アベノミックスと日本経済 慶応大学 竹中教授
1.アベノミックス
・最近は経済的に関心が高い人が多いが、関心を持つ必要もある。来月からは再生成長戦略会議が再開する。
私の見解は、アベノミックスは理論的に正しいが、出来るかどうかは楽観的ではないと考えている。アベノミックス
は正しいというより、理論的にはそれしかないということであると考えている。消費税についてはやるべきではない
と考えている。しかし、悪法も法律である。野党も含めて決めた法律はやらなければならないと思う。しかし、消費
税は経済的にはリスクが大きい。
2.世界の経済状況
・今の世界は、5年に一度はどこかでバブルが起こって、5年に一度は経済危機に入っている状況である。
1980年代後半は日本にバブルが起こり、1990年には住宅バブルが破たんし金融危機が起こり、経済危機になった。
1990年代前半にはアジアでバブルが起こり、1997年に通貨危機が起こった。1990年代後半にはITバブルが起こり、
2000年に米国の不動産バブルが破たんした。2000年代後半にはヨーロッパ共通通貨のユーロが出来てユーロ高
になって、スペインやギリシャにバブルが起こった。2005年にはリーマンショックが起き、経済が大変なことになった。
・これらは過剰な米国ドルが特定のところに流れて、バブルを起こし、経済を破綻させていることである。
現在は新興国ブームで中国やインドにお金が流れたが、アメリカやイギリスがお金を引き上げ始めたところである。
アベノミックスが成功すれば、ドルが日本に流れてくるかも知れない。この状況で消費税を上げるはどうかと思う。
3.アベノミックスとは
・ここ一年間で、アメリカの株価は13%上がった。欧州で優秀なドイツの株価は11%上がっている。日本の株価は51%も
上がっている。GDP成長率も日本は3%であるが、アメリカは2.5%である。ヨーロッパは1.1%の成長率であり、日本が
もっとも高くなっている。このように考えると、日本のアベノミックスの最初の段階では成果を上げていると考えられる。
・アベノミックスは3本の矢に例えている。3本の矢の内、最初の矢は、デフレを克服するための金融緩和である。
デフレの時、お金を持っている人は消費も投資もしないことがもっとも賢明なため、お金が全く動かなくなっていた。
物価上昇が1%から2%が最も良いと世界の経験則で言われている。物価上昇が非常に高いと経済が壊れてしまう。
物価全体が下がっている理由は、供給量より需要が少ないことであるが、金の量が少ないことが主な理由だと思う。
小泉内閣でデフレから脱却していたが、2006年に日本銀行が金融引き締めたことで、デフレに戻ったと考えている。
・黒田日銀総裁がお金の引き締めを止めたことで、株や土地が上がり始めたと思っている。第2の矢は機動的財政
対策である。財政を拡大するため、補正予算を行った。中期的に考えると、7年位かけて財政再建する必要がある。
これまでアベノミックスの前半の対策はやったが、後半の対策はまだである。それが第3の矢である成長戦略である。
・成長戦略を作るために、産業競争力会議を安部総理が作った。エコや絆も大切であるが、経済成長は必要である。
経済成長も1%から2%と低くても、孫の世代になると非常に大きな違いが出てくる。これまで日本は頑張ってきた。
人口が減少したらデフレになるという人がいるが、ロシアなど多くの国で人口は減っているがデフレになっていない。
・小泉内閣が退陣した後、成長戦略を作り出したが、経済成長が下がってきた。特別な方法はないということである。
政府が企業を自由にして、税金を高くしないことが成長戦略であると考えている。会議をやると政府がお金を出して
企業を助けてやれという意見が出てくるが、官僚にどの分野が成長するかなどは分からないので上手くいかない。
エルピーダは政府がお金を出したが、上手くいっていない。国民がお金を捨てた。政府が技術などは分からない。
4.世界銀行の指標
・世界銀行が出している指標として、世界で一番ビジネスがし易い国として、シンガポールや香港が上がっている。
日本は昔、40位だったが、小泉内閣の時に28位になった。しかし、行き過ぎた規制緩和と言われて、規制緩和が
行われなくなった結果、今では47位と低下している。そのため、日本から良い企業が海外に出て行っている。
その結果、貿易力が低下して、今では貿易赤字になった。これを逆転する成長戦略を作らなければいけないが、
出来ない。農業は企業がやってはいけないという規制がある。三ツ星レストランが世界で最も多いのは東京である。
シェフも良いが、良い野菜がある。農業も発展する可能性がある。オランダは国土は小さいが、世界で2番目の農業
の輸出国である。このような規制を岩盤規制と言う。今回の会議では全く手が付けられていない。しかし、特区が
岩盤規制を崩す装置を作った。以前も、特区構想はあったが、改革する意欲がなかったので、形骸化してしまった。
これまでの特区は政府が決めてきた。今回は総理主導の特区である。特区では、国、地方、企業の3者が出てきて、
統合本部を作り進めていく。特区の提案が始まっている。10月から走り出す。医療、農業、金融が出てくると思う。
5.コンセッション
・高速道路や港湾、空港などのインフラにはキャッシュフローがある。このため、インフラの運営権を民間に開放する
ことをコンセッションと言う。デンマークのAPMターミナルは世界の50ケ国以上の港湾を運営している。フランスの
ヴェオリア・エンバイロメントやGDFスエズは世界中で水道事業の運営を行っている。民業の民間開放により、民間
が成長し、サービスが良くなる。運営費の試算は40兆円が政府に入ってくる。世界のゼネコンは設備のみでなく、
運営も提供している。日本でも、新幹線、高速道路など色々な分野で企業が成長していくと思う。
6.消費税
・社会保障改革が出来ていないため、消費税を上げても、財政再建には貢献しない。消費税を上げても社会保障に
は1%であり、4%は低所得者対象の穴埋めである。子育てなどの若い人への保証は世界的には劣っている。
・歳入庁をやらないで、消費税を上げるのはおかしい。しかし、野党を含めてやると決めたことであり、弊害をなくす
ことが大切である。
[感想] 何時ものように、明快にアベノミックスを説明していた。しかし、今後の取り組みなどは他人ごとのように聞こえる
感じがした。