ビックデータ活用で新たなビジネスを創るには 東京大学 稲田教授
1.ビジネス創造の起点を変える
・ビックデータを新たなビジネスにしていくには、全体最適や全体活用を考えるべきであると考えている。フィリップ・
コトラーさんの本を読んだ時に、同じようなことを色々な方向から言っていると思った。その時々、その場所で全体
最適のマーケティングを行うべきと言っている。ビックデータも全体最適に向かって取り組む必要があると思う。
・ケース1 : ビックデータとして使えるものがセキュリティなどの関係で少ないので、農産物の例で説明する。
野菜の収穫量は、日本はオランダに比べて、トマトやきゅうり、なすは単位面積当たりの収穫量は1桁くらい低い。
1996年頃は2倍位の違いであったが、オランダは農業イノベーションを行い、その後急速に差が広がっていった。
オランダは全体最適を考える人がいた。マーケティグの結果、トマトときゅうり、なすに的を絞り、センシングデータ
やマーケティングデータなどのデータを収集し活用した。生産規模の最適化や生産装置の改善などを推進した。
日本でもリモートセンシングによりデータを集めており、米もタンパク質の高いところや低いところを地図化している。
しかし、日本には全体最適を考える人がいないので、新しいビジネスを創る状況にはなっていない。
2.イノベーションとビックデータ
・昔のイノベーションは、ユーザの求める価値が明確で、新しい技術が起点になることが多かった。しかし、今では、
農業の例のように、イノベーションの起点として技術以外の要素の比重が増大しており、技術に関しても必要な
技術要素が増えて、自前の技術は一部のみという状況が一般化している。
・最近の主なイノベーションとその源泉としては、アマゾンの通販のように、行動履歴データを活用した技術の新しい
活用領域の発見や、EUの再生エネルギーのように、促進の指令や個別割当制度の導入による社会変革のための
仕組み作り、クラウドサービスのように、ICTシステムの所有から利用に変革するビジネスプロセスの変革がある。
・人はルーチングワークと創造的作業があると、ルーチングワークから行う傾向があり、考え方を変える必要がある。
日本では、イノベーション=技術革新という考えがあるが、技術起点の考えを改める必要がある。日本の経済白書
でイノベーションを技術革新とした定義ことにより、イノベーションの概念が非常に狭くなってしまったと思う。
・シュンペーター博士は、イノベーションは新しい技術の発明だけでなく、新しいアイデアから社会的意義のある新しい
価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革であると言っている。
・ビックデータもデータがあるから何をしようと考えるのではなく、会社で何をしたいからどのデータがあり、活用するか
考える必要がある。データはなかなか集まらないが、集まり始めると集積が加速する傾向がある。データが増えて
くると価値が高くなってくる。ユーザはデータを出したがらないが、自分にメリットがあると積極的にデータを出すよう
になる。早期に大量のデータを集積し、そこから、知識の抽出に最初に成功したものが一人勝ちする傾向がある。
・ビックデータはEconomy of Speed and Scale が強く働く世界であることに気付くことが大事である。
アメリカのGEは、データ・情報・知識の性質に気付き、スピード・スケールに取り組んでいる。GEはビジョンを提示し
協業、協働の推進がイノベーションを加速すると言っている。GEは 「インダストリアル・インターネット」ビジョンを発表
しており、医療機器や発電機器、輸送機器などの様々な産業機器がインターネットで接続され、得られる稼働データ
を分析、活用することにより、運輸・エネルギー・ヘルスの世界経済の46%をカバーする分野で生産性を改善し、向こう
20年間で世界全体のGDPを10〜15兆ドル拡大するイノベーションが起こると予想している。
データの活用には Economy of Scope の発想も必要であり、マネージメントのリーダーシップが重要である。
3.ビックデータ活用で新たなビジネスを創るために
・センシングからのデータだけでは価値はない。ビックデータ活用の価値は、顧客や社会が抱えている課題やニーズ
を踏まえ、センシングにより必要なデータを収集し、データを処理し、分析することにより、これを情報にして活用して、
新たな価値を創造することである。お客様の課題解決が目的であり、何を最適化するかがポイントである。
・自分の戦略・手法を考えなければならない。今はお客様毎にカストマイズしているので、コストが高い状況である。
ビックデータの活用はこれからであり、組織形態の最適化も考えないといけない。ビックデータの活用では、データを
活用する会社とデータ活用のためのインフラを提供する会社に分化し、インフレ提供の会社は少ししか残れない。
・イノベーションも最適なものが変わっている。昔は改良することが明確になっていて、改良型イノベーションであった。
最近は価値の発見につながるものを求めており、発見型イノベーションである。日本はこれが非常に遅れている。
発見型イノベーションでは、既存の価値軸にはない、新しい価値を見出だす必要があり、新しい価値は多くの人が
直ぐに理解できるようなアウトプットでないことが多い。価値を発見する能力と価値を実現する能力は違っている。
多くの経営者が価値発見力と価値実現力を混同しており、経営者がイノベーション人材に必要と思っている能力・
素養と実際にイノベーションを起こした人の能力・素養は違っている。これまでの改良型イノベーションではHow人材
が得意な価値実現力が有用であったが、発見型イノベーションではWhat人材が必要となっている。
・発見型イノベーションに向いた人材は左脳的思考の人で、感覚的な直感を優先する人であり、改良型イノベーション
が得意な人材のように過去の事例や経験にこだわる人では、新しい発想は出てこない。
今のリーダーはHow人材であり、What人材ではないので、経営者が見る目を変えないと駄目だ。
イノベーションの7〜8割が失敗する。失敗にペナルティを課すのではなく、成功へのステップと考えないといけない。
これから重要になる発見型イノベーションでビックデータを活用出来るようにするには、発想を変える必要がある。
「感想」 ビックデータとビジネスということでお話を聞いたが、ビックデータから価値を創り出すことは何かという
ことから、要求される能力を説明し、今の経営者が発想を変える必要があるということは面白かった。