米大統領選後の世界経済、日本への影響 学習院大学 伊藤教授
・アメリカの大統領選挙でトランプさんが次期大統領になると思い始めると、急に株が下がり、円が上がったが、トランプさんが大統領
になるのは、来年の1月だと思うようになると、反動が出て、円は下がり、株は上がった。
・トランプさんが次期大統領に決まると、円や株が大きく動いているが、マクロ政策が大事になる。トランプさんには2つの顔がある。
一つはアメリカ第一主義や減税などの大衆受けする話をするポピリストの面である。もう一つは素人政治家であるため、共和党の
リーダーと一緒にやるしかないと思う。次期大統領に決まった人が選挙中に言っていたことをやらなかったことが多くある。カーター
大統領は韓国から米軍を引き上げると言っていたが、アジアの体制が守れないということで、米軍の韓国からの撤退はやらなかった。
レーガン大統領は2つの中国があり、台湾とも国交を結ぶと言っていたが、中国との関係を考えて、やらなかった。トランプさんの最近
の話を聞いていると、ある種の安心感はあるが、俳優の出身で、政治家としては素人ということでは、レーガン大統領と似ている。
・レーガン大統領は強いアメリカを目指した。このため、減税をやり、軍備費を増やして、赤字になった。その結果、円高になり、金融の
引き締めを行ったので、新興国が破たんした。1985年にはプラザ合意に行きついた。トランプさんの当面の話だけでなく、その動きの
結果を見る必要がある。財政赤字になるとドル高になる。その結果、貿易摩擦が起きる。1990年に起きた貿易摩擦が起きる可能性が
高い。しかし、1990年の貿易摩擦では貿易額は増えてきた。TPPに代わる二国間交渉をすると言っているが、この間に、日本はECとの
話がまとまりかかっている。トランプさんがTPPに代わり、二国間交渉をすると言っているが、日本とオーストラリアの経済連携がまと
まった。この後は、日本とカナダの経済連携が進む可能性が高い。以前、アメリカと韓国の経済連携協定を結んだが、行き詰まり、5年
後にもう一度、経済連携協定を作り直すことになった。日本では、TPPと並行して農協改革が進んでいく状況になっている。
・トランプさんが出てくる前は円高、株安、長期金利の低下というデフレ傾向になっていたが、今は反対の状況になっている。安倍さんが
出てきた時は中国が急成長しており、米国の経済もしっかりしており、ドイツなど欧州も強かったが、今はまわりの国がすべて弱くなって
おり、国際情勢が日本の経済の足を引っ張っている。イエレンさんの任期は2018年まであるので、金融政策は変わらない。金利も早く
上げていくことになると思う。2018年にFCCの総裁が変わるとその後のことは良く分からない。
・長期停滞論には3つある。一つは精神的に行き詰っていること、2つ目は先進国すべてが高齢化していること、3つ目はイノベーションが
弱っていることである。構造的要因が変わっている。トランプさんはインフラ投資により改革すると言っているが、AIによるイノベーション
により、技術革新が急に進んでいる。IoTも重要である。これらの技術はすべての業界を変えていく可能性がある。Fintechやロボットなど
も大きく変わると思われる。Fintechで現金が直ぐなくなるかということは分からないが、色々な変化が起きている。
・新産業構造部会で新しい技術の進歩を検討している。経済産業省は規制が足かせになっているのなら見直そうとしている。今の課題は
企業のやる気の問題である。昨日、工作機械展示会があったが、工作機械の分野でもIoTを取り込まないと駄目になる状況になっている。
情報革命は色々な分野で進んでいる。グーグルやアップルだけではない。血管を外から直接見られるのは網膜だけであるが、これを使う
と色々なことが出来る。
・(Q:金利が上がっていくと株は大丈夫か心配である。)昔、金利を下げ過ぎて、株が暴騰したことがあるが、金融政策はマクロ的な政策で
あるので、一時的に株が上がったり、下がったりすることはある。大事なことは国が発展していくことである。
・(Q:日銀の新しい政策はどう考えれば良いのか。)日銀は9月に、10年物の金利は0近傍にするとか、経済を2%に上げると言った。0近傍
という言葉が難しい。経済が上がってくるまでマイナス金利にすると言っており、物価が2%に上がってくると長期金利の意味はなくなる。
物価が2%に上がってくると国債が下がる。量的緩和を続けることは無理だ。買うものがなくなる。だから、金利へシフトにしたと思う。今は
買う量を調整している。金利が上がると、国債を多く持っている日銀は損を出すことになり困るので、調整が難しいと思う。
・日本は労働不足になっている。大企業の賃金は別にして、労働者の賃金は急速に上がっている。マイナスのものがはがれてくると賃金
も上がってくることになる。経済が大きく変わるかも知れないと思う。今年の春の賃上げが重要であり、3月まで見ていく必要がある。
・原油については需要は継続的にあるので、供給側の違いで価格が高くなっている。原油は少ししたことで反応が大きいが、長期的には
40~50円の低いところで止まっていると思う。
・欧州は警戒的に見て行く必要がある。イギリスの問題は時間がかかると思う。イギリスには通商交渉の専門家がいないので集めている。
欧州の各国ではポピリズムが進んでいるので、政治リスクは大きい。韓国の問題は内容が良く見えないが、大きな問題だと思う。
世界の政治が不安定である。トランプさんのインフラ投資が日本のチャンスになるかも知れない。
「一言」伊藤先生のお話を聞いたが、最近はテーマがどんどん変わってきている感じがした。今回は色々な内容について、お話が聞けた
感じがして面白かったする。この講演の後の講演や対談でも、トランプさんの動きが見えないので、長期的に見るより、短期的に
対応する必要があるということだと思った。