社会イノベーション 〜成長する企業と衰退する企業〜          慶応大学   夏目教授

1.日本の低迷の原因

  ・日本の経済は過去20年間で2%しか成長していないが、アメリカはこの間に200%成長して、経済規模は3倍になった。日本の人口は変わらないが、

   アメリカは40%増えている。それでも経済規模を3にするには、アメリカでの一人当たりの生産性が上がったということであり、それはITの活用に

   よるものであると考えている。日本のホワイトカラーとサービス産業の生産性が低い。日本でもITは活用しているが、生産性にこれ程、大きく差が

   出てきたのは、そもそもITの考え方が間違っていたのではないかと思う。

  ・21世紀に3つのIT革命が進行している。1999年にドコモがiモードをサービス開始した。2000年頃には日本はインターネットで色々なことが出来るよう

   になった。2001年にソフトバンクがADSL活用を爆発的に拡げていった。2000年頃には日本でもインターネットの利用は進んでいたが、IT革命の

   意味を知らなかったということである。


2.3つのIT革命

  ・第1の革命は効率革命である。ビジネスのフロントラインがネットに展開されて、顧客との接点が大きく変化した。また、リアル市場とネット市場が組み

   合わせることが出来るようになった。アメリカではネット活用をやってみてルールを作って成功したが、日本にファイル交換ソフトを作った人がいる

   が、
逮捕されてしまった。日本では選挙でWeb更新することが、公選法に抵触することになっているが、アメリカではオバマ大統領はインターネット

   で
大統領になった。

  ・第2の革命は検索革命である。アメリカではグーグルが出てきて急成長し、日本の大企業を越えるまでになった。20世紀と21世紀の違いは、個人の

   情報収集能力が飛躍的に拡大したことである。これまでは組織の中に入らないと情報を取ることが出来なかったが、では簡単に色々な情報を手

   に入れることが出来るようになった。このため、社員研修や社内研修が意味を持たなくなった。

  ・研究・開発プロセス革命が起きており、どんどんキャッチアップできるようになった。俄か専門家を量産するシステムが出来上がった。個人に意欲が

   あれば、どんどん専門性を上げていくことが出来るようになった。家からアクセスできるし、英語で検索すると日本語の10倍以上情報が出てくる。

   米国の授業ではティーチングでは良いものが一杯出ているので、ティーチングは止めて、コーチングに徹底したところがある。授業でも検索しても

   良いが、引用は
3つまでということで、自分で組み立てないといけないという指導をしている。このような変化に合わせて、経営のシステムをどのよう

   に変えるか、教育システムをどう変えるか考えないといけないが、日本では変わっていない。
 

  ・第3の革命はソーシャル革命である。個人の情報発信能力が飛躍的に拡大している。ツィターやフェースブックで共振が生まれ、おおきなうねりと

   なっている。社員の気づきがあるから企業は成長している。社会でも気づきが発信されている。昔の数学的な発見や物理や化学の発見も気づき

   から始まっている。その気づきが他の人に伝わって発明が増えている。気づきが発信されていることで、文化が急速に成長し、進歩していると思う。

3.複雑系的知的ネットワークの現実化

  ・3人寄れば文殊の知恵ということわざがあるが、衆知のアグリゲーション(情報の集約)による創発が行われていた。複雑系とは時間的に変化する

   力によって予測不可能な混沌とした変動が現れる状況のことであり、特定のスペックを持った人が集まり議論することで仮定した通りのアプト

   プットが導き出される要素分析的手法とは全く異なる発想で、衆知のアグリゲーションによる創発や、自己組織化の現実化を行うことが重要である。

  ・3つのIT革命により、個人も組織と同等の情報収集能力を持つようになったことから、個人能力の最大化を考えるべきである。100人の平均的な人材

   より、一人のオタクが重要になっている。オタクは24時間365日興味のある分野に精力をかける人材である。組織力の定義も変化すると思う。それと

   同時に組織階層が無意味化している。多様化する社会に向かって行き、平均的な常識は低下していくと思う。

4.変化を強要されている社会システムへ

  ・組織体制が変化する。フラット化せざるを得ない組織構造により、管理者は削減される。個人力を最大化する組織の必要性により、終身雇用、年功

   序列、新卒の一括採用なども無意味なものになる、日本では、終身雇用と年功序列を経営者に持ち込んだのが失敗であった。

  ・平均値議論は意味を失い、平均が高いことよりも突き抜けた人材の活用や、多様性を前提とした教育システムが必要となる。平均化するには、

   尖ったところを抑える必要があり、突き出た能力を持つ多様な人材が必要とすることとは両立しない。ゆとり教育は良かったのかも知れないと思う。

   ゆとりがないと浅田真央や錦織圭が出てこなかったかも知れない。ゆとり教育でフィギュアスケートやテニスを練習する時間を確保できたと思う。

  ・リーダーの役割も変化すると思う。個人の情報収集能力が拡大したことで、利害調整では上手くいかない。進むべき方向を決めることが重要になり、

   率先垂範型のマネージメントが求められるようになり、リーダーの役割はより重く、より辛いものになっていくと思う。


5.日本の将来のために

 100年後の日本の人口は約1/3になり、経済規模も減っていく。そのため、海外に行くか、今までやっていないことが出来る企業しか生き残れない。

  新しいサービスを次々に出していく企業でないと駄目になる。生き残るためには、使える技術は出来るだけ使い、フルに知恵
を出す必要がある。

 ・日本のポテンシャルは大きい。1600兆円を超える個人記入資産がある。ITインフラや教育水準は高い。深夜帯でのワンオペに見られるように労働

  意欲は非常に高い。企業は比較的余裕があり、隠れた技術もある。弱いところもある。語学能力の低さや個性軽視、予定調和
好き、どこか他人事

  でも許されるぬるい社会という甘えがある。甘えを少なくともリーダーから取り除くとまだまだ伸びる余地はあり、日本
は世界をリードすることが出来る

  と思う。


「一言」夏野さんのお話は何度か聞くことが出来て、非常に流暢で面白いと思うが、難しい言葉があり、まとめるのが難しいところがある。
 
    今回も情報化により、大きく社会が変わらないといけないと思うが、日本の高齢者は変化を恐れる傾向が強く、なかなか難しいと思う。