世界経済の激変とアベノミックス     東洋大学 竹中教授

   ・世界経済が大きく動いているので、現在の状況について問題提起してみたい。アベノミックスと関連づけて話したい

    と思うが“断層”という言葉を考えて欲しい。米国のラグラム・ラジャンが提唱していたフォールト・ラインズ(断層)を

    提唱していたことが良く理解できると思う。

   ・日本の相続税は最高55%で、世界で最も高い。ドイツでも30%であり、欧州や米国は20%くらいである。相続税は税金

    を払って貯めてきた資産であり、相続税は二重課税の面がある。断層が進めば進む程、このような現象が出てくる。

    額に汗して稼ぐお金は貴重だが、資産で稼ぐお金は良くないという意見があるが、資産は稼いで貯めたお金である。

   ・アベノミックスの第一段階は成功したが、第2段階では地方での断層などで動きが鈍い。アベノミックスは解のない

    問題に取り組んでいるのである。

   ・世界で起きていることを考える時、毎年1月にスイスで開催されているダボス会議で話題になっていることが参考に

    なる。IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は緩やかに回復しているが、中東や中国問題、新興国のスローダウン、

    米国の金利引き上げに伴う影響に注意する必要があると説明している。昨年も同じことを言っていた。経済基調は

    それ程悪くない。中国の問題や中東の問題は半年くらいで解決していく筈はない。中国の最大の問題は統計が信用

    出来ないことである。中国の経済成長率は数年前までは9%だった。昨年は7%であり、今は6.5%経済が成長している

    といっている。しかし、昨年は中国の輸入が15%減少しているとの報告であり、そのように成長しているか疑問がある。

    日本でもGDPの統計が出てくるが1.5ケ月くらいかかる。米国では1ケ月であるが、中国では2週間で出てくる。日本や

    米国ではその後修正される場合が多いが、中国では修正されることはない。

   ・イギリスで何故産業革命が起きたかという理由は、イギリスは法の支配が確立したためである。中国では法の支配が

    確立されていないので、中進国にはなれるが、それ以上にはなれないのである。中進国の罠にはまっている。日本、

    韓国、台湾はそれを突き抜けてきた。しかし、中国の経済は非常に大きくなっている。日本の2.5倍くらいになっている。

    そのため、中国への輸出が最も多かった韓国は大きな影響を受けている。その次に輸出が多い日本も影響を受ける

    と思うべきである。しかし、中国の経済が急速に崩れることはないと思う。日本は独自にきちんとやるべきである。

   ・アメリカはリーマンショックが起きた。その対策として大幅な金融緩和をした。市場のマネーは5倍になった。日本の

    黒田総裁も金融緩和を実施したが、市場のマネーは2倍になったくらいである。そのため、アメリカでは普通に戻し

    いと考えており、昨年、金融緩和を止めて、金利を引き上げた。その結果、アメリカのドルが高くなり、米国の資産

    が上がっている。インフレが起きて、景気が止まる恐れが強くなった。

   ・今年のダボス会議でBRICSと言うのを止めようと言う話が出た。インドの経済は良いが、中国は不安定になっており、

    ロシアやブラジルはマイナス成長になっている。世界の通貨が不安定になっているので、セーフハーバーとして円と

    スイスのフランに資金が逃げ込んでいる。そのため、1ドル120円だったのが、107円と高くなっている。そのため、株

    が下がった。この傾向は半年くらいで治まるとは思えない。先進国の役割が非常に重要になっている。この時期に

    安倍首相がG7の主要国首脳会議の議長になっている。このような状況で消費税の値上げは出来ないと考えている

    人が多いしかし、一度決めた消費税の引き上げ延期で解散するという話が出てきている。保育所問題が出てきて

    いるが、この問題が重要でないというわけではないが、政府財政会議でこのような議論がされているのは残念である

    社会の断層があり、その対策のために、3万円を配る必要が出てきている。

   ・今の株価は1660017000円になっているが、民主党から自民党に政権が移った2012年の株価は9000円だった。

    昨年末までの3年間のアベノミックスは上手くいっていたと思う。株価は2.1倍になった。労働市場も大きく変化した。

    今の日本は完全雇用を実現している。失業率は働く人の事情などもあり3.4%以下にはならないと言われている。

    今の失業率は3.3%であり、一時は3.1%になった。有効求人倍率は全国で1.3倍になり、東京では1.8倍になっている。

    2012の求人率は0.4倍だったので、大きく変わった。人不足になっている。今の日本は稼ごうと思えば仕事はあると

    いう状況であるということだ。機械受注は順調で、需要は多いが、人手不足で機械受注が止まっている状況である。

   ・デフレは困ったものである。ものが下がるので、買ったら損するから、経済は悪くなる。デフレとインフレを判断する時、

    政策的に動くエネルギーと気象変動に影響される食料を除いたコアコアCPIを見る必要がある。5年前のコアコアCPI

    -1%今のコアコアCPI1%である。大きく変わっている。 

   ・アベノミックの第2段階は断層のため、なかなか上手くいっていない。まだ、出来ていないのは財政健全化である。

     財政を健全化させるには、デフレを克服して、経済を発展させることである。社会保障の改革にも手がついていない。

    弱者に対してもっと優しくするように見直すことである。私は今年から年金を貰うようになった。経団連の会長も年金

    を貰っている。本当に必要な人には年金を出すが、高齢者でも年金がなくても生活が出来る人は我慢して貰うこと

    である。問題があることを認識すべきである。

   ・経済を成長させないといけないが、マイナス金と経済成長は大きな関係がある。マイナス金利は欧州やハンガリー

    などですでに実施している。金融関係の人はやったことがないから反対している。ニューヨーク連銀が行った調査で

    貯める人と投資する人のお金が均衡するためにはマイナス金利にすることであるという報告が出ている。今の日本

    では投資の機会を増やすことである。すなわち、規制緩和である。民間投資だけでなく、公共のインフレ投資が不足

    している。例えば、羽田空港への新幹線の乗り入れであり、リニア新幹線の大阪への延長などと色々とあると思う。

   ・成長戦略にはインフラ投資の機会を増やすことが盛り込まれている。コンベンションである。先行しているのは仙台

    空港と関西空港であり、民間に空港の運営を任すことにした。今は金利がいので、新幹線を造って、運営を民間に

    任せればいと思う。大阪市と神奈川県は水道事業の民間委託を検討している。しかし、首長と議会が反対している。

    福岡市では港の運営をコンセッションすることが出来ないか検討している。福岡港には大型の客船が毎日入ってきて

    おり、街までバス100数十台で送り迎えしている状況である。日本の港は元来貨物を前提にしているので、クルーズ

    船にコンセッションを検討している。規制緩和を進める時に首長の腰が引けている。家事支援について、神奈川や

    大阪はやることにしたが、東京はまだ進めると言っていない。

   ・第2ステージになり、選挙の話が出てきている。政権は一回失敗したら終りになる。ワンストライクアウトである。ダブル

    選挙はやるのか。政治家なら必ずやりたいことがある。安倍総理は憲法改正をやりたいと思っている。憲法改正には

    衆参で2/3が必要になる。自民党の参議院議員はダブル選挙を求めている。衆議院選挙では民進党と共産党は手を

    組めなくなる。今はその辺を見計らっている段階であると思う。7月に選挙するとオリンピックまでにもう一度選挙する

   必要が出てくる。東京オリンピックを引っ張ってきたのは、安倍総理の貢献が大きい。各国訪問で必ずお願いしていた。

  「一言」久しぶりに、竹中さんのお話を聞いたが、相変わらず、ハキハキとものを言うので、面白かった。世界の経済が

       混とんとしている中、今後の経済がどうなるか気になっていたが、当分、今とは大きく変わらないということだった。