グローバル経済と成長戦略  慶応大学 竹中平蔵教授

 1.少し高い目線に立って、先を見て欲しい

   ・民主党は既に豊かになっているので、1%成長であくせずしないで生きたいということで取り組んできた。

    昔、アルゼンチンは非常に豊かであり、フランスより一人当りの所得が豊かであったが、成長率が違っていたので、

    今ではフランスの半分程度になっている。成長率が12%しか違わなくても、60年後は非常に違ってくることとになる

   ・今の世界を見ると、いつでもどこかでバブルが起こっていることである。米国では2000年にITバブル(.Comバブル

    が起き、2003年にはサブプライムローンのバブルが起きた。その後ユーロバブルが起きている。これは、ドルが過剰

    に供給されていて、常に、ドルが行き場を求めて、バブルを起こしている状況である。お金が入ってきて、株や土地が

    上がっているが、消費者物価が上がらない。需要が増えても、供給側の供給力が高まっており、この原因がITである

    昔は軍事力に使ったが、今は人口が増えたところに行っている。中国、インドからBRICNEXT11と変化している。

   ・10年から20年で世界の動きを見るとこのような動きが出てきていることが分かる。最近は調整の時期になっている。

    ユーロ危機では欧州の銀行が国債を買い支えることを表明し、米国も支持することになり、日本もこれに乗ってきた。


 2.アベノミックス

   ・アベノミックスは理論的には正しいが、本当に実現できるかということが課題である。

    株価は昨年6月が底だった。今年の5月までに80%以上も高くなっている。バブルの時でも60%しか上がっていないのに、

    今回はもっと高くなっている。今は調整局面であり、米国の金融引き締めの動きで調整に入っている状況である。

   ・今回の動きで考えると、金融政策は非常に大事だということが分かった。デノミの時はお金を持っている人はないも

    しないことが良いことであり、需給ギャップがあると物価は下がる。このため、お金が出回らないことが問題である。

    第2は機動的財政政策であり、これは予想通りに効果を発揮している。財政再建することはまだプランが出ていない。

   ・4年ぶりに骨太方針を出した。骨太方針を4年ぶりに出したことは良いことだが、まだ、財政再建の中身が決まって

    いない状況である。参議院選挙もあると思うが、少しでも早く財政再建の中身を出す必要がある。

   ・竹中さんが財政運営を行っている時は成長戦略は出していなかった。成長戦略が出てから今まで成長が止まった。

    民間の人達が自由に競争して経済を成長させていくしかないのである。霞が関の役人は政府がお金を出して後押し

    ないと駄目だというが、役人にどの企業が伸びるかなんていうことは分かりはしない。最近のようにWeb関連企業が

    このように伸びると考えただろうか、ほとんどの人は考えなかったと思う。

   ・民間に自由を与えて競争してもらうしか成長しないと考えている。 企業が自由に仕事をし易いかという尺度がある。

    12位はシンガポールや香港である。小泉政権時代には、日本は40位から27位と上昇したが、その後下がっており、

    今は47位に下がった。アベノミックスは20位に上げて、最終的には10位以内を目指している。


 3.成長戦略

   ・農業の企業参入や混合医療など、非常に厳しい岩盤規制というものが68つある。今回はこれらについては全く

    手がつけられていない。しかし、今までの成長戦略よりは良いと考えている。それは、岩盤規制を壊す仕組みが

    出来たことであり、それが、特区である。今までの特区は地方がお上にお願いして上が判断してきたが、今回は

    上から決めることである。猪瀬さんが、日本金融市場を世界で最も早くするため、時計を2時間早めると言って

    いるが、シンガポールでは金融市場を活性化するため、既に、時間を早めることを実施している。

   ・もう一つはコンセッションという仕組みである。インフラを運営する仕組みを民間に売ることである。

    欧州では、ほとんどの空港の運営は民間が行っている。フランスは水道事業を民間に任せている。今の日本は

    このような事業を民間にやらしていないので、出来ていない。これにより40兆円のお金が国に入ってくる。


 4.ITの活用

   ・今まではITを活用して供給を高めることを行ってきた。三木谷さんは対面でなければならないことが多く、それが

    ITの活用を阻んでいると言っている。大学の事業、役所の事務など、ITを使えばもっと効率的に出来るようになる。

   ・今の社会の新陳代謝が低い。収益力の低い企業が残っている。収益力を上げられない社長が多い。海外では

    社外取締役が多く、収益を上げられなくなった社長は交代している。ITを普及させるには、ITの分からない社長は

    辞めてもらうことである。雇用の流動化が良く言われているが、その前に、社長の流動化である。

   ・今の日本は1920年代の日本と良く似ている。第一次世界大戦の後、日立や松下という企業が出てきた。

    1925年にはNHKがラジオ放送を開始した。関東大震災の後、郊外に人が住むようになり、私鉄が出てきた。

    1927には浅草上野間の地下鉄も開業したし、山手線が1929年に開通した。

    このように色々なものが実現した時期であり、今の日本もこのように発展させていきたいと考えている。


 [感想]
    アベノミックについて、面白く説明してくれた。日本の閉塞感の原因が少し分かった感じがした。
   第一次世界大戦が終り、関東大震災の後 1920年代にこのように色々なことが起こっているとは思わなかった。