これからの世界経済の新潮流と日本 東洋大学 竹中平蔵教授
1.初めに
・最近、ショックを受けた写真とトピックスがある。一つはインドの露店で現金ではものを売って貰えないということであり、
ビットコインでないとものを売ってくれない状況になっていることである。フィンテックがそこまで進んでいることである。
もう一つは中国でチップを現金で渡そうとしたら、ビットコインであるウエッジにして欲しいということである。
・世界中でキャッシュレス化が進んでいるが、日本では現金の利用が増えている。日本では特有の事情で現金を持って
いることが有利なことが多かったことから、現金の保有が多く、キャッシュレスが進んでいっていない。
・もう一つは北朝鮮で大変なことが起こっている。このような時期にどうすれば良いか。シューペンターは“資産を持って
いる人が戦略家になる“と言っている。資産を持っている者が一番良く考えているということである。
2.乱気流と偏西風
・この時期には2つの風を見極めて対応していく必要がある。一つは乱気流である。英国のEC離脱の決定、トランプ氏
の大統領選出など、思いもしなかったことが次々と出てくるので、しっかりと見ないといけない。昨年の初めの株価は
18000円であったが、ブレクジットが決まると15000円に下がった。トランプ大統領が財政出動すると言うと19500円まで
上がり、大きく変動した。すべて海外の話であるが、日本の株価が大きく動いているのである。
もう一つは偏西風のようにいつも続いて吹く風である。第4次産業革命、人工知能、ビックデータ、ロボットなどである。
・乱気流は何故起こったのかと考えると社会の分断である。格差が非常に広がり社会が分断されるようになったことである。
アメリカの中下流の白人がメキシコから人が入ってきて、仕事を奪われたということである。ビルビリーという言葉が出て
きている。ビルビリーという言葉は取り残された人々ということであり、アメリカでは田舎者ということである。アメリカには
人口の3/4は白人である。白人労働階級をビルビリーと言い、トランプ氏に投票した。6年前にラジャン氏が大断層という
本を書いて、社会の分断が起きていると指摘した。社会が分断されたことから、社会に不安定なことが起こっている。
日本は海外から見ると安定しているように見ている。
3.トランプ大統領
・トランプさんが出てきたが、みんなが心配している。トランプさんは言っていることが統一されていないので、何をするか
分からないということである。トランプさんはフォードの工場移転を止めた。これで800人の労働者が残った。しかし、アメリカ
では毎日7万5千人が仕事を失くしている状況である。メキシコからの輸入に対して25%の関税をかけると言っているが、
そのお金を払うのはアメリカ人である。
・トランプ陣営では3つのグループが争っている。一つは元金融機関の人達であり、現実的な考えをしている。もう
一つのグループは元軍人でこちらも現実的な考えをするメンバーである。もう一つがバロン氏などで、政治的エピソード
を作って次の選挙に勝つということを考えているグループで、何をやるか分からないことである。3つの勢力グループ
の動きを見ておくことが大事である。
・アメリカの最大の貿易相手国はカナダである。次は中国、3番目はメキシコである。アメリカとカナダの間の貿易は
サプライチェーンになっているので、関税をかけるとサプライチェーンがバラバラになると思う。アメリカは3権分立
が厳しくなっており、大統領が変わっても司法、立法は変わらない。予算は議会が立案して、通さないと決まらない。
日本は首相が予算を立案できるところが違っている。移民の制限では司法は既に反乱を起こしている。しかし、軍隊
と安全保障はすべて大統領が握っている。
・北朝鮮の問題は1994年から始まっている。カーター元大統領が北朝鮮に行った時である。北朝鮮が核を開発して
いるということで、揉めはじめたが、北朝鮮を攻めるとソウルに100数十万人が被害を受けると言われていた。その
ため、カーター元大統領が北朝鮮に行って、核開発を止めさせたという時があった。今回は、中国に北朝鮮を抑え
させようとしている。しかし、戦争はちょっとした出会い頭から起こっている。トランプさんは経営者でない。不動産を
安く買って、高く売る人である。トランプさんは総論には興味がなく、すべて各論でやる人だ。
・欧州ではたくさんの選挙がある。特に、注目されるのがドイツの選挙である。ドイツでも移民問題に反対が出ている。
何が起こるか分からないから、乱気流であるので、注意はしておかないといけない。
4.第4次産業革命
・囲碁では人工知能がプロを負かすまでになっている。2015年頃にAIで革新的進歩があった。ディープラーニングが
カナダで考え出された。AIでは機械が自ら学習し、発展していくことが出来るようになった。2015年にインダストリアル
4.0をドイツが宣言した。アメリカとカナダでビックデータが出てきた。しかし、日本は政権交代期で4年くらい遅れた。
・日本はロボットにAIを組み込む技術は潜在的に持っている。AIの発展により、今ある職業の50%くらいが2025年くらい
までになくなると言われている。会計士や融資係も今のような形でなくなり、変わってくると思う。弁護士の仕事は既に
変わっている。凡例の検索などはすべてコンピュータが行ってくれるようになっている。コマツ製作所の会長が面白い
ことを言っている。土地を整地する時、まず、ドローンを飛ばして土地の立体写真を取り、土の盛り方をコンピュータで
計算し、もっと効果的な方法を作成することが出来る。これまで専門家が時間をかけてやっていたのを女性の社員が
3時間くらいで出来るようになったとのことである。自動運転については技術的には色々なことが出来るようになったが、
制度上では人が運転しないといけないことになっているので、実験も出来なくなっている。運転手が不足して問題に
なっているヤマト運輸では高速道路でトラックを5台並べて運行し、先頭だけ人が運転するように計画をしている。
・サンドボックスという言葉がある。サンドボックスは規制の砂場という意味で、試行錯誤を自由に出来るようにすることで
あり、イギリスで金融分野でサンドボックスを出来るようにした。シンガポールも直ぐに同じことをやるようにした。日立と
三菱UFJ銀行が参加している。日本でも金融分野でのフィンテックの検討をしており、今年中には出来るようになる。
5.大化けする企業
・大化けする企業は5つの視点で捉えることが大切である。AI、ロボット、IoT、ビックデータ、シェアリングエコノミーの5つ
である。ビックデータはどのようなものかというと、これまで個人が罹った病気や処方した薬と効いたかなどのデータを
すべて集めて分析すると今後の治療が大きく変わるということである。どこがそのようなデータをすべて集めるのかという
ことである。アマゾンやフェースブックなどは世界上のデータを集めている。エストニアは政府がすべてのデータを集めて
整理した。人口が100数十万人だったので出来た。色々な国が興味を持っている。データを集める司令塔を作ることが
大事である。日本でも議員が持ち寄ってビックデータの司令塔に対する法律を作った。マスコミは興味を示していない。
インドではインフォシスが制度設計をして、急速に進展している。インドではマイナンバーカードは国民12億人の内
11億人が持っている。インドのマイナンバーカードには指紋認証と声紋認証の機能を持っている。そのため、露天商
でもフィンテックが出来るようになった。
・ビックデータを活用してシェリングエコノミーが進んでいる。しかし、既得権を持っている人が抵抗しようとしている。
ウーバーは運転手とお客様の情報を集めて、新しい配車サービスを行っている。タクシー会社は対抗するビジネスと
言っているが、ウーバーは新しいソーシャルネットワークだと言っている。エアビーアンドビーは民泊をやった。日本でも
空き家が出てきているので活用すれば良いと思う。日本では特区でやろうとしている。
第4次産業革命は日本でもチャンスはあると思う。オリンピックは世界の人が見ると思うので、チャンスだと思う。
「一言」久しぶりに、竹中教授のお話を聞いた。やはり、最近の世界の動きが分かり難くなっているということであるが、
乱気流と偏西風の例えで上手く説明していたと思う。今後の動きのポイントになるのが、新技術が中心になる
と説明していたが、新技術が世の中をどのように変えるのかなどは今一つ明確な説明はない感じがした。