日本経済の展望 学習院大学 伊藤教授 28.9.17
・9月20日、21日の日銀の総括がこれからの金融政策に大きな影響を及ぼすことになると思う。黒田日銀総裁は2度のバズーカー砲で、
長期的に国債を大量に目標を定めて買っている。その結果、円安になり、120円くらいまでいった。今は100円くらいになっているが、
安倍政権当初の80円に比べると円安になっている。今年初めにマイナス金利政策を導入したが、最近になり、色々と議論が出ている。
・黒田日銀総裁の取り組みで、明らかになったことは市場を脅かすことは何度も出来ないということで、そろそろ限界が出ていると思う。
しかし、デフレからの脱却という方向は変えていないと思う。白川前日銀総裁は色々なことはやるが、結果には責任を持たないという
考えだった。日銀は現在行っている金融緩和を長期的に続けることを目指すことになると思う。最近、長期の金利が低くなっており、
これは金融機関にとっては痛いと思う。これ以上、国債を買い続けることは可能かどうかいう状況である。
・菅内閣の時はプライマリーバランスが60兆円くらいであった。今では30兆円くらいに減ってきた。その状況で日銀が国債を買ってきた。
このまま日銀が国債を買い続けると市場に国債がなくなり、市場が死んでしまう恐れがあり、これ以上買い続けることは難しくなった。
質レベルでの金融緩和は国債以外のもの、株など、を買うことである。どこまで金額的にやっていくかであるが、限界がある。
・残っている方法はマイナス金利だけである。低金利を続けていくと金融機関は難しくなる。20日、21日に発表したことを受けてどうする
のかであるが、長期金利が急に上がると、金融機関が持っている国債がき損する恐れがあるので、課題がある。。
・ファイナンシャルタイムのコラムでケンロープがコラムに書いている。欧州が日本のようになっている。長期の経済低迷になるということ
である。日本も日本だということで、デフレに戻っていくと言っている。2008年から8年経ったが、世界中が日本になった感じである。
・安倍内閣は2012年にデフレから脱却すると言った。その頃の中国の経済は順調だった。米国もリーマンショックから脱却しつつあった。
欧州ではギリシャ問題が出てきたが、ドイツが堅調で、フランスや英国も順調だった。日本だけがデフレだったのである。今は世界中が
デフレになった。日本にとっては厳しい環境になった。経済は循環しているので、厳しい中に新しい芽が出てくる。
・アメリカでは、石油がスタフグレーションになっている。ベビーブーマが60歳~70歳になっている。このようなことは歴史上1回もなかった。
日本で何故消費しないかのと聞くと、老後が心配だからと言う。経営者に何故投資しないのかと聞くと、人口が減っているからという。
・リーマンショックから脱却する一番良い方法はイノベーションである。米国は1880年から1980年までの100年間は黄金時代であった。
この100年間には、最初は石油、次が自動車、通信、飛行機と次々とイノベーションがあった。産業構造の変化に伴って起きる成長が
米国を引張ってきた。しかし、35年間この成長が低くなっている。TFP(全要素生産性)と言って全要素生産のうち、労働や資本と言った
生産要素の増加で説明できないものの増加を計測したものであり、技術進歩の進捗率を示すものと言われている。
・日本は10年遅れて米国と同じようになっている。日本で伸びてきたインターネットやパソコンは経済を大きく成長させていない状況である。
1990年にバブルが崩壊して失われた10年とか20年と言われてきた。今後、10年後には失われた30年、20年後には失われた40年に
なったと言われそうである。しかし、人口知能のAIやIoTが新しい時代を生み出そうとしている。
・先進国が駄目でも世界経済が成長することが出来た。先進国が新興国に投資をして、成長させることで、世界の経済が成長できた。
現在は、新興国の成長が止まっている。9月11日のテロの後、3ケ月でリーマンショックが起きた。リーマンショックの時、ゴールドマン
サックスがBRICsを提唱した。2004年から2008年までは成長したが、投資が行き過ぎたため、2012年頃に成長が止まった。BRICs
が伸びたのは、先進国のお金がジャブジャブだったので、資金が新興国に流れた。長い目で見ると先進国のお金が新興国に流れて、
新興国を成長させることは良いことである。当面はチャイナショックが問題である。新興国の政治が安定してくると成長をもたらすか
どうかであり、そのサイクルが生まれることが重要である。
・日本ではアベノミックスの成果がそれなりに成果を上げた。日経平均も8千円から2万円まで上がり、今は1万6千円になっている。円も
1ドル80円だったが、120円まで円安になり、今は100円くらいになっている。安倍内閣発足時に比べ、株も上がり、円も安くなっている。
企業の収益が急速に上がり、高い水準になっている。労働力についても失業率が大幅に減った。しかし、消費と投資が動いていない。
学生には五右衛門風呂経済と言っている。五右衛門風呂は金属で作るので、燃やすと水が温かくなる。どんどん燃やして風呂釜は熱く
なったが、風呂の水はまだ温まていない状況である。
・経済は常識を裏切ってきた。黒田日銀総裁は豊臣秀吉のように、“鳴かぬなら鳴かせてみせよう不如帰”のような金融政策をしている。
黒田総裁は金融緩和の状態をどこまで維持していくのかを考えていると思う。物価は上がらないだろうと思っているが、それでも考えて
欲しい。物価が上がってきたのに、石油が下がってきたため、物価の上昇が止まった。しかし、石油も下げ止まってきた。GDPデフレーター
は上がっている。(GDPデフレーターは名目GDPが実質GDPの何倍になるか求めたもの。)消費物価のみを見ているとおかしくなる。
名目GDPがどんどん下がってきた。財政が問題である。消費税を10%にするのを遅らせた。これを分かり易く言うと減税である。更に、
追加の財政を出してきた。これを見ていると、日本の転換点にきているのかも知れないと思う。日本では原発を止めてきたので、石油と
ガスに依存してきた。石油が100円だったのが、30円近くに下がっている。中長期的に見ると半分になったということになる。
消費税でみると5%くらい下げたことになる。石油の価格低下は先進国にとっては大きな恩恵である。短期的にはマイナスの面が出るが、
中長期的にはプラスになる。
・安倍内閣で成長戦略が上手くいっていないと言われているが、政権が6年間も続いている。そのため、数年間で大きく変わっている。
農業や観光で大きく変化している。コーポレートガバナンスも進んでいる。女性の活躍も動いている。世耕大臣がロシア担当になったが、
このように特定の国を担当する大臣は初めてであり、大きく動き始めている。
・3つの大きな変化が起きている。雇用については、加藤大臣が働き方担当大臣であり、非正規社員の不足で賃金が上がっている。この
ままいくと毎年、中小企業の賃金は3%lくらい上がると思う。非正規写真と正規社員の賃金の差が少なると、働き方が大きく変わってくる。
労働市場の賃金が上がることがポイントである。労働時間を短縮することが生産性の向上につながり、大きな転機となると思う。
・国際化については、技術革新が本格的に動き出した。今の世界のサーバの電力使用量は日本全体の電力使用量より多い。AIもどんどん
進んでいる。金融分野ではフィンテックで大きく変わっており、医療はバイオ、介護はロボットが進んでいる。労働市場も短時間での労働が
多彩な働き方を実現しようとしている。この技術革新が動くと経済構造が大きく変わる。
→今は夜明けの前が最も暗いかも知れないという状況なのかもしれないと思う。
「一言」伊藤先生のお話を久しぶりに聞いた。安倍政権のサポータ7として、安倍政権の成果を丁寧に説明しているが、これから大きく
変わるとのことであった。特に、新しい技術革新が色々と出ており、産業界を大きく変える可能性があるとのことであった。