これからのビジネスを取り巻く経済動向とIT戦略         慶応大学  岸博幸教授

 1.日本経済の現状

   ・今日集まっているのは関東エリアの企業の人といているので、景気は大分良くなったと感じていると思う。今の日本では、大都市と大企業は

    良くなって
いるが、地方の中小企業はまったく良くなっていない。地方の経済が良くなるには時間がかかるので、地方の中小企業には頑張って

    欲しいと思っている。

   ・金融緩和でデフレ脱却では良くなっているが、日本経済はデフレ以外に、経済が成長しなくなっていることが問題である。デフレについては解決

   しつつある。
原油安のために物価が高くなっていないが、いつまでも原油安は続かないと思う。

   ・経済学で言うと、短期的に経済が伸びるには需要と供給の関係で需要が拡大する必要があり、金融緩和と財政出動は需要を増やすことに効果

    がある。
長期的に、日本経済が成長するには、供給量がどれだけ増えるかにかかっており、そのため、人口がどれだけ増えるかと資本ストック

    がどれだけ
増えるかによる。第3番目は生産性がどれだけ上がっているのかにかかっている。日本経済の長期的な成長もこの3つの要因によって

    決まってくる。日本
の人口はすでに減っている。移民もなかなか上手くいかない。人口が減っていると資本設備も増えていかない。そうなると生産

    性を上げていくしかない。

   ・日本の生産性について、経済全体ではアメリカの半分である。労働生産性はドイツなどの欧州の先進国の2/3と低い。生産性の上げしろはまだ

    あると思う。
生産性の向上は色々なところに影響を与える。地方の活性についても生産性を上げるしかない。都市に比べて地方の生産性は低い。

    安倍政権では賃上
げに取り組んだが、賃上げは政治ではなく、生産性を上げる必要がある。安倍政権の経済運営は短期的な需要拡大について

    は成功しているが、短期的
なものである。このままでは、来年くらいからまた下がってしまう。それに対するものが成長戦略である。これまでの成長

    戦略は大学の評価で言うと落第
である。霞が関では2つの考えがある。1つは経済産業省が進めてきた産業政策であり、もう一つが構造改革で

    ある。構造改革では、規制改革をやろうと
言っている。地方分権しようとか、民間に自由にやらそうという考えであり、産業政策とはまったく逆のこと

    である。


 2.日本経済の成長 : イノベーションを起す

   ・日本経済を成長させるには、構造改革を中心に行う必要があるが、その入り口で産業政策を行うことになる。これまでは産業政策だけになって

    しまった。
日本の企業が力を持っているが、産業政策が手足を縛っている。来月出てくる成長戦略が構造改革がメインになっているかどうかが

    ポイントである。

   ・今の検討状況を見ていると成長戦略の目玉がまだ出てきていない。農業改革でも本丸は農地解放だが、農協改革がメインになっている。労働改革

    でも
本丸は同一労働同一賃金の筈だが、経団連や大企業は反対している。安倍総理、菅官房長官はもっと構造改革をやりたいと思っているが、

    忙し過ぎる。
総理や官房長官に代わる経済運営のリーダーは誰もいない。今の自民党は選挙に勝ってから変えようとしなくなった。官庁には変え

    ようと思う人はいない。

   ・問題なのは政権・政府だけでない。短期的に景気を良く出来るのは政府であるが、長期的に生産性を上げられるのは政府だけでなく、民間、地方

    にも
責任がある。民間や地方が生産性を上げるにはイノベーションを作り出すことである。生産性を上げるには2つの方法がある。一つは今まで

    作ってきた
ものをもっとはやく作ることである。もう一つは付加価値を上げることである。同じものを作っても付加価値を上げれば良い。日本では

    イノベーションは
技術革新と言われているが、ビジネスイノベーションもある。日本の技術イノベーションは世界5位であり、頑張っている。ビジネス

    イノベーションについて
は数値的なものはないがあまり高くない。ソニーも昔はテープレコーダーを外国から持ってきてウォークマンを作るようにして、

    イノベーションを起こして
いたが、今はソニーに新しいものは出てこない。担当していることで日本の色々なところを見ていると、日本のイノベーション

     の力は衰えていないと思う。

   ・今、担当している音楽業界は昔に比べて大きく落ち込んでいる。しかし、音楽業界の一部ではイノベーションを起こしているところもある。SNS等に

    取り
組んでいるところは伸びている。AKBはネットでコピーできないものを取り入れており、握手会や総選挙などに積極的に取り組んでいる。また、

    AKB本拠をオタクの秋葉原にした。オタクはお金に糸目をつけないところがある。AKB総選挙でオタクの競争力を煽っている。AKBのメンバーは

    
48人もいる。進化論的には成功している。きゃりぱみゅぱみゅや一人カラオケや高齢者向けカラオケなどを作り出しているカラオケ業界でもビジ

    ネスイノベーション
を起こしている。民間・地方もしっかりやっていれば大丈夫だと思う。


 3.日本企業の現場力

   ・ここ20年くらいは日本経済はダメダメでした。戦後70周年という70年で見ればすごいことをやった。これだけ低迷していてもGDPで世界3位になって

    いる。
何が日本経済は強いのか。政治家は利権のみであり、官僚も大したことはない。民間・地方の底力が強いことである。日本の現場の強さは

    今に始まった
ことではなく、昔からである。種子島の鉄砲伝来では、1年後には種子島の刀鍛冶が鉄砲を作った。その後、10年では全国の刀鍛冶

    が鉄砲を作るように
なった。織田信長が鉄砲隊を作って戦をするようになった。しかし、ヨーロッパでは500丁の鉄砲隊を作るのが精一杯の状況

    あった。海外の美術館に
行くと日本の火縄銃を展示していることがある。日本の鉄砲が海外に出て行ていったことが分かる。4年前の東北大震災

    の状況を見ると変わっていない。
震災後4ケ月で多くの工場が稼働し始めている。工場の現場の人が頑張った結果である。国の支援などはほとんど

    出来ていない。大企業や都市では
イノベーションを起こしていない状況である。どんな田舎でも、中小企業でもイノベーションは出来ると思うが、やる

    かどうかである。それをやるには
ICTが大事と思っている。日本のICT投資はアメリカに比べて低い。特に、中小企業は投資出来ていない。今は、

    後発のメリットを生かす良い機会だと思う。

   ・スマートフォンは2007年に、タブレットは2010年に出てきた。クラウドやビックデータを使うことが当たり前になっている。3Dプリンタよりもロボットや

    センサ
の導入が進んでいる。ここ10年くらいで、ICTは価格が安くなったので、今こそ中小企業でICTを導入して効果を上げることが出来るように

    なったと思う。
アメリカのICTビジネスはアメリカのやり方であり、自分のやり方を押し付けている。日本のICT企業は日本のやり方の方が世の中に

    受け入れられると思う。
技術イノベーションだけでなく、ビジネスイノベーションに取り組んで欲しいと思う。最近、ビジネスイノベーションを最も多く

    起こしたのはコンビニ業界で
ある。定価販売、公共料金の受入れ、銀行業務など次々と新しい取組みをしてきている。もう一つは風俗業界である。

   ・民間と地方が現場力を生かし、ICTを活用することで、イノベーションを起し、日本経済を成長させていくことが重要だと考えており、実現できると思う。

 「感想」岸さんのお話を聞いたのは初めてだと思うが、自分としては何となく分かり易いお話だった。特に、生産性を上げることが二本では不可欠だ

     ということには納得出来た。