孫子の兵法に学ぶ ビジネス術 東京理科大:伊丹教授、作家:守屋淳様
1.最初に孫子についてのコメント
(伊丹教授のコメント)孫子の兵法は戦争の悲惨さを強く表現している。
・経営の本を改定していく度に、孫氏の引用が増えたと言われ、孫氏の本を書いてみないかと言われた。
中国の古典の専門でないので、私が強く感じたことが30くらいあり、それを書いたら、評判になっただけだ。
読み解き方としては、@当たり前の奥の底の真実、A何故、逆説的なことを言うのか、B優先順序を問う、
C人が犯しがちな誤りを考える、D良く使われる言葉の前後に深い意味がある。などである。
(守屋様のコメント)孫子は何を書いているのか分からない本である。中国古典自体が分からない。漢字を
並べているだけなので、解釈する内容には色々とあり、昔と異なる解釈をすることが度々出てくる。
・孫子は論理的に読んでも分からないことが多い。人は死んだらおしまい、国も滅んだらおしまいと考えている。
戦いは一度始めると、一方が一方的に止めると言っても終わるものではないので、戦いはしない方が良いと
考えている。孫子をビジネスに使うには、自分都合の良いところだけを抜き出して使えば良いと思う。
2.ビジネス界で読まれる古典の中で孫子の本はどう違うか
(守屋様)相手を倒すために書いている本が多い。しかし、孫子はライバルが多数いるという中でことを書いている。
消耗戦で勝っても、第三者が攻めてくると上手くない。自分の体力を消耗しないで戦っていくことを解いている。
(伊丹教授)ベストの負け方を書いているのが孫子だ。他の古典では書いていないが、負けない戦いを書いている。
本の薄いのが最大の魅力である。戦場で物理的力学と戦士の心理の両面を書いている。更に、相手の戦士の
心理まで考えており、マキュアベリーなどに比べると考える底の深さが違うと思う。
3.今、何故、孫子か
(伊丹教授)孫子のイメージに惹かれているのではないかと思う。今の日本に欠けているものがあり、教養が必要と
感じ始めたのではないかと思う。長い歴史の中で、最近の嫌中ムードへの反流があるのではないかと思う。
(守屋様)競争が激しくなったため、良いものを作れば良いと考えていたのに行き詰ってきて、中小企業の社長たち
は生き残りを求めているのではないかと思う。経済が落ちてくると競争が激しくなり、人を騙さないといけないこと
があるが、その奥に何かがあるのではないかと思っていることから、孫子に惹かれるのではないかと思う。
4.印象に残る言葉は
(伊丹教授)・戦いは正を以って合い、奇を以って勝つ : 最初は正攻法で戦い、その後、奇襲で勝つと言っている。
これは順序が大事で、正攻法で戦っていないと奇襲は効果が出てこないということである。
・進みて名を求めず、退いて罪を避けず、唯だ民を是れ保ちて、而して利の主に合うは国の宝なり
・善く戦う者に、これを勢に求めて、人に責めず : 戦いの勢いを如何に作るかが将軍である。
社員をだらしなくしたのは誰か。社長の責任で、社員を責めるは良くないということだと思う。
(守屋様)・彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず : ライバルと自分を徹底的に知ることが出来れば、戦いに
負けることはないということであるが、特に、自分を知ることが難しいと思う。
・人を知る者は智なり、自らを知る者は明なり : 自分を知るには、上から目線の人と同じ目線の人、下からの
目線の3人から諫言してくれる人を作ることである。そのような人に最適な人は敵である。敵は徹底的に調べ上げて
いる。このように諌言してくれる人を抱えておける人になることが難しいのだと思う。最近、企業で良く行われている
ベンチマークも競争相手のことばかりやっていて、自社のことはほとんど行われていない。企業のベンチマークを
やり過ぎると相手に勝っても、お客様は離れているということになる場合がある。
5.孫子を現代のビジネスに活かすコツは
(守屋様)兵法は論理的であるが、前提条件が同じなら答えも同じになることである。前提条件が中国の昔と現在の
日本とでは同じではない場合が多いことから、兵法を利用する場合は、良く考えておく必要がある。
・善く戦う者は不戦の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり : 孫子は自らの努力や注意で、まず自国を
不敗の地におくこと、つまり「負けない」状態を作ること、その上で敵のミスや隙をついて戦えと言っています。
トレーダーも同じであると聞いたことがある。抽象を上げるということだと思う。
(伊丹教授)孫子は2つの違った見方を統合するための考えであり、常に、2つの立場で考えるようにするべきである。
城攻めでも、城の構造だけでなく、自分の兵隊の心理も考える。更に、敵の兵隊の心理まで考えると、幅が広く
なる。城攻めでも完全に囲むと、敵も死にもの狂いになるため、弱いところを作って、敵の逃げ道を作っておく
ことで、被害を少なく勝つことが出来るということである。このような考えは現在のビジネスでも通用する考えで
ある。メモリー分野での競争が激しくなると、日本企業は一斉に難しいロジック系に逃げたことから、サムソンが
独り勝ちになったのは、逃げ道を作ったサムソンの戦略という話を聞いたことがあり、現在にも通用している。
(守屋様)・勝つべからざるは己れにあり、勝つべきは敵にあり : 負けないことは自分で出来るが、勝つためには
敵に勝つ必要があるということで、今のビジネスでも、負けなければ良く、チャンスが来た時に勝てば良いと思う。
(伊丹教授)始めは処女の如く、終は脱兎の如し : 現在のビジネスでも、初めは処女の如くして学習し、力が
ついたら頑張れば良いのだと思う。
「感想」 これまで孫子の名前は良く聞いてきたが、孫子がどのように考えているのか、具体的に聞いたのは初めてで
非常に面白かった。特に、中国の文章は漢字を並べただけのため、理解の仕方が色々と出てくるということには
驚いた。更に、解釈が色々とあり、最近でも解釈が変わっていると聞いた時はそんなものかと感じた。漢字だけ
の文章には欠陥があるのではないかとも感じた。