リーダーシップ3.0 〜カリスマから支援者へ〜  慶応大SFC研究所  小杉俊哉様

1.リーダーというと誰を思い浮かべるか?

   ・リーダーという言葉を聞いて、誰を思い浮かべるだろうか?経営者であれば、スティーブ・ジョブズ、孫正義、松下

    幸之助などを挙げる人がおそらく多いだろう。多くの人々から憧れられ、尊敬され、絶大な人気を誇る「カリスマ」だ

    そんなカリスマ性が今のリーダーに本当に必要なのか?という疑問からリーダーシップ3.0は始まる。
   ・カリスマ性がないとリーダーになれないかというと、必ずしもそうではないと思う。リーダーということは最も多く研究

    されているが、最も分かり難い分野である。無理してカリスマや強いリーダーを目指すのはやめないか?メンバー

    のポテンシャルを引き出すリーダーの方が楽ではないか?日本人はワールドワイドでリーダーになるのではないか?

    ということについて説明する。

   ・変革のリーダーシップとして、GE会長兼CEOのジャックウエルチが有名である。ジャックウエルチは、強烈なリーダー

    シップを発揮し、売上や利益を大幅に増やした。ウエルチが退任した後、カリスマ型のリーダーの時代が終焉した。

  ・リーダーシップ1.0では権力者が頂点に立ち、指示命令により、中央集権的に組織を支配した。19001920年代を

   代表するリーダーシップの形である。リーダーシップ2.0では権力者は権限を分散して責任を持たせることにより、

   組織を統治した。19301960年を代表するリーダーシップの形である。リーダーシップ3.0では、変革者:Change

   Leadeとして、正しいやり方を知っていて、組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を

   育てるところがポイントである。価値創出のため、個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて、一体なる

   組織を実現した時に、優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。それには個人個人が自律的に働く必要
 
  があり、そのためには、リーダーは支援者にならなければならないと言うことである。

  ・多くの企業が事業改革として、他の競争業者と差別化を図ることで競争優位性を発揮しようとして、差別化を追求

   していったが戦略、戦略が同質化して、各社とも似たような収益構造になり、共倒れの状況になってしまった。


2.リーダーシップ
3.0

  ・2008年秋以降、リーマンショックが起き、名門企業のGMやクライスラーが没落し、企業業績が急速に悪化した。
   コスト意識が高まり、ワークバランスの意識が高まり、単に金儲け主義のリーダーへは嫌悪感が出てきた。

  ・東日本大震災や原発事故では、首相や政府のリーダーへの不信が強まり、国民にリーダーシップの概念に非常に

   大きな影響を与えたと思われる。

  ・リーダーシップ3.0は支援者と言われており、価値の創造、Mission の創造と試行がポイントである。コラボレーション

   により価値の創造と共有化を進め、正しいことは何か、なぜやるのかを追及することである

  ・リーダーシップ3.0の代表例として、ジェームス・クラークがいる。シリコングラフィックやネットスケープコミュニケー

   ションズやヘルシオも創業して成功したが、自らがトップに立つのではなく、他人をトップに立て支援していった。


.支援者と奉仕の法則

  ・ヘルマンヘッセの東方巡礼で奉仕の法則ということが示されている。小説は、ある秘密結社の巡礼の旅に同行

   するレーオという召使いがでてくる。彼は、目立たぬ男であるが、感じが良く、押しつけがましくなく人の心を引き

   つけるところを持っていたので、みな彼を愛していた。 彼は必要な時だけしか姿を見せない、理想的な召使いで

   あった。最初はレーオに感謝していたメンバーたちは段々それが当然と思うようになり、巡礼の旅を始めたにも

   かかわらず、当初目的をメンバーの頭から忘れ去られたようになった。そんな時、レーオは忽然と姿を消します。

   そして、その巡礼の旅は途中で終わり、メンバーは散り散りになった。主人公はレーオを求めて彷徨し、再会を

   果たす。レーオその人が、秘密結社の長だったという話です。

  ・秘密結社に入るには、「個人個人の目的を持たなければ組織に参加してはならない」という条件がありました。

   しかし、皆が目的を忘れたために、レーオは旅のメンバーから離れたのです。結社の長レーオは奉仕する法則

   というのを語ります。「自分のもっとも優れたものを与えることによってのみ、目標を達成する」、「長く生きよう

   欲するものは、奉仕しなければなりません。支配しようとするものは、長生きしません。」  どれも非常に含蓄

   含んだ言葉である。これらの言葉は、そのまま企業に当てはまります。

    @.企業においても、リードされる者は個々人が目的をもっていなければ参加してはいけない 。
    A
.リードする者は、その最も優れたものを与えることで、初めて企業の目標を達成する。
      また、リードする者は、奉仕しようとすることが必須で、支配しようとすると短期に没落する。
    Bリードされる者は、共通の目的ではなくて、「個人個人の目的」を持つということが、 正に「自律」であり、

      リーダーがそれを「支援」するという役割なのである。
   
このようにリーダーシップ3.0の内容を表しているところがこの小説の秀悦なところであると考えている。

  ・同様に、リーダーが組織のメンバーを支援することによって、組織の潜在的な力を発揮させるという サーバント

   リーダーシップという考え方があり、ATT研究所長のロバート・グリーンリーフが提唱した。サーバントリーダーは

   意思的なイニシアティブを率先して示すものである。何をやりたいか分かっており、ビジョンを示し、奉仕する対象

   の人達とコミュニケーションできる人である。経営者などリーダーは自分の立場で、自分が本当に信じているもの

   があり、その信じている価値の実現のために部下が頑張ってくれるとしたら、その人のために尽くすのは当たり

   前であるという考えである。


 4.長谷部誠の「心を整える」

   ・「心を整える」を読み、長谷部誠のリーダーシップに深く感銘を受けた。長谷川が考えたリーダーの役割は、  

   @組織の穴を埋める、A他人のやっていないことをやる、Bコミュニケーションの媒介であると示している。

  ・長谷部はキャプテンであったが、目立つポジションではなかった。しかし、長谷部は、組織の潤滑油であり、調整者に

   なったことにより、個人個人が思う存分力を発揮できるチームが実現し、成功したと思う。

   前回のオリンピックで活躍したのは、リーダーシップ3.0である監督やコーチが機能しているチームであった。

5.オープンリーダーシップ

  ・オープンリーダーシップは、組織のメンバーをコントロールすることを諦めるというところから始まる。コントロール

   手放す新しい関係が生まれてくる。社員のパワーを尊重し、社員に責任を持たため、失敗を認める必要が出てくる。

  ・「Open Leadership」には、透明性の時代におけるリーダーシップのルールとして、5つが提唱されている。

     @ 顧客や社員の持つパワーを尊重する、A絶えず情報を共有して信頼関係を築く、B好奇心を持ち、謙虚になる、

   Cオープンであること責任を持たせる、D失敗を許す

  ・これらは、ベンチャー企業では受け入れやすいことが多いが、縦割り構造が確立されている大企業では悩ましい

   課題であり、現経営陣等には自らの持つコントロール権の放棄にもつながる問題で、抵抗感も強いと考えられる。

  ・好業績のCEOに関する調査の結果、コラボレーティブリーダーが多いことが分かった。コラボレーティブリーダーは

   コネクターの役割を果たすこと、色々な人材とつながることを要求される。


6.モチベーション
3.0について

  ・空腹を満たすためのモチベーション1.0やアメと鞭でマネージメントするモチベーション2.0は、創造的な仕事では機能

   しないばかりか、反作用があることが実証実験で証明された。

  ・やる気を引き出すには、内発的な動機づけに働きかけるかがカギとなり、これをモチベーション3.0と位置付けている。

   そのためには、仕事自体を目的化することや、楽しく好奇心を持ってやれるようにする必要がある。興味、好奇心を

   引き出し、才能の開花、自己の成長、キャリア意識、達成感、顧客や他のメンバー、更には地域社会への貢献意識

   に重点を置いた動機づけが必要になる。具体的には、夢や挑戦を促し、キャリア達成を支援する職場づくりを進める

   ことが基本となり、人とチームの目標の整合性をとり、現在の仕事の意義や効用を自分のキャリアの視点で考える

   メンタリングを通して、組織的なキャリア支援をする必要がある。

  ・夢の実現やあるべき姿、キャリア意識などにより、仕事の意義の理解と目標達成への意欲を高め、動機づけと支援

   の仕組みを整備することが必要になる。感謝と認知、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)、企業文化・職場

   風土の醸成、成長の機会、更なる挑戦の機会などを重視する必要がある。


7.リーダーシップ
1.53.0の違い

  ・リーダーシップ1.5は、調整者と言われ、価値の共有と気配りにより、組織を牽引する、19701980年代を代表する

   リーダーシップの形である。組織全体に価値観と働く意味を与えることと雇用の安定を図るなどにより、組織全体の

   一体感を醸成して成果を上げた。日本型の経営のリーダーシップがこれに当り、日本が急成長した。

  ・リーダーシップ1.5は理想のリーダー像に思われたが、強力な企業文化の形成により、公私の区別がない、滅私

   奉公を要求し、家庭を犠牲にしてきた。One for allだが、All for oneではない。個人目的は必要がないなどの特徴

   があり、終身雇用制が崩れたり、会社への忠誠が行き過ぎ不法なことを行うなど問題が出てきた。

  ・リーダーシップ3.0は、自立した個人を前提にしており、リーダーと個人は対等であり、運命共同体ではないところが

   リーダーシップ1.5とは大きく違っている。


8.マネージャーとリーダーの違い

  ・マネージャーは管理し前例を模倣し、統制に依存するため、組織に依存しているが、リーダーは革新し、開発し、

   人に注目するため、組織には依存しない特徴がある。マネージャーは物事を正しく行うのに対して、リーダーは

   正しいことを行うことであり、マネージャーは部下を使うのに対して、リーダーは部下を育てるところが特徴である。
  ・マネージメント
2.0、現在の経営環境に耐えうる新しいマネージメント手法を開拓するための25の課題を提唱した

   昔から言われていることばかりが出てくることから、マネージメントは全く変わっていないことである。

   組織から官僚的な部分を削除し、人間味の溢れる組織を作る必要がある。不安のない信頼感に満ちた企業文化が

   必須である。同僚達が相互チェックを行うプアプレジャーを機能させ、自己規律を身につけさせる方が得策である。


.自律とマネージメント

  ・自立は与えられた仕事を一人でこなせることであり、自律は自分の仕事を自分で作り、自分で責任を持って行うこと

   である。企業は人材が魅力を感じると共に、仕事を提供することが必要であるが、個人は組織ニーズに見合うこと

   が求められ、研鑽のための自己投資を続ける必要がある。

  ・組織の逆ピラミッド構造は、お客様が最上位にあり、従業員、中間管理者と続き、経営者が下で支える構造である。

   HCLテクノロジーズ、リッツカールトン、SASセコム、スターバックス、資生堂、米陸軍、永平寺等が実施している。

   これを可能とするための前提としては、ミッション・ビジョン・価値観の共有と行動規範の徹底、経営者の覚悟、及び

   経営品質のメジャメントが必要である。


10
.グローバルリーダー

  ・日本人はマルチナショナルな場でリーダーシップを発揮できると思う。日本人は宗教的に縛られる部分が少なく、

   人の話を良く聞く性格があり、グローバルなワールドワイドの場でのリーダーとなる可能性が高いと考えている。

  

 「感想」小杉さんのお話を聞いたが。聞いた時は何となく分かった積りになったが、まとめようとすると、アイテムが
      中心のお話では、アイテムの定義や内容を調べる必要があり、時間がかかった。聞いた内容と少し変わった
      のではないかと心配ですが、一応まとめました。面白い話でした。