統合タスク「ロボットは東大に入れるか」の意味と意義     国立情報研究所 新井紀子センター長

 1.プロジェクトの立上げ

    ・2011年に「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを発足した。2010年にコンピュータが仕事を奪うという本を書いた。しかし、当時は人工知能に

     対する認識最も低い時期で、「コンピュータが仕事を奪う」は書店でもコンピューター書の場所に置かれていて、注目を浴びなかった。これ

     必ず起こる未来なのに、政治家もビジネスマンも誰もそのことを認識していないことに強い危機感を覚えた。世の中の人に重要性を認識して

     貰う必要があると考えて、プロジェクトを立上げた。プロジェクトを立上げたいと相談したら、本当にロボットが東大に入れると思っているか聞か

     れたので、個人的にはロボットが東大に入れるとは思っていないが、人工知能の能力と試験の制度について研究するということで了承された。

    ・結果的には、2021年にはロボットは東大には入れないが、2013年にはどこかの大学には入れるようになると思う。


 2.ビックデータと機械学習

    ・講演を聞きに来られている人に聞くと、ロボットが東大に入れるようになると答える人が多いが、ビックデータと機械学習の2つについて素人だと

     考えている。大学入試に関連するデータは、すべて合わせて2Gバイトしかなく、ビッグデータではないまた、チューリングマシン理論よると、

     機械学習で成果を上げるには100万個の問題を使ってトレーニングする必要がある。トレーニングは、英語の発音問題など分野毎に必要であり、

     そういった問題を100万個も集めるのは不可能である。Deep Learningとシンギュラリティよりも、機械学習の精度を上げる方が重要である

    ・数学の問題は論理と統計だけである。ロボットがホワイトカラーの仕事を奪うことが大きな問題だと思っている。東大入試を将棋のプロの延長線

     上にあると考えている人が多い。3000人以上入学する東大よりも、将棋のプロになることが難しいと考えている。最近はロボットが将棋のプロを

     負かすようになってきたので、ロボットは東大の入試に合格するようになる
と考えている人が多い。


 3.犬と猫の違い

    ・犬と猫の違いを見分けることが出来るかということで、二つの写真を並べると人は直ぐに見分けられる。耳が立っているかそうでないかとか、目

     がまん丸で瞳孔が縦に開いているかとか、色々と違いを分析してロボットは答えを出す。多次元的に分析するが、その結果の意味はない。統計

     的手法では、意味は考えないし、正確さも問わないし、保証もしない。しかし、結構正しいので、利用する。この考えに従って、文章の問題を解いて

     いる。そのため、現代国語の傍線部の問題は難しい。の認識技術は文の意味は分かっていないが、出てくるビットの癖を見抜いている。機械

     学習とビックデータは後ろのメッシュを細かくすると当たるようになる。予測はできないが、起き始めたことはいち早く認識することは出来る。


 4.東大プロジェクトの現状

    ・東ロボプロジェクトは、ビッグデータや機械学習によって実現されるものではない。小さなデータと間違いのないデータからピリッと辛いよう

     ものをやっている。国語は意味が分からなければ解けないので、マシンが理解できる機械翻訳をする。現在の東大プロジェクトの出来具合

     は偏差値50くらいになる。私立なら約8割の学校に入学できるとある予備校が認めている。


 5
ゼロ年代の日米ロボットに違い

    ・日本のロボットは、世界に類をみない高度な要素技術を使い、 ロボット・AIの無限の可能性に挑戦していた。そのため、 コストは高止まりした。

     一方非構造化環境下では機能しなかった。 人の夢を叶える人間中心のロボットであった。

    ・米国のロボットは、比較的単純な要素技術を使い、 ロボット・AIの限界を見定めた機械中心のビジネスモデルを考えてきた。機械に有利

     こと機械にさせて、機械に不可能なことは人間がやるというロボットバリアフリーなビジネス設計をして、ロボットAIが能力を発揮するよう

     環境で使ってきた


 6
.今後の仕事について

    ・ロボットが東大に入れれば、あらゆる人の仕事が脅かされ、誰もが失業するということになる。しかしロボットが入れる大学がある程度のレベル

     に留まるのであれば、「高度な知識処理ができる人は失業しないが、ホワイトカラー仕事はロボットに奪われることが出てくる。つまり東大

     プロジェクトのロボットの成績は、多くの人の仕事の未来を示す目安なる。実際に、どのような仕事がなくなる可能性が高いのかというと、

     銀行の融資担当者の仕事がなくなる可能性が高い。ドラマ「半沢直樹」で話題になった職種だが、お金の出入りがすべて分かれば、融資リスク

     は全て数式で判断できるようになるため、人が関与する必要がなくなるというのがその理由である。

    今後、人工知能は着実に進化すると思うが、30年間で教育が大きく変わらないと思うので、ホワイトカラーの仕事がロボットに奪われることに

    なる恐れがあると思う。


 
「感想」ロボットと人工知能に対する考え方が面白いと思った。東大の入試という能力のレベルを図る方法と人工知能の能力をどのように考えるか

      について、大事なことを良く検討している感じがした。仕事を行うために必要な能力についても一つの切り口を整理しようとしていることは

      将来の仕事を考える上で大事なことだと思った。特に、教育をどのように変えていく必要があるか検討しなければならないと思う。