経済大変動 「日本と世界の新潮流」を読み解く60の視点 学習院大学 伊藤教授
・最近、色々な会議で話を聞くと、企業業績は非常に良く、景気の先行きも明るいと言うことを聞く。
これまでの動きを振り返ってみると、2000年にITバブルがあり、2001年にはBRICsが提唱されるなど
があり、大きな経済成長を支えてきた。欧米や日本の金融緩和が中国や新興国にお金が流れて
いった。2007年にサブプライムローンの問題が出て、2008年にリーマンショックが起こった。
その後は、欧州ではスペインの住宅問題やギリシャの問題など欠点を探すようになった。
一方、中国は2009年には12%もの成長を達成していた。これには中国政府の40~50兆円のインフラ
投資によることが分かったが、それでも大きく成長してきた。これがチャイナショックにつながってきた。
・これらの流れが整理されて、昨年、今年の安定につながっている。今後のことを考えると中国は微妙
である。成長は安定化してきたが、不良債権が沢山ある。2~3年は表に出てこないと思うが、これが
保証されたバブルと言うことになる。中国政府は大きな借金はあるが、企業や個人がお金を持って
いるから、日本と同じように、大丈夫と言われている。しかし、中国政府の3000兆円の債務は気になる。
・BRICs型のビジネスモデルは上手くいかない。新興国は政府が安定してくると急に成長する。しかし、
ある程度まで成長していくと急成長は難しくなる。一人当たりの所得が3000ドルから4000ドルは多く、
安定的に成長している。フィリッピンではドゥテルテ大統領が麻薬と戦争している。5千人殺したと言って
いる。その結果、120万人もの犯罪者が投降してきたと言われており、治安が良くなってきた。そのため、
ドゥテルテ大統領の支持率は非常に高い。賃金が安いので先進国の企業が進出している。フィリッピン
では人口が増えており、特に、若い人が多い。インドネシアやインドでも同じ傾向がある。BRICs型では
ないが、安定している。
・世界では経済は良くなったが、政治が安定しなくなった。今はリスクを見ながら、冷静に見る必要がある。
マーケットが良い時にはどこに欠点があるか見る必要がある。金利が上がっている。金利が低い時は
住宅や株が高くなっている。これは理由が分かっているのでバブルではない。資産市場は大きくぶれる
ことがあるので注意が必要である。京都ではバブっていると言われている。
・日本では物価と賃金が上がっていない。日本経済はここ5年でトレンドが変わってきている。GDPは最も
多かった1997年の532兆円から変わっていない。小泉内閣の時に少しづつ上がったが、リーマンショック
でまた下がってしまった。安倍内閣が出来た時は492兆円だったが、黒田日銀総裁が出てきてバズカー
をやった。名目GDPで537兆円まで戻ってきた。2020年過ぎには600兆円になると思われている。
・雇用や企業業績は非常に良くなった。企業の貯蓄投資バランスは5.1%となり、7年間貯めている。
米国GDPの企業貯蓄率0.1%であり、ドイツでも2.5%である。日本は5.1%と貯蓄が大きくなっている。
これが良いことか、悪いことかは分からないが、資金が動かないと問題がある。
政府の貯蓄投資バランスは9.3%の赤字と非常に大きい。今は3.1%と減っているが、米国や欧州より
悪くなっている。金利、社会保障費により改善している。安倍内閣は財政健全化を急いでいる。ここ
5年間は良い型で来ているが、これからが問題である。
・人手不足は建設業やIT企業では、求人が2倍、3倍となっており深刻である。一般事務では0.3倍で
人余りが大きくなっている、メガバンクでは機械化が進み、人手を大幅に減らすと言っている。首を
切るのではなく、採用を減らすことになると思う。人手不足により賃金が上がり、人の流動化で生産
性が上がることが考えられる。有効な方法は賃金が上がることである。企業の貯蓄投資バランスの
5.1%が投資に回ることである。投資に回ることで、ビジネスモデルが変わる。今は、技術革新が指数
関数的に変化している。企業の変化が遅いところがギャップになっている。これらの人のスキル転換
が急務である。
・環境問題が大きくなると思われる。今の自動車はそのままでは生き残れないと言われている。パリ
協定の期限を2050年から2040年に繰り上げようとしている。今の状況では競争に勝てないので、
新しい土俵で戦おうとしている。このような状況では自動車業界では投資をしないと生き残れないと思う。
・グローバル化により訪日外国人が5年間で3倍になった。オリンピックが行われる2020年に向けて、
訪日外国人はもっと増える見込みである。更に、東南アジアの8億人が中産階級になろうとしている。
これらの人が日本に来ると思うともっと増えると考えておく必要がある。
まとめ : 日本の企業にはお金がある。どこまで企業が対応するかがポイントである。
「一言」伊藤先生のお話は何度も聞いているが、今日の話は時間は短かったが、面白いと思った。
特に、人手不足と言っているが、事務職は大幅な人余りになっていて、人手不足の建設業や
IT業界にスキル転換を行うこととビジネスモデルを変えることで、日本は大きく変わる話を
されたことには共鳴した。最後の企業が投資をしてビジネスを変える必要があるという話は
当然のことではないかと思った。