ITの未来〜時代に適応した企業力とは〜   慶応大学 夏野教授

 1.テスラ自動車

    ・自動車に関心はなかったが、先日、テスラモーターの自動車に乗って、驚いた。特に、新しい技術は使っていないが、

     パッケージとしての車の仕上りの良さに感心した。運転席に座ると、前に17インチのディスプレイがあり、自動車の

     状況がすべて出されるだけでなく、非常に鮮明な画像であった。バックも常に見ることが出来、映像が綺麗だった。

     部品の80%以上は日本製であり、電池はパナソニックだった。しかし、デザインは海外の専門家で洗練されていた。

    ・電池で走れる距離は500kmと、国産の自動車に比べると非常に長く、燃料も500km800円と非常に安かった。

    ・奥様を連れて行くと、直ぐ、感心してくれたので、35万円の手付金を渡して、買うことにした。


 2.3つのIT革命

    ・日本はデフレに悩んできて、ここ20年間のGDPの伸びは2%だった。この間、米国のGDP200%伸び、3倍になった。

     米国の市場では、インテルやアップルなど新しい企業が出てきて成長しているが、日本では昔の企業ばかりで、

     新しく出てきて大きく成長している企業はない。米国の人口は1.5倍に増えているが、日本の人口は増えていない。

    ・市場の環境から考えると日本もグローバルに事業を展開しているのだから、それ程、大きく引き離されることはない

     と思うが、このように差が出てきたのは、日本の企業がIT革命を取り入れることが出来なかったのが理由だと思う。

    ・この15年間に世界では3つのIT革命が起こった。


 3.第
1IT革命:効率革命

    ・ビジネスのフロントラインがネットワークで展開し、顧客との接点が大きく変革してきた。また、リアル市場とネット市場

     が組み合わさっている。そのため、ほとんどの社員がパソコンと携帯電話で武装しており、生産性は上がっている筈

     である。しかし、企業内では、新しい取り組みに対して様子を見てから取り組みたいとの考えが強く、大きく遅れている。

    ・企業の階層化はそのまま残っており、社会の仕組みも変化に対応出来るようになっておらず、効率化が進んでいない。


 4.第2IT革命:検索革命

    ・インターネットの検索機能が良くなったので、個人の情報収集能力が飛躍的に拡大した。

     20世紀までは組織に属さないと情報が取れなかったが、今は組織に入らなくても、多くの情報を取ることが出来る。

     ドクター論文などの情報もインターネットで取れるようになった。このため、研究開発プロセスに革命が起きている。

     また、一般の人でも話題になっていることについては調べることが出来るため、にわか専門家を量産している。

    ・最近は労働基準監督局は検査に入るとメールサーバを調べる。夜中にメールが出ていれば、深夜勤務が分かる。


 5.第3IT革命:ソーシャル革命

    ・ソーシャルメディアの発達により、個人の情報発信能力が飛躍的に拡大した。TwitterFacebookによる共振により、

     個人が発見したことが直ぐに拡がるようになっている。個人が組織に入っていなくても情報が発信できるようになった。

    ・トヨタの改善もトヨタという組織がやったということでなく、個人が気づいたから出来た訳である。

     改良・改善は組織が気づいたものではなく、個人が気づいて、組織が共有して、実施しているのである。

     発明発見は個人が気づき、社会で共有できたわけであり、数学や物理では個人の名前がついているものが多い。

     今は気づきがソーシャルメディアを通じ世界に発信し、共有化が進んでいる。企業もソーシャルメディアを見ている。

    ・複雑系知識ネットワークが現実化している。3人寄れば文殊の知恵から衆知のアプリケーションによる創発が進み、

     自己組織化が現実化してきている。自分に興味があれば幾らでも調べられる時代になってきた。

    ・個人能力の最大化が進み、100人の平均的な人間より一人のオタクが力を有効な力を出すようになってきたことから、

     組織のフラットが重要になっており、組織階級が無意味化してきた。このため、組織力の定義も変化してきている。

    ・多様性社会に向かって、標準偏差が拡大し、ロングディテールが意味を持ってきた。


 6.我々の社会が変化を強要される社会システム

    ・組織体制については、情報の発信能力の多様化や情報の共有化により、組織はフラット化せざるを得なくなっており、

     組織構造が大きく変化することが必要なっている。その結果、終身雇用制や年功序列、新採一括採用等は機能しなく

     なってきている。個人の能力が重要になるに連れて、個人力を最大化する組織の必要性が高くなっている。

    ・平均値が高いよりも突き出た人材を活用することが必要になり、平均値議論が意味がなくなってきた。更に、多様性

     を前提とした教育システムが重要になっている。ゆとり教育は悪かと言うと、そうとう言えない部分がある。最近、世界

     に羽ばたくスポーツ選手が沢山出てきているが、土曜日に授業がなかったから、スポーツが出来たこともこのことに

     効果があったと考えている。

    ・今の日本は個人の才能が花開いているのに、組織がついていっていない状況である。

     例えば、世界で注目されている日本の建築家が多く出ているが、世界のトップ5に入る日本のゼネコンはない。

     更に、ノーベル賞を取る科学者は出てきているのに、世界のトップ5に入る日本の製薬会社はないという状況である。

    ・日本の個人資産は1600兆円もあり、豊富な資金力を持っている。世界トップレベルのITインフラがあり、教育水準の

     高さ、労働意欲の高さもあり、企業が豊かである。眠れる秘術も多いなど日本は大きなポテンシャルを持っている。

     一方、語学など弱い面もあるが、リーダが挑戦することからはじめれば、日本は活性を取り戻すことが出来ると思う。

 「感想」久しぶりに、夏野さんのお話を聞きましたが、少し先進的過ぎる感じはしましたが、面白かった。
      夏野さんのお話の結論的にはIT革命を積極的に活用すれば、日本は復活するということでしたが、
      今は、企業のトップを含めた管理者が保守的になっているので、難しいのではないかと思った。