経済環境の変化と企業経営 東京大学 伊藤教授
1.世界の経済
・最近は経済が大きく動いているが、どう見たら良いか。今は10年か20年の大きな転換期に来ていると思う。BRICsが終わったということだと
考えている。以前、BRICsは世界のGDPの20%くらいしかなかったが、急速に成長して世界の35%くらいまで伸びてきた。そのため、今後は
新興国の時代という誤った考え方が広がってきた。新興国はある時期にくると、経済が大きく伸びるが、その後、クラッシュしていく特徴がある。
2000年以降、BRICsが伸びてきたが、リーマンショック以降に、ブラジルとロシアが脱落した。しかし、中国はその後も伸びてきた。リーマン
以降、中国は輸出型から資本型に移行した。57兆円を使って、道路などのインフラ投資を行い、仕事を増やし、経済を引っ張ろうとした。その
結果、GDPは大きく伸びた。投資で経済を引っ張ろうとすると非常に難しい。その結果、消費を伸ばさないといけないということに気がついた。
消費を伸ばすのでは成長率が下がるので、ニューノーマルということを言い出した。その結果、成長が下がってきた。サービス産業は製造業
より高い給与が貰えるので、これが成長するかどうかだが、なかなか上手くいっていない。サービス産業が成長するには、国有企業から民営化
が進むかどうかがポイントになる。消費を増やすため、アクセルをふかし過ぎたので、バブルが起こった。共産主義だから何とかなるだろうという
ことで、マーケットを政府が押さえつけてきた。世界のマーケットがこれを見透かしてきた。中国だけの問題で終わるかどうかであるが、世界が
動揺してバタバタすると心配だ。
・新興国バブルが終焉しようとしている時に、アメリカが金利を上げようとしている。アメリカの経済はここ10年近く順調にいっている。そのため、
アメリカは金利を上げようとしているが、アメリカが金利を上げると新興国からお金が出ていくことになる。新興国が更に傷んでくると問題は
大きくなる。急速に成長してきた韓国の経済も見ておく必要がある。中国がニューノーマルにシフトすることは悪いことではない。中国すべてが
悪い状況ではない。中国のITがらみのものは、まだ伸びてくる。中国のIT分野には良い人材が集まっている。昨日今日の株価の動きを見ると
グローバルな大きな動きはない感じである。
2.アベノミックス
・アベノミックスは曲がり角に来ている。10年〜20年続いたデフレと不況に戻ることはない。日銀が長期国債を大量に買った。日銀が長期国債を
売ると国債が急落することになるので、長期に売れない国債を日銀が持つことでデフレに戻らないようにした。その結果、株が8千円台から2万円
に上り、企業収益は40%上がった。失業も人手不足という状況までに回復した。国の収入も20〜25%も増えた。これ以上のマクロ経済政策は
ないという程、実施しても、経済は良くならない。五右衛門風呂と同じだと言っている。火は燃やして、風呂釜は非常に熱くなっているのに、水が
暖まらないという状況である。日本経済はデフレマインドに浸かっているので、金融政策を打って出た。名目金利は0.5%に下がっている。消費者
物価上昇率は1%を超えている。実質金利はマイナスになっている。秋以降、賃金と物価は上がると思っている。黒田日銀総裁は物価上昇を2%
に持っていきたいと言っている。名目金利が大きく変わらないと、実質金利はマイナス1.5%になる。日本人の大半は預金で持っているので、損を
するのは、国民ではないかというアメリカの学者がいる。日本企業は膨大な手持ち資金を持っている。デフレなら、そのまま持っていれば良いが、
物価が上がれば、投資や賃上げ、配当などのキャッシュアウトをしなければならなくなる。
・政府は本当に投資が増えるか考えている。企業は日本の人口が減っているので、国内への投資は抑えて、海外に投資している。政府はここを
見ている。大きな問題として人材不足が出ているので、企業がどう動くかがポイントななる。昔のバブル期には、社員を減らすため、企業が大きな
投資をした時期がある。今後、日本の人口は50万人とか100万人が減っていくという状況であるが、現在でも、65歳以下の人は120万人も減少
している。今は、団塊の世代の人を使ってなんとかしているが、今後はそのようなことでは行き詰るほど、深刻なことになっている。その結果、
賃金が上がる。特に、非正規労働者の賃金が急速に上がる。生産性が上げられなくなると企業は回らなくなる。1〜2割の企業が脱落すること
になる。残った企業が必死になって生産性を上げるので、国全体としては伸びるかも知れない。企業がその方向に投資するようになるのでは
ないかと考えている。トヨタの役員と話すと1人の人を減らすためには4千万円するという話を聞いたことがある。ITやロボットに投資するチャンス
でありこのような後押しを政府がするようになると考えている。
3.ICTへの投資と活用
・IT関係の分野が重要になっている。経済産業省の中に“稼ぐ力”という会議がある。伊藤教授は座長と担当している。日本の企業は稼ぐ力が
落ちている。その理由は大きな構造変化に乗り遅れたためである。労働者不足、グローバル化、ICT革命の分野が特に遅れている。IT化に
ついて、アメリカの企業は7%が対応できていないというのに対して、日本は70%が対応できていないと言っている。労働不足に対しては、産業
構造そのものを変えていく必要があると考えている。投資の分野でもネットでの売買が主流になっている。保険もICT化を駆使していくようになる。
小売企業でもICTを活用している企業とそうでない企業では数十倍くらい生産性が違っている。2005年頃に情報通信は伸びないだろうという
大きな誤りをした。人間が作ったコンテンツでは人間が増えないので、情報通信は伸びないと言った。しかし、人間が関与しない情報が増えて
いる。監視カメラやモノが情報を処理するようになっている。
・アメリカのターゲットいうチェーンストアがある。赤ちゃんの用品は良い商売になる。赤ちゃんがどこで産まれるかが分かると商売に役に立つ。
妊婦の行動パターンを見れば妊婦がいるかどうか、いつ頃産まれるかが分かった。今迄の流通の専門家でない人達が、この行動パターンを
見つけて役立てている。すべてがIoTにつながると既存の企業もプラットフォームが大きく変わるのではないか。すべての企業が考えないといけ
ないが、攻めと守りの両方が必要になる。日本の経済を活性化するために、ITをどう使っていくかである。
「感想」久しぶりに伊藤教授のお話を聞き、楽しかった。最近の経済の動きやBRICsの経済成長の低下などなる程と思うことが多かった。
これから人手不足になるので、ICTを積極的に活用して、生産性を上げる必要があるということは尤もだと思った。