日本の経済動向とイノベーション  一橋大学 米倉教授

 1.日本の現状

   ・日本のGDPが中国に負けて3位になったが、日本の一人当りのGDP17位に低下し、非常に低くなっている。

    一人当りのGDPは国民の人口減とは関係がなく、国民一人一人の問題であり、各人の生産性を上げる必要がある。

   ・日本は未来に対して投資しなくなった。1990年には税収は58兆円であったが、社会保障費は11兆円であった。しかし、

    2013年の税収は43兆円と低下しているが、社会保障費は27兆円と大幅に増加しており、高齢者を大事にしている。

   ・公財政教育支出の対GDP比率はロシアに抜かれており、世界的に非常に少ない状況である。これから社会を支える

    若い人を教育するためにお金をかけていないことが分かる。日本では20年までに小中学生全員にタブレットを持たす

    と言っているが、韓国では今年、小中学生全員にタブレットを配布している。日本は今の考えでも7年も遅れている。

   ・年代別の投票率は、最も低いのは20歳代で37.9%で、最も高いのは60歳代で74.9%である。80歳代も48.1%である。

   ・ワークハードからワークスマートに移行する必要がある。韓国の労働時間は2193時間で世界で最も多いが、GDP

    40位である。アメリカは1787時間で2位であり、GDP14位である。日本は1728時間で3位であり、GDP17位である。

    オランダは月間の労働時間は1379時間であるが、一人当りのGDP10位である。オランダは農業関係の分野でIT

    積極的に活用して生産性を上げている。日本も働き方を変える必要があると思う。


 2.イノベーションとは

   ・企業経営のイノベーションについて世界のシニアエグテクティブに聞いた、GEの調査報告書では、世界のほとんどの国

    のシニアエグテクティブは重要と回答している人が90%以上いたが、あまり重要でないと回答した日本企業が18%もいた。 

   ・社会全体がイノベーションを支持し、若い人がイノベーションを熱望していると考えているのは、25市場中で最下位で

    あった。他の国は70%以上であるが、ポーランド、インド、メキシコが60%台であるが、日本は僅か24%であった。  

    逆に、世界に人たちがイノベーションが進んでいると見ている国は、米国、ドイツ、中国、に次いで、日本は4位である。

    このギャップの理由を考えると、@ビジネスモデル開発のみをイノベーションと考えていること、A自信喪失で実態を

    見失っていること、B日本のシニアエグテクティブが不適格者であること、などが考えられるが、すべてだと思う。

   ・イノベーションの提唱者であるシュンペンターは、馬車を何台つないでも、機関車にならないと言っている。

    現状の均衡を創造的に破壊し、新たな経済発展を導くこと、これがイノベーションであると言っている。イノベーションは

    日本でいわれるように技術革新のみを言っているのではなく、経済を変動させることをイノベーションと言っている。

    全米の主要220都市から1日で荷物を運ぶには飛行機は何台いるかという課題に対して、フレッド・スミスがハブ空港と

    いう概念を考えて219機で実現出来ることを考えた。学校で評価されなかったので、会社を作って実現し証明した。

   ・韓国はハブ戦略を進めている。インド、EU、米国、ASEAN、中国、日本とFTP契約を結び、世界のハブを狙っている。

   ・イノベーションの父シュンペンターはイノベーションは新しい組み合わせであると言っており、技術革新だけではない。

    新しい組合せとしては、@新しい製品の導入、A新しい製造方法の導入、B新しい市場の創造、C新しい原料の導入、

    D新しい組織の導入、などがある。

   ・新しい市場の創造としては、新しい国への進出ではなく、日本のお金を持っている高齢者の市場の開拓がある。メガネ

    のJEANSのようにメガネをかけたことにない人にパソコン対応ということでメガネを売ることが出てきている。これまで、

    男の場所と言われてきた居酒屋にお金と時間を持っている女子会を企画して、女子を居酒屋に呼び込んでいる。

   ・新しい原料の導入としては、クモの糸の量産化やミドリムシの燃料化など、色々な取り組みが進められている。


 3.
3.11後の日本

   ・エネルギー分野のイノベーションが必要であると考えている。脱原発、脱炭素社会のリーダーとして、これまでの半分

    以下のエネルギーで豊かな国にすることであると思う。ケネディ大統領がアポロ計画で言ったように、ビジョンそのもの

    には根拠は要らないと考えている。易しいからやるのではなく、難しいから月面着陸を目指して成功した。

    特徴的なことは開発チームの平均年齢が28歳だった。若い人がやることに大きな意義があると考えている。

   ・原発依存度を30%から3割減らすことは難しいと思うが、使うエネルギーを30%減らすことは出来ると思う。松下幸之助

    が3%は難しいが,30%は出来ると言っていた。発想を変えないと大胆な変革は出来ないということである。

   ・例えば、これから作る小中学校をすべて太陽光発電にすることがある。学校は昼間しか使わないので、蓄積した電力

    を有効に利用できる。図書館もインターネットにして費用を大幅に削減することが出来る。

   ・タタ・ナノを乗ったことがある日本人が少ない。乗ってみるとそもそも内燃機関が合理的だったか考えるようになる。

    最近の日本人は知的好奇心がなくなった感じがする。非常に残念なことである。

   ・3.11後の日本は知的好奇心を高め、エネルギー分野でイノベーションを起こす必要があると考えている。

 [感想] イノベーションについての考え方が少し変わった感じがする。特に、日本人が知的好奇心がなくなったということは
      同感した。しかし、今の若い人は夢を持たなくなった感じがするので、知的好奇心を持たすことは難しいと思う。
      地道な研究をしている人も多く、これらの人が元気を出すように、日本が大胆に変革しないといけないと思う。