経営者が身につけるべき「変革の知性」とは何か     
                −「7つの知性」が求められる時代−                 多摩大 田坂教授

 1ダボス会議に出席して

     ・ダボス会議に行くと、各国の大統領や政治家、経営者に直接接することが出来るために、毎年行っている。

      大物といわれる人に直接接すると強く感じるものがある。今では日本では死語になっている胆力があると思う。

     ・現在も記憶に残っているのはサッチャー首相である。ある会議で質疑があり、日本の経営者が日本の景気が

      低迷しているが、サッチャー首相なら何をするかと質問した。質問する時の態度がいい加減な態度だった。

      サッチャー首相は政治にマジックはないと回答し、その次の質問と言って打ち切った。質問の内容より、質問

      する時の態度から出てくるものが多い。また、答える時の態度から出てくるものに凄いものを感じた。

      大物の政治家や経営者は日々、真剣に取り組んでいるのである。まさに、知性がある。本当の知性は目の前

      の現実を変えられるどうかである。

     ・マルクスの墓碑に書いていることが印象に残っている。その言葉は、「哲学者は世界をただ色々と解釈しただけ

      だが、大切なことは世界を変革することである。」 言葉は話す人により大きく変わる。その人の奥深さに 行間

      の内容が出てきて、変わってくる。ダボス会議に行くと、人生一生修行だなと思った。


 2知性とは

     ・知性につては誤解されることが多い。知性と知能は違う。知能は答えのある問いに対し早く辿りつく能力である。

      知能があの良いことではあるが、知性とは全く逆の言葉である。知性は答えのない問いに対するものである。

     ・会社では答えのないことが多く、色々と考えても答えが出ない時は直観で決めている。イノバーションについて

      も、同じで、直ぐ出てくるものではなく、寝ずに考え抜いて、ふと出てくるものである。知性と知識も間違い易い。

      知識は物知りであるが、知性の本質は言葉に表せる知識ではなく、言葉に表せない智恵である。

     ・知性は、思想、ビジョン、志、戦略、戦術、技術、人間力の7つのレベルの知性を統合したものである。戦略を

      考える時、戦術を一緒に考えられない人が多い。戦術には想像力が必要である。人間力を磨いている人は先に

      大きく伸びる。志や使命感の強い人が語る中には言霊(ことだま)が宿っていると思う。

     ・経営者が大成するには、戦争、大病、投獄を経験していることであると言われている。日本では、ここ70年戦争

      のなかった珍しい国である。死生観をしっかりと持つことは大事である。ある会社が非常時になり、会社が倒産

      する恐れが出た時、経営者が、会社がなくなっても、命までは取られないと言ったことに感銘したことがある。

     ・経営者は部下や社員の人生を預かっているのだから、必死に頑張る必要がある。営業は下座の業と思えば、

      磨かれる。この考えを持つ日本の経営は、宗教的に奥行きのある資本主義である。働くとは、はたを楽にすると

      言われてきた。この考え方で仕事とをしている日本の社会は面白い。

      経営者は辛い時に育てられた。だから、他人の辛さを分かるのである。


 37つの知性

  (1)思想   第1の知性は思想である。思想とは、自分の業界がどのように変わるかの考えを持っていることである。

     マスコミなどの報道は後追いの解釈である。大局観を学ぶには思想が必要である。ヘーベルの弁証法が参考に

     なる。物事はラセン階段のように発展している。らせん階段を上がっている人を、上から見ると回っているように

     見えるが、横から見ると上がっている。古いものが復活してくるが、レベルは上がっているのである。昔は変化が

     遅かったので、上がっていることのみを見れば良かったが、変化が早くなったので、経営者は先を予見すること

     が一層大事になっている。そのため、経営者は自分の業界がどのように変化するか考える必要がある。

  (2)ビジョン 第2の知性はビジョンである。ビジョンとは、会社の変化の大局観に立って、何を実現するかということで

     ある。時代の変化の中で、変化を実現することがポイントになる。経済原理では、昔のことが復活している。

     貨幣経済より以前は交換の経済であった。更に、昔はものを上げる(譲与)の経済であった。貨幣は目に見える

     から、日が当たるが、ボランタリー経済が復活している感じが強い。

    ・先輩から受けた恩は後輩に返してやれと言われる。また、日本には、お陰さまとかお互いさまという考えがある。

     インターネット革命ではボランタリー経済の革命である。Googleの検索などは無料で利用しており、付加的に

     広告を出して、儲けている状況である。インターネットでは、無償のボランタリー的な機能が多くなっている。

    ・日本型経営は、@本業を通じて社会に貢献する、A利益は社会貢献の結果である、B利益は、更に社会貢献

     するために活用せよ、という考えである。欧米はプロフィットとノンプロフィットと明確に変えているので根本が違う。

     日本型経営や日本型資本主義が復活する時代が来ていると思う。

     現在は、ボランタリー経済とマネタリー経済の融合が急速に進んでいるので、会社のビジョンが大事になる。

  (3)志  第3の知性は志である。志と野望は区別すべきである。野望は己一代に成し遂げようとすることであり、志は

     一代では成し遂げられないが、後につないでいくことである。野望を実現するには、社員がボロボロになって

     しまうことがあるが、志を目指すには、次世代に託すために、社員を大事にして、豊かにする必要がある。

  (4)戦略  第4の知性は戦略である。戦略とは、字の如く、戦いを略(はぶく)ことである。どのような戦略にも、社員の

     人生がかかっていることを考えると、戦いは避けるべきである。戦略は、市場の変化を追い風にすることが大事で

     ある。ネット革命がもたらしたボランタリー経済とマネタリー経済が融合した市場への進化が求められる。

    ・志や使命感を抱くと、知識や信頼、文化など目に見えない色々な資本が集まってくる。これが重要な戦略である。

  (5)戦術  第5の知性は戦術である。戦術では固有名詞が出てくるため、具体的なシュミレーションが必要になる。

    ・経営の現場では戦術が非常に大事になる。戦術を考える時に壁にぶつかる場合が多い。そのため、戦術と戦略

     を一体的に考える必要があり、想像力が要求される。

     ・私が若い時、営業を担当していたが、顧客営業では前後で、シュミレーションと反省を行っている。お客様の一声

      や小さな動きを逃がさず、営業をしてきた。お客様指向の営業では大事である。反省力ももう一つの知性である。

  (6)技術  第6の知性は技術である。技術の本質は言葉で表せる知識ではなく、言葉で表せない智恵ある。

     ・企画力やプレゼン力、交渉力、営業力、プロジェクトマネージメント力など、すべて智恵ある。昔は先輩や上司

      から教えられて、引き継いできたが、今は上手くいっていない場合が多い。

  (7)人間力  第7の知性は人間力である。パーソナリティは最高の戦略である。今の若い人はスキルだけを身につける。

     ・人間力を磨くには、人間を磨くという修行が始まる。日本には、心構えとか心の置きどころは感謝の気持ちがある


 421世紀の経営者がめざすべき人間像

   ・人間、社会、自然に対する「深い思想」を学び、深い思想に裏打ちされた「未来のビジョン」を語り、より良き未来を切り

    拓くための「高い志」を抱き、高き志を実現するための「大胆な戦術」を描き、大胆な戦略を展開するための「創造的な

    戦術」を立て、創造的な戦術を実行するための「高度な技術」を身につけ、多くの人々が周りに集まってくれる「人間 

    力」を磨く経営者を目指すべきである。

   ・一回限りの人生なので、どこまで磨いていけるか、それを以って人生の喜びといえるかが大事になる。

 「感想」経営者が身につけるべき知性について、細かく説明して頂けた。知性を中心に良く整理され定類感じであった。
      特に、大物の政治家や経営者に会うと、身体が大きくなくても存在感はあり、強く感じるものがあるということは
      私も感じることがあるので、面白いと思った。、