日本経済の展望 東京大学 伊藤教授
1.日本経済はルビコン川を渡った
・今回の日銀が行った金融緩和には、2つの特徴がある。一つは日本経済に後戻りはないということであり、もう
一つは金融緩和の前とは大きく違った局面になったということである。日銀の黒田総裁は今までやらなかった
ことをやった。日銀が金融緩和として、短期国債を買ったことはあるが、黒田総裁は長期国債を買っている。
米国が取り組んでいる出口戦略を行う時期がくると、出口戦略の時は国債を売らないといけなくなるが、売ると
国債が大幅に下がるため、国債は簡単には売れない。短期国債なら満期の時期を待てば売らなくても良い。
・長期国債を買ったのでは短期に出口戦略を進めることが出来ない。退路を断ったことであり、背水の陣である。
これまで、日銀は金融緩和はしたが、長期国債は買わなかった。米国も買ったことはある。欧州は悩んでいる。
2.アベノミックの成果
・安倍内閣は消費税を上げるのは止めて、解散した。伊藤教授としては消費税を上げる方が良いと思っていた。
そこで、安倍政権のここ2年間の成果を整理してみた。株価は8500円が17000円になり、2倍となった。GDPは
4月からは下がっているが、年間としては昨年より2%以上も上がっている。失業率は4.6%が3.6%に下がっている。
税収は42兆円から50兆円と20%増えている。借入金は44兆円から41兆円と減少している。
・最初の2年間は華々しい成果を上げているが、消費は増えない、輸出や設備投資も増えていない。1年目が華々
しく成果が出たため、2年目は目立たない状況になっている。気をつけて見た方が良い。経済はそんなに簡単に
良くなる筈はない。経済にも、株や雇用のように直ぐ熱くなるものと、時間がかかるものがある。消費、設備投資
輸出はなかなか動かないので、どうするかがこれからの課題である。日本の経済はバランスが悪い。
・企業の業績は良いのに、設備投資が出ない。賃金も上がったが、消費税を上げたので、賃金上昇が物価上昇
に追いついていない。来年は消費税が上がらないので、名目賃金はプラスになると考えている。
3.アベノミックの次に課題
・アベノミックスの次の取り組みは成長戦略と社会保障改革になる。成長戦略は既に項目は揃っている。
株式市場には公的年金(GPIF)の120兆円が出てきた。しかし、個人資産の10%でも160兆円になるので、NISAを
実施し、広がっている。次は法人税率の引下げである。法人税引下げは企業から薄く広く税金を取ることである。
・法人税については、安倍首相は復興特別法人税を1年前倒しで廃止した。しかし、政労使会議で賃金を上げた。
今回の法人税の引き下げも同じ考えで取り組み、賃金を上げていくことになると思う。
・国家戦略特区としては、大阪ではアジアの人が介護出来るようにするとか、三井不動産が電力事業に進出する
など、メニューは正しいが、押し方が弱い。どこまで加速で生きるかが大事になっている。
4.アベノミックの成長戦略
・アベノミックスの第3の矢は民間投資を喚起する成長戦略である。成長戦略には規制緩和や労働市場改革などの
サプライズ政策があるが、サプライズ政策は直ぐ来年に良くなる訳ではない。だから、第3の矢は民間投資を喚起
する成長戦略である。消費や投資などデマンドサイドを伸ばしていくことが大事である。
・その一つとして、外国人の来日を増やすことに力を入れている。ビザの緩和により、今年は460万人増えている。
外国人が日本で使うお金の平均は26万円である。日本人が年間に使うお金は約260万円であるので、1300万人
が来日すると130万人の消費が増えることになる。
・政府の成長戦略には、もう一つのキーワードがある。稼ぐ力である。経済産業省は稼ぐ力創出員会を作って、企業
が強くなるにはどうするかを検討している。検討している内容は面白いと思うので、ホームページで見て欲しい。
企業自体が頑張っていく必要がある。
5.金融市場
・日本の財政事情は非常に悪いので、個人的には消費税を上げた方が良いと思った。財政を改善する魔法はない。
少しづつ改善していくしかない。ここ数年、日本がどちらに向かうのかポイントで、改善していくことが重要である。
昨年は順調に行っていた。その理由がデフレからの脱却である。デフレが続く限り、財政再建は出来ない。
・今後、アベノミックスが続けば税収は増えるが、少子高齢化で2016年の黒字は無理である。2015年に赤字半減、
2020年黒字は民主党が決めたが、5年間進んでいなかった。今では2015年に赤字半減を達成というのは難しい。
2020年の目標を明確にするには、社会保障費を見直すことである。社会保障費が毎年1兆円増えている。
財政をどこまで抑えるかがポイントである。日本の財政で、非社会保障費の比率は非常に低くなっており、世界
の国々に比べても非常に低い状況になっており、これ以上抑えることは難しい状況である。消費税を上げるのを
伸ばしたのだから、社会保障費をどう抑えることがポイントなる。
・これまで、ファンドマネージャが国債の売買で動いてきたが、今回は日銀が動いているので、動けなくなっている。
そのため、ファンドは為替に向かって動いており、円が大きく下がっている。今後の円の動きについては、気を
つけた方が良い。
・2〜3年前までは、物価が-1%、金利が+1%であったが、来年は物価が2〜3%、金利が0.5%になる見込みである。
2012年〜2015年は、物価と金利で-2%であったが、来年からは+1.5%になり、大きく変わってくる見込みである。
デフレの時は預金することが賢明な選択であったが、今後-2%づつ目減りするようになると、20年では40%減少
する。そのため、今後は資産運用をどうするかが大きなポイントである。株も熱過ぎたところは必ず、調整される。
円安が行き過ぎているので、、為替には気をつけた方が良い。
「感想」これまで伊藤教授のお話は何度も聞いたが、今回は少し、進んでいたように感じた。第3の矢の成長戦略は
比較的早期に効果が出る施策に重点を置いているような話を具体的に説明していた。特に、社会保障費を
抑えないと財政再建が出来ないということを強く説明していたことが興味深かった。