2017年の日本経済/世界経済の展望
                    ~日本経済は本当に再生するか~       慶応義塾大学 岸博幸教授

 1.これからの日本経済

    ・今の日本で非常に大きな心配事は雇用と社会保障であると思う。

     今の日本の経済成長率はG7の中で最低であることを考えると、日本の経済成長が伸びない理由に外国の問題を上げる

     場合が多いが、国内に問題があると考えるべきである。4月~7月の成長率が2.2%と言っているが、これは今のことであり、

     日本の潜在成長率が0.4とか0.2と非常に低いことが問題である。これでは将来の成長が気になる。   

    ・日本の経済を短期的上げるには、政府が投資をすれば良いが、アベノミックになって、潜在成長率はむしろ下がっており、

     問題である。成長率を上げるには、人口を増やせば良いが、今の日本では無理と思う。人口が増えない場合は人口の減少

     を上回る成長率を上げれば良い。日本の労働生産性は非常に低く、アメリカに比べて半分、欧州に比べると1/3である。この

     ことを考えると、日本の労働生産性を上げる余地があると考えられる。

    ・安倍政権はこの部分が弱い。やる気がある人がやれば良いが、役人は自分の権益を取られる気がして、生産性を上げるのが

     嫌いである。国会や行政もやる気がない。官邸が引っ張っていく必要があるが難しい感じである。

    ・来年は景気は良くなると思う。日本の財政投融資が7兆円出てくるし、米国もトランプ現象で後押しする。再来年はオリンピック

     の前の年で良くなる。その後が心配である。オリンピックの後は経済が悪くなることが多い。2020年からは東京も人口が減る

     見込みである。更に、財政再建が心配になってくる。

    ・人口が減少すれば失業率が良くなるが、給与が上がらない場合がある。非正規の仕事が増えて、低賃金の仕事が増えている。


 .社会保障がもっと心配である

    ・政府の赤字の最大の原因は社会保障である。今年度の歳出は117兆円であるが、その内、社会保障費は30兆円を越えており、

     今後も増えていく見込みである。2025年には団塊の世代が全員が後期高齢者になるので、更に、支出が増える見込みである。

    ・財政再建するには、①経済成長率を上げることである。次が、②財政支出を減らすことであり、最後に、③増税することである。

     安倍政権は財政支出を減らすことはしていない。社会保障を減らすことは国民が嫌がるので、政治家はやりたがらない。

    ・今の水準で財政再建するには、消費税は30%になる。消費税を欧米並みの15%に止めて再建するには、社会保障の水準を30

     引き下げる必要がある。社会保障改革は早期にやる必要があるが、昨年は安倍政権は安全保障関連法案で取り組まなかった。

     今後、安倍政権は憲法関連で、社会保障改革は後回しにすると思う。日本の年金システムは不完全である。


 3.国民はどうするか。

    ・政府は面倒見てくれなくなる。トランプの当選で世の中は不安定になってきた。当たり前のことであるが、自分のことは自分でする。

     家族のことは家族がすることである。自分のことを自分でするということの一つは、自分の収入・仕事は、自分のスキルを上げて

     いき、生産性を上げることである。日本はスキルアップがしにくい国である。企業がon the jobで必要なスキルアップをやってきた。

     ハローワークは初歩的な訓練しかない。欧州では、スキルアップを国が支援しており、失業保険を支払う時は、スキルアップの訓練

     をしており、新しい仕事に就くことが出来るようになっている。今後は、デジタル化が進むと思うので、大きな影響を及ぼすようになる。

    ・2つ目は自分の財産が働くようにすることである。資産も汗をかくことが出来る。日本では資産の50%を現金で持っている。欧米では

     日本より20ポイントくらい少なく、株などで運用している。資産運用の力をつけるには時間がかかるので、焦らず、時間をかけるべき

     である。少しでも良いので、実際に投資をして学んでいくことが重要である。自分が分かっているところに投資をするのが良いが、

     国内のみに限られる。海外のことは良く分からないが、成長は日本より高いので、投資するには適している。そこで、株価指数に

     連動したものが頼りになる。

    ・日本は財政的に厳しくなるので、生産性を上げる必要がある。個人や個々の企業で乗り切れると思う。私はエイベックスの社外取締役

     をしているが、音楽業は非常に厳しくなっている分野である。しかし、AKBやエグザイルなどは順調にいっている。

     社会保障は厳しくなると思うので、自分のとは自分でやるようにすることが重要である。

 
  「一言」証券会社の講演を聞きに行ったが、これからの日本経済の見込みや政府の対応などが簡潔に説明されており、

      分かり易い感じがした。特に、これからは、自分のことは自分でする、家族のことは家族でする ということは納得

      し易い感じだったが、実際、行うことは難しいと思った。