日本の経済展望 〜現在を知って、未来を見直す〜 東京大学 伊藤教授
1.マクロ経済と金利
・金利、為替、原油(石油、天然ガス)の3“安”がキーワードである。安さが尋常でないということである。
100年に一度起こるか起こらないかという状況である。これに日本の経済は大きく影響を受けると思って欲しい。
・2012年の金利は1%であり、インフレ率は-1%であった。そのため、実質金利は2%ということであった。今は、
金利は0.3%で、インフレ率は1%であり、実質金利は-0.7%ということになり、2.7%金利が下がったことになる。
日銀の黒田総裁は物価上昇率を2%にすると言っているので、実質金利は3.7%下がることになる。
・日本国民の資産は1600兆円あるが、これらの多くが預貯金になっている。このまま、預貯金にしておくと、毎年
2%下がっていくことになる。昔多くの人が損をしているので、日本国民は預貯金の金利に敏感になっている。
・日本銀行がマーケットから国債を買っている。今の国債は銀行が持っている。そのため、銀行から国債が日銀
に移っており、国債の金利が0.7%に下がっている。また、銀行は資金をどう運用するか考える時期にきている。
・企業は資金を貯めてきた。これまではデフレだったので、資金を抱えていれば良かったが、実質金利がマイナス
で大きくなると、資金の価値が大きく下がることになる。そうなると企業のために資金を使うことを考える必要が
あるが、その方法としては4つしかない。@投資をする、A配当するか、B給与で社員に支払う、CM&A である。
・超低金利の中でどうするかがポイントなるが、金融政策が重要なのは、実質経済にどう影響するかを見る必要が
あり、長期的にみる必要がある。
2.為替
・今の為替は1973年と同じである。1973年まではほとんどの通貨がドルと固定されていた。その後、変動相場制
になり、ほとんどの通貨がドルに対して上がっている。日本はデフレが続いたので、円ベースで見ると分からなく
なっている。1995年以降、米国は物価が40%上がっているが、日本の物価は下がっていた。日本と外国の物価
が大きく変わったので、日本のバーゲンセールが起きている。これで良いか悪いかは分からないが、日本経済
には、輸入物価が上げる影響が出るが、原油など燃料の値下がりにより、値上げを止めていることは幸運である。
・為替が大きく動いた時、貿易に影響が出てくるのは2〜3年くらいかかる。しかし、業種によって影響の出る時期が
大きく変わってくる。例えば、キャノンなどは早く影響が出てくる。しかし、海外に大きな投資をした自動車みたい
な業種は影響が出てくるのが遅くなる。その中での展開を考える必要がある。
・石油が大きく下がっていると言われているが、石油だけでなく、鉄鋼なども下がっている。石油は新興国が伸びて
きたので、高くなった。しかし、新興国の伸びが抑えられると燃料は下がってきた。食糧については、世界の金融
の超緩和により、資金が回り、値上がりした。大きな流れが変わったと考えると、今後は良く見ていく必要がある。
3.日本経済の現状と課題
・日本の経済はバランスが悪い。企業の業績は良いところが多いが、投資は伸びていない。雇用は伸びている。
賃金も上がっているが、昨年は消費税の税率アップがあり、実感は少ないが、今年は賃金上げの実感が出て
くる。このような状況を見ると、消費者にとって環境は良くなっているのに、消費が伸びていない状況である。
・アベノミックスは一斉に色々なことをやって、株は大きく上がった。しかし、消費と投資、輸出が伸びていない。
今年、最も重要なことは賃上げである。そのため、安倍首相は今回の選挙の直前も直後も政労使会議を開催
した。政労使会議は3月には答えが出る。
・投資については起業マインドが良くない。ここでポイントになるのが成長戦略である。これまで、安部政権は沢山
の政策を打ち出してきたので、みんながまごついている。これまで出した政策から絞り込んでいくことになる。
サブライズ政策は時間がかかる。今、我々が必要としていることは、投資と消費を増やすことである。
・法人税減税を前倒しで行っている。昨年は復興減税を1年早く切り上げ、企業の賃上げをさせた。今年も法人税
減税を行う予定であり、企業の賃上げに踏み込んでいる。
もう一つは120兆円の運用を行っているGPIFである。GPIFの運用資産の株式割合を10%から20%に増やした。
・日本の個人資産は1600兆円あるが、対応は2番目である。第1番目は観光の外国人の呼び込みである。昨年は
色々な対策により非常に増加し、1000万人を超えた。日本に来た観光客はたくさんの買い物をするので、消費が
直ぐに大幅に伸びることになる。この傾向は2020年までは続いていくと考えられている。
4.日本経済の展望
・企業は、オリンピックとパラリンピックに向けて、2020年までに何をするか考え始めた。警備保障会社では大きな
チャンスと考えており、人手不足の中でどうするか考え、監視カメラ等の導入を考え始めている。政府から見ると
いかに消費や経済対策に結び付けていくかである。日本の企業は、株主資本利益率ROIなどが悪い企業が多い。
そこで、経済産業省では、稼ぐ力の検討委員会を作った。今では、政府のテーマにも稼ぐ力の項目が上がって
きている。経団連では、何故ROEが悪いのか検討を始めている。日本の企業は、グローバル化、ICTなどの技術
革新や少子高齢化の経営環境の変化に対応できていない。デフレ時代は判断を遅らせて、投資を遅らせたり、
臨時社員を採用してきた。経団連では、具体的な項目について検討している。
・ROEについては、日立、東芝、三菱重工などのROEが何故低いのか検討している。シーメンスも昔は儲かって
いなかった。シーメンスはグローバルではGEと競争することになるので、これに対応する必要があり、幅広く実施
してきた事業を重電、産業機械、メディカルに絞り、半導体と情報通信を捨てた。その結果、収支率が改善した。
・ICTについては、世界のサーバーの電力利用量は日本全体の電力量より大きくなっている。これは情報の中身が
変わってきたためである。今までは、人が作った情報を処理していたが、今はセンサなどのIoTから出てくる情報
を処理するようになっている。ニューヨークタイムでは社内の情報を30万円で電子化したと言われている。
・情報が増え続けた結果、新しいビジネスが出てくると考えられる。ポイントはIoTである。
経済産業省では、技術革新により、産業構造がどのように変わるか検討している。グーグルが自動運転に取り
組んでいる。既に、米国のネバタ州やフロリダ州では、公道での自動車の自動運転を行っている。コマツでの
社内では既に自動運転を行っている。この自動運転により、日本の自動車メーカはどうなるのか検討している。
・少子高齢化については、グローバル企業と違って、日本のローカル企業は人手不足が最も大きな問題になって
いる。日本の人口は毎年を10万人くらい減少しているが、60歳以下の人口は毎年100万人づつ減少している。
労働人口が激的に減っているので、ローカル企業は労働生産性を上げて、賃金を上げていくことが課題である。
今、景気が悪いのに、労働不足が起こっているのは、労働生産性が低いためである。すき家は良い人材を採用
して労働生産性を上げていくことを目指している。警備保障会社は監視カメラをどんどん導入している。
5.まとめ
・消費税の引き上げを先延ばしした。2017年4月には消費税を上げることになった。このため、日本の財政再建は
どうなっているのかが課題になっている。財政再建には魔法はない。 永く付き合っていく必要がある。
直ぐに赤字を解消することは難しいので、財政赤字を改善していけるかが大事である。当面は、2015年に国債費
を除き、財政赤字を半減させることである。2020年までにプライマリバランスを達成できるかがポイントである。
・税収は増えるが、社会保障費も増えているので、財政再建には医療、年金、介護の費用を抑えていく必要がある。
今は毎年、社会保障費が1兆円づつ増えている。質を落とさないで、費用を抑えていくかのである。
高知や静岡などはベッド数が多いので、病院にいる人が多いため、東京などに比べて40%くらい高くなっている。
これを改善していくのはICT技術である。これからは地域別の競争になっていくと思う。
・年金改革としては、マクロ経済スライドを4月から実施する。マクロ経済スライドは平成16年に制度化されていたが、
デフレのため実施してこなかった。例えば、物価が2%上がったのに、年金は1.1%にとどまるということである。
マクロ経済スライドは、短期的にみると影響は少なく思えるが、長期的にみると、大きな影響は出てくるものである。
これから夏に向けて、安倍首相は財政再建化をまとめることになっているので、企業にとってはチャンスになる。
「感想」伊藤教授のお話は何度も聞いているが、今回は1時間半のお話だったので、細かな内容までお話を聞くことが
出来た。これから成長戦略に向けた政策が出てくると思うが、何を目指すか決めて、事前に勉強しておき、早く
立ち上がることが出来るようにしておく必要があるのではないかと思った。