人を理解するためのロボット学 大阪大学 石黒教授
・ロボットを研究していると人間のことが分かることがある。先日、チリの国会で2週間後に講演して欲しいと言われた。
チリまで行きりの工程を調べると5日間かかるのに、2週間後に来て欲しいと言われたので、私のアンドロイドを
若い技術者に持って行って貰って、遠隔操作で講演を行った。自分が行く時よりも4倍くらい喜ばれた。何故、4倍か
というと、それは若い技術者がエコノミークラスで行ったため旅費が半分くらいに安くなったことと、講演の後、展示
が出来て、アンドロイドを直に見ることが出来たので、4倍くらい喜ばれたのである。
・研究者に一番大事なことは成果が認められることであるが、アンドロイドでは誰が一番アイデンティティを持っている
のかを考えると、石黒本人には石黒のアイデンティティはあるが、皆さんは石黒本人にはそれ程興味を持っていない。
ロボット社会は人間とは何かを考えることだと思う。1000年後はどうなっているか考えてみる。遠い将来にはロボット
社会が出てくると思う。ロボットもアンドロイドだけでなく、色々なかたちのロボットが出てくる。人の生活の中には人に
近いロボットが出てくると思う。人は新しいものが出てくると、それが必要か、必要でないかには関係なく、新しいもの
を求めるものである。それ故、色々なロボットが出てくると思う。何故、人間型ロボットを使うようになるかと言うと、人
は人を認識する脳をもっていることと、人にとって最も関わり易いのが人であることである。家電がしゃべると可笑しい
と思わないかと思うが、既に、炊飯器がしゃべっている。掃除機もしゃべるようになってきた。気持ちが悪い方が人に
近く、受け入れられ易いのである。怪物などに人気があることからも分かると思う。
・情報化社会とロボットを考えると、今はインターネットが出て、クラウドコンピュータにより、大きなデータが処理できる
ようになった。デープラーニングにより、画像や音声認識が出来るようになり、人と関わるロボットが出来たのである。
今、ロボットが流行しているが、ロボットは周期的に出てくる。この前は、アシモ君である。今のデープラーニング技術
は音や画像をテキストに変換するだけであり、アナログ信号をテキストに変換しているだけである。今はテキスト変換
が精度高く出来るようになったことが大きい。近いところでクリアにしゃべれば正しく認識できるようになった。しかし、
認識は出来ない。原理は20年前と同じだが、昔は大きな処理は出来なかったが、クラウドコンピューティングにより処理
できるようになった。それで登場してきたのがPepperだ。安いロボットでゲームみたいなことが出来る。パソコンと同じ
くらいの値段になった。ロボットはパソコンやゲーム機、スマホと同じで、ハードだけでは動かない。ソフトが必要となる
が、そのソフトの費用が出せるようになったことである。おねだりなどの色々なソフトを入れて使って貰うことになる。
ロボットで英語学習は出来ると思う。学生時代に英語を習ったが、なかなか話せない人が多いが、ロボットと対話し
ながらの学習は効果が上がると思う。正しく発音しないとロボットは聞きとってくれないし、ロボットは簡単な会話は
出来るので、英語の学習は上達できると思う。エージェントは小さな画面では駄目だと言われて使われなくなった。
ロボットの場合、2体で会話させることが大事である。2体で会話させると会話が続けられることである。家電の量販店
でお客様に説明させることも出来ると思う。また、待合室で子供の相手をすることも出来る。毎朝、運動をしようとして
も続かないが、ロボットとやると続けられる。
・アンドロイドは安く作ることが出来ない。安くても500万円はかかる。少し、良くしようとすると1億円くらいかかる。ロボット
社会を構成するロボットとしてはパーソナルロボットとアンドロイドがある。ロボット社会を支えるロボット研究について、
私のモチベーションは何かというと、私はロボットはそれ程興味はない。人に興味があるので、人を知るためにロボット
の研究をしている。子どもの頃、“人の気持ちを考えなさい”と言われたが、何を考えるのか、気持ちは見たことがない、
人は何か定義がないなどを考えると、こんな分からないことが大人は分かるのかと思った。しかし、大人になるのは、
ある程度の整合をとるため、思考を停止することだと思った。大人になりたくなかったので、大学に残って、研究した。
・ロボット開発ではロボットを作って人間を知ることが出来る。認知脳科学ではロボット作ってヒントを得ることが出来る。
ロボットによるモデル化により人を知ることが出来るので、HRI研究を創生して、アンドロイドを作成した。無意識的
動作はアンドロイドを非常に人間らしくするが、脳の専門家は不自然さを指摘する。人間は心の状態を保つために、
反射的動作は複雑になる。アンドロイドが人間との類似点が上がると親近感を増してくるが、ある程度まで近づくと、
突然不気味になる。これを不気味な谷と言うが、これを克服して、更に、類似点が上がると親近感が増してくる。
ロボット開発のロボット工学と認知科学を総合的に考える必要がある。
・桂米朝師匠のアンドロイドは非常に人気があり、講演では本人より人気があるのではないかと思う程である。この現象
を考えると、人間の存在は何かと思う。アンドロイドを作ってショーウィンドウに展示した。普通の町中では雑音が多く、
音声認識が使えないので、ショーウィンドウに中でアンドロイドに色々な表情をさせた。アンドロイドが微笑むと見ている
人のほとんどが笑顔になる。人間より美しいとか完璧なアイドルとは何かと考えることがある。美しいとかアイドルは
非人間的になる。アイドルが疲れたり、トイレに行くなどとは考えられない。アンドロイド演劇をした。アンドロイドは人間
と演劇をするのであるが、観客は感動していた。アンドロイドだけが出演する映画も出来た。映画を見た聴衆の全員が
アンドロイドに人の心を感じた。洋服を販売するアンドロイドを作った。洋服を買いに来る人が質問することを整理して、
買いに来た人が聞きたいメモを押すと説明するようにした。それでも説明になり、洋服が売れた。店員では色々と質問
するのは気が引けるが、アンドロイドではどんどん質問するようになる。質問に答える中で褒め続けるようにしたら、店員
が販売するより良く売れた。マツコのアンドロイドで色々な実験をした。面白い実験が出来たが、制作する人が疲れてし
まったので、今は番組は休んでいる。アンドロイドに触ると今話していることが分かるので、マツコさんに実験して貰った。
遠隔操作のアンドロイド“ジェミノイド”も作った。遠隔操作は比較的容易であるが、存在感がある。アンドロイドを遠隔
操作で講義をしたらお金を払わないと言われたことがある。遠隔操作でもきちんと役目を果たしたと考えている。人が
いないと何が違うのか今後考える必要がある。遠隔操作によるアンドロイドでは何が重要かと言うと乗り移ることである。
今後は脳波によりアンドロイドを制御しようとしている。
・人とロボットの関わり方を研究して分かったことは、観察に基づく認識である。ロボットを見た人は、ロボットが人間と
すべてが同じか細かく観察する。それに対して、想像に基づく認識を調べた。声だけによるロボットを作った。声だけに
するとポジジティブに考えるようになることが分かった。見かけを簡素化して特徴をなくすると声だけで認識するようになる。
認知症の人にこのロボットを渡すとずっと喋っている。子供と喋るより、このロボットの方が喜ばれる。声だけだと想像に
より喋るので認知症に効果がある。その内に認知症の人が普通に喋れるようになる。
・人の存在を感じる最低限の条件を探したらハクビーが出来た。頭の部分に携帯電話を入れてハクビーを抱いて喋ると
本当に抱いている気持ちになる。声と触感があれば想像力を引き出すことが出来た。見かけと触感、においと触感、
声と臭いなど、二つのモタイティ?があると人の想像力を引き出すことが出来る。小学1年生を集めて読み聞かせると
なかなか集中しないが、ハクビーを持たせると集中力が上がり、静かに話を聞くようになり、効果があった。人間と人間
の関わりを深く深く考えると色々なことが分かってくる。人が受け入れ易い原理なども分かってくる。
・1000年後の未来がどうなるかということについては時間がなくなったので、これまでとするが、人間は心、意識、豊か
とは何かを考えてこなかったことをロボットを見ながら考えさせられる。ロボットは考える機会を与えてくれると思う。
「感想」以前、石黒教授のロボットの話を聞き、大変興味を持ったので、今回は、お話の内容を丁寧にメモを
取った。70分と比較的ゆっくりと時間を取ってお話をされたので、色々なことが聞けた。また、事前に
石黒教授の研究や講演を見ていたので、かなり良く分かったと感じたが、更に興味を持つようになった。