   ・夏のオリンピックは世界の7割の人が見る世界の大きなイベントであるが、オリンピック後の経済が大きく動く。

    アテネオリンピックの後はギリシャの危機が出てきた。ロンドンオリンピックでは、レガシーということが言われ、

    ヒースロー空港を改善した。今では、国際会議の開催が増えている。東京オリンピックでは第4次産業革命を

    どう生かすかである。自動運転である。日本は自動運転の最先端に立てる可能性がある。地方では高齢者が

    多く、動けなくなっている。日本ではドライバー不足である。ヤマトでは5トラックをつなげて運転する実験を

    行っている。最初のトラックだけに運転手がいて、後続のトラックはつながって走行しており、運転手はいない。

   ・日本には技術があるが、実験すら出来ない。法律があり、実験が出来ないのである。規制のサンドボックスと

    いう法律がある。砂場という意味で色々な実験が出来るようにするという法律である。最初に作ったのは英国

    である。次にシンガポールで作られた。シンガポールで日立と三菱UFJ銀行がフィンテックの実験をやっている。

    サンドボックス法案が出来るかどうか分からないが国会で法案を出して欲しいと思う。前のオリンピックでは前年

    に新幹線が開通した。開催の年には大きなホテルが次々と開業した。その後の経済成長の基礎を作っている

    2020オリンピックでもその後の経済の基礎となるものを作って欲しいと思う。

   ・次は社会保障の問題である。2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者になる。その時まで今の社会保障を

    続けると破綻する。最初の団塊の世代が後期高齢者になるには2022年である。法律を直すには今年から来年

    には検討を進めないといけない。今の社会保障の問題は経団連の会長でも年金を貰うようになっている。金持ち

    もすべて年金を受け取るようになっている。保険は病気になったら貰うもので健康な人は貰わない制度である

    世界では年金を貰える期間は10年くらいである。オーストラリアでも見直している。今の年金制度は平均寿命が

    66歳の時に65歳から支給するようにした。今では平均寿命が大きく伸びたので、今のままでは制度が持たない

    政治のリーダーがきちんと説明する必要がある。消費税を上げるのは当然と考えているが、社会保障は所得税で

    やるべきである。保険だから保険金を上げるべきであるが、保険金の半分を企業が払うから、企業も反対している。

   ・IMFのラガー専務理事が“天気の良い時こそ、屋根の修理をやっておけ!”と言っている。雨の時は修理が出来ない。

    日本の経済はすごいが、問題を正面から向き合っていない。もう一つのリスクは楽観的ない気持ちである。


  「一言」竹中教授の話は、いつも歯切れが良く、面白い感じがする。今日の話はダボス会議で聞いてきたという

      ことで、第4次産業革命の色々な技術開発を積極的にビジネスに取り込むべきだということであったが、

      新しいビジネスがどのようなものかは、今一つ分からない感じがした。社会保障の話も大胆な話であるが、

      直ぐには納得できるものではなかった。