インターネット環境を基盤としたスマートオフィス・シティーの設計
〜ITが導く快適近未来社会〜 東京大学 江崎教授 H25.2.6
1.21世紀のIT基盤と企業
・20世紀のインターネットにより、人と人をつなぐことが出来るようになったが、70億人をつなぐためのアドレスには、
32ビットで可能である。21世紀のインターネットでは、ものと、ものや人をつなぐようになる。非コンピュータ機器を
オンライン化するようになる。そのため、IPv4のアドレスが枯渇した。そのために、インターネットの利用を増やす
にはIPv6が必要になっている。IPアドレスが枯渇すると、ビジネスが拡大している国や企業、組織では直ぐに影響
を受ける。地域的にはアジア、中東、アフリカが影響が出ており、機器では携帯電話機器、センサ、クラウドで影響
が出ている。安定しているとか金のない国や企業、組織では真綿のようにゆっくりと絞められるようになる。
具体的には、既得権益型の産業や企業、日本や韓国などのブロードバンド先進国、中小企業などが対象となる。
・21世紀の課題は持続性(BCP)とリスク対策であり、持続性としては、事業の危機やリスク管理のセキュリティ対策
であり、生産能力や生産効率による成長、イノベーションであり、災害やインシデントとエネルギーのリスクである。
数年前までは日本中が引き籠りになっていたが、最近、少しづつ変わってきていると思う。
・国に対して色々な提案をしてきたが、行き詰っており、国に頼らない姿勢になってきている。自分自身でどうやって
いくか考えないと駄目だと思うようになってきた。これらを解決するのは、国家や自治体ではなく、自分自身である。
・21世紀の課題は、“Internet by Design“、@繋げる・繋がる、A自立・自律、分散、B『発明は必要の母』 である。
『エコ』というと節電や監視カメラ、自給自足のようにネガティブ思考になり、我慢、忍耐、縮小になる傾向があるが、
『エコな未来』は、プラス思考で考えるようになり、効率化や防犯のために、智恵と創造により成長する社会である。
同じようなものでも、見る方向や考え方によって大きく変わってくる。未来社会も、節電・省エネ、質素倹約、柔和
温順(大人しい)ではなく、弱肉強食、栄枯盛衰、自立自尊・切磋琢磨になっていくと考えている。
・3.月11日の東日本大震災を経験して分かったことは、すべての産業・活動が情報システムに依存していたという
ことであり、日頃動いていたもの“しか”動かないということ、グローバルなサプライチェーン(SCM)システムが、
既に構築されていたということが認識された。
・『価値』も大きく変わった。農業などの土地の価値も肥沃な土地を所有することであり、工業の物も物を生産・流通
する拠点がポイントになる。商業での情報の価値も情報や知恵を蓄積することが明確になってきた。
2.『もの』がつながると?
・『浦霞』が大儲けをしているが、昔の『浦霞』の酒造会社は小さな企業で儲からないため、後継者がいなかった。
そこで、酒の生産プロセスをすべてデジタル化した。それにより、酒を農業製品から工業製品に切り替えることが
出来、大量生産ができるようになり、儲けることが出来るようになった。日本全国の酒の造り方が大きく変わった。
・“Green Eco System”で節電、省エネを目指しているが、節電は儲からないため、楽しくない。金型工場の中島工機
は待機電力を調べて、60%の削減を実現して表彰されたが、実際の目的は工場の生産活動の効率化であった。
このように、エコでは、節電と生産活動の効率化を同時に実現できることが大切である。
・1960年代の公害対策の頃と同じで、目標や目的は生産性と効率の向上であり、少ないコストで、大量で綺麗な製品
を生産することであり、環境の改善は実はおまけだった。しかし、この環境改善が競争力になった。
・年齢が28歳で、身長が196cmで体重95Kgのボルツと年齢50歳で、身長168cmで体重が105kgの江崎教授を比べる
と体格、構成要素の違いは小さいのに、効率の違いは絶大で,100m競争の時間が9.58秒と無限大となっている。
構成要素の違いより、どう動かすかが非常に大きなポイントになるということが分かる。江崎教授の足がロボット化
されたら、革新的技術やアイデアの導入が容易になり、ルールを変えられるかということになる。ICTでいうと新しい
ルールが出てきた。どう使って仕事を変えていくのかということであり、条件が変わると新しい世界が開けてくる。
・スマートな都市や事業所の設計を考えると、人の最も大事な脳や具骸骨に対応するものがサーバとデータセンタで
あり、神経がインターネットに対応し、各器官がセンサーやアクチュエータに対応することになると考えられる。
・LED照明の導入効果は、大塚商会本社ビルでは37.6%も照明電力が削減された。飲食店では90%、倉庫業では66%
削減した例がある。江崎教授の部屋でも、蛍光灯LED照明に比べて電力削減効果は44.8%であったが、これでは
面白くない。しかし、より明るく、より綺麗になったことという新しい成果が出てきた。
・ICT Native実現のため、LED照明は何故専用の電線が必要だろうと考え、イーサネットで給電することを考えた。
また、LEDは発光体の固まりなので、電灯の形をする必要がないのでないか考えると、可視光も非可視光も使える。
Phase Array化すると、LEDの中にアクセスポイントを入れ、任意のところだけに光を当てることが出来るようになる。
・IPv6の実験でスピーカーの形を変えると、伝えたいところだけに聞こえるように出来たが、LEDでも同じとなると思う。
・サーバ・コンピュータの電力削減メニューとしては、最初に、5年以上利用している古いコンピュータの見直しにより
66%を削減する。次が、必要なサーバを効率化し、ノートPC化により83%削減し、仮想化集約で90%削減した。更に、
停止することが難しい機器を外部のホスティングに移設することにより100%削減する。
・江崎研究室でプライベートクラウドを利用した本当の効果はシステムの管理性とBCP.問題解決の迅速化である。
節電の効果は大したことはない。他の効果の方が非常に大きなものになるため、何を求めるかが大切になる。
・東京都環境局は毎年6%の電力使用量を削減するように指導しており、2008年頃は大量で電力消費量が急増する
データセンターは『悪者の見本』とされていた。しかし、NTTと協力して調査した結果、データセンターは実は『良い
奴』ということが分かり、現在はデータセンターを規制の例外規定にし、利用を推奨するようになった。
・『孫正義的生活でエコ・省エネ』では、iPadとi-Phoneだけの生活により、個人情報保護法と情報漏洩対策している。
Think Clientはお家で充電し、オフィスではバッテリーで駆動する。サーバはデータセンターへ疎開させる。
最後は、社内ネットもOFFにし、3G/LTEで接続する。これにより、セキュリティとモバイル、自宅で仕事をすることの
すべての課題を解決することが出来たということである。
・エコについて、省スペース化で床面積を小さく出来るとか、電気代が安くなり利益率が上がる、電気代を社員につけ
回せる、情報管理が容易になるということではなく、ゆったりとした業務空間を獲得でき、他のものが買え、自宅で
仕事が出来、飲んで帰宅できるということであり、従業員と雇用者がWin-Win の関係になることである。
3.東京大学での事例
・東京大学が都内の業務系事業者中で最大のCO2の排出事業者であり、削減を求められた。2010年のピーク電力
使用量は66000KWであった。IEEE1888を用いた特別高圧受電・給電の見える化により、2011年夏には、主要5キャ
ンパスでは31%、工学部2号館は44%削減した。IEEE1888はシステムの設計・運用を、ベンダー主導からユーザ主導
へ、系統縦割り構造から水平方系統連携構造へと変化した。更に、ベンダーロックインからの解放、データベース
へのアクセス方法のオープン化が実現できることから、大きな改革が出来た。
・すべての部屋の空調も人の動きに合わせるように、きめ細かく管理できるようになったことから、頑張り過ぎている
人が分かったり、最適な環境が出来るようになった。節電対策の正しい意義は、従来のコスト削減や社会貢献では
なく、リスク管理、生産性向上、快適性・創造性であると思う。
4.トーマス・エジソンの逆襲
・データセンタの進歩により、直流電流の効果が高くなり、これまでの電力は交流で長距離伝送する方が良いとして
きた考えを大きく変えており、本当のインフラの進化が進み、コンピュータとネットワークの自立と自律が実現できる。
・HP All-in-One ero Clientでは 13Wの超低消費電力で、必要な接続ケーブルは1本とした。これにより、通信線で
電力供給でき、バッテリーで駆動できるようになった。停電になっても、サーバの給電があれば、コンピュータは
動くし、シンクライアントが進むとパソコンの共有が出来るようになることが考えられる。これまでのコンピュータは
電気がなければ、ただの重い箱ということであったが、データセンタからの給電が出来るようになると大きく変わる。
5.まとめ
・“Internet by Design”では、最初のねらいと別のことが起こるが、それを進めることが重要になってくると考えている。
・単純な目的でなく、色々な目的のために、役立つものを考えていく必要がある。21世紀にはエネルギー問題は大きな
問題になる。活動が下がるようなことはやるのではなく、活動的で快適な社会生活が出来るようにすべきである。
『感想』 IPv6の技術的なお話かと考えていたが、21世紀のインターネットと大きく変化する技術開発についてのお話であった。
色々は方向から色々な話をされたので、お話を理解することが難しかった。しかし、全体として、大きな変化の方向は少し
分かった感じがした。特に、印象が強かったのは、通信線を利用してパソコンや端末を動かせるようになるのではないかと
いうことは、昔の電話のように、通信と情報処理が電力会社から独立できるという面では大きな変化が起きるように思った。