イノベーションとは何か、なにではないのか 一橋大学 楠木教授
1.イノベーションとは何か
・イノベーションとは、何か新しいことをやることであり、単に、変化や新しいことではない。また、進歩でもない。
イノベーションの本質は非連続である。価値の次元が変わることである。
・進歩は、初期の段階では有効であるが、早かれ、遅かれコモディティー化して、他社との差別化が出来なくなる。
更に、お客様も進歩してきたことの差を認識出来なくなる。
2.イノベーションと進歩
・電気自動車は出来るか出来ないかが勝負である。
お客様の視点では、出来るか出来ないかではなく、「する」ということがイノベーションである。
技術的には出来るが、でもしない。お客様は必ずこうするという考えで、製品設計したものがイノベーションである。
そのため、必ずそうするに向かった引き算の考えであり、シンプルで洗練されたデザインのものが出てくる。
ゼロックスやスターバックスのように固有名詞であったものが一般名詞化して、社会に定着することになる。
・カテゴリー・イノベーションとして、ウォークマンとiPodがある。ウォークマンは新しい音楽の楽しみ方を生み出した。
音質的には以前のものより劣っていた。iPodもネットワークから音楽を購入して楽しむという形を生み出した。
・企業は次元の見える技術進歩が大好きだ。進歩は次元が見えるので評価がし易い。
競争の圧力 → 顧客の圧力 → 株主の圧力 → マネージメントの圧力 → (競争の圧力) → ・・・・
色々な圧力が循環していくが、これが可視化の罠である。しかし、オペレーションの可視化は有効である。
例えば、 十六茶が売れると、十七茶、十九茶、二十二茶、二十四茶となり、吉本興業では四十八茶と言い出す。
五穀米が売れると、十穀米で出てきて、二十穀米が出てくる。単に数が増えれば良い訳ではないが判断し易い。
3.イノベ^ション
・そもそもイノベーションは滅多に起きないことである。価値の次元が変わることであり、積み重ねではない。
頑張ろうでは、次元の変わるイノベーションは起きない。イノベーションは思いつくか、つかないかポイントであり、
組織より個人から出てくることがほとんどである。
技術進歩に優れた会社はイノベーションには適していない。今週、5つのイノベーションを起こすというように目標に
することで、出てくるものではない。インセンティブは進歩には有効だが、イノベーションには向いていない。
進歩で勝負するのも大いにありで、サムソンにはイノベーションはない。進歩に徹底している会社である。
・イノベーションでは、コンセプトから拡がるストーリーを創る必要がある。個人が普通の人の本質を突き詰め、未来
志向でストーリーを描くことである。上手くいくのかとは言わないことである。イノベーションは、出来るか出来ないか
より、思いつくか思いつかないかの方が大きい。イノベーションの原点は良し悪しより、好きか嫌いかである。
「感想」 IT Japanでの講演を聞きに行った。2カ日目の午後一番という時間であったが、面白く聞けた。
時間が短いこともあり、細かな説明はなかったが、イノベーションと進歩に違いは何となく分かった。