出る杭を伸ばす組織が生き残る  慶応大学 橋本大二郎様

1.日本の未来(アベノミックス)

   ・日本の過去の流れを見ると、2度、日本の統治の仕組みを壊して組み変えている。1度目は明治維新であり、

    明治の改革では、黒船が来た時である。幕藩体制から立憲体制に変えた。その後、富国強兵を旗印に坂を

    上っていって、軍国主義になり、太平洋戦争に突入した。2度目は敗戦後、マッカーサが登場した時である。

    経済発展に邁進して、所得倍増へと進み、1973年の石油ショックに見舞わられた後、バブルとなり、バブル

    崩壊後、失われた10年、20年となった。それと並行して、グローバル化が進んだ。

   ・これまで2度坂から下り落ちた。今度は3度目の坂を上ることが出来るか。これまでは黒船、マッカーサという

    外圧によって改革した。3度目の開国になる外圧は何か。地域と連携して坂を登らないといけないと感じている。

    アベノミックスでは3本の矢を言われている。(毛利の3本の矢を束ねると強くなるという意味とは異なっている。)

    1本目の矢は金融緩和で市中にお金をばら撒いている。輸出企業が回復し、株価が上がっている。2本目の矢

    は機動的財政出動である。しかし、日本の財政は大きな借金を抱えていて、大胆なことは難しい状況である。

    3本目の矢は成長戦略であるが、第3の矢がきちんと飛んでいくのかが重要になってくる。生産性を高めるもの

    に投資することが必要であり、日本は少子化が進んでいるため、グローバルに展開していく必要がある。

   ・大胆な改革を行う必要がある。これが出来るのは橋本さんではないかと考えているが、最近は大阪府構想など

    の話が出て来なくなったので、気になっている。橋本さんがいなくなれば改革を進める人がいない感じがする。

    今の日本は官政財が手を組んだ状況になっていて、社会全体にしっかりと根差している

    大胆な改革を行うには血を流し、痛みを伴う必要があるが、このような改革を行う人が出てくるのか心配になる。


2.企業・人も残るため、画一化のワナ

   ・成長戦略がどのようになろうとも、企業も自治体も残るには、画一化のワナに入らないようにする必要がある。

    自治体にとって補助金は必要なものであり、補助金でハード、ソフトを整備してきた。国が財政的に行き 詰って

    きた状況では補助金も厳しくなる。補助金を受けると、金太郎アメのように全国同じような表情になってくる。

    広い都市道路が町の中心に走る形態の街とになるため、個性がなくなる。個性がなくなれば元気がなくなる。

   ・地域の個性を残し、活性化している町がある。例えば、村上市である。村上市は典型的な城下町であった。

    商店街をつぶして、大幅な道路を作る計画が出たが、反対した人がいた。計画が出た時、会津若松に相談に

    行ったら、大きな道路を作って街づくりをして上手くいったところはないと言われて、調べるとその通りであった。

    道路建設を反対するのではなく、町屋を残す運動を行った。町屋で人形様祭りをしたら、沢山の旅行客が来た。

    町の人も町屋を復元する考えになり、着実に復元している。画一化のワナから抜け出して成功した事例である。

   ・日本の企業の動きを見ていると、品質を求めて、高品質のものを作ることに拘るようになっている。価格が高く

    なると対象とするお客さまが限られてくる。中国でも4千万人しか対象とすることが出来なくなっている。もう少し

    品質を落としても価格を下げると、中国では数億人を対象に出来るのではないか考えられている。このような

    取り組みをするには、出る杭の人材を育てていく必要がある。育てる前に、採用の時に型にはまらない人材を

    採っておく必要があり、型にはまらない人材を仕事の中で大切にしていく風土を作る必要がある。


3.差別化するためのICTの技術

   ・議会制民主主義が形骸化している。自治体の仕事もマンネリ化している。高知県知事の時に県民参加の予算

    を作ってきた。当初は県の職員から激しい反発があったが、県民のためということで職員を説得して実施した。

   ・県民参加の予算は、県事務所毎に数百円の予算を作り、実行する方法で行った。県が考えたのと同じような

    事業も出てきたが、取り組みが違っており、成果を上げた。 県が事業を行うと、計画したら外注してしまう。

    しかし、NPO等は事業を計画し、事業の取り組みを自らが行う面で大きく変わってきた。

   ・県が管理するソーシャルネットワークを計画した。県がソーシャルネットワークを開設し、民間の人に入って貰う。

    ソーシャルネットワークの管理も県が実施することで行ったが、大失敗だった。

    クレーマか悪口を書き連ねた。注意するとその人への悪口が集中して、ブロックできなくなり、2年で閉鎖した。

    県が管理するということで、クレーマを抑えることが出来なかった。今なら行政でも活用できると思うが、民間が

    ソーシャルネットワークを運営した方がクレーマを抑えることが出来るため、良いと思う。

   ・県の仕事の30%をアウトソーシングすることにした。県の職員から反発が強かったが、県民サービスを充実する

    ためということで説得した。アウトソーシングをする時、縦に見て考えたのでは上手くいかない。横軸で共通項

    を調べて切り出せるものをパターン化して切り出した。議事録の整理や調査業務をテレワークに切り出した。

    横からみて共通項目を見つけ出し、ICTを活用できると思う。それにより、行政の仕事が飛躍的に変わると思う。

   ・出る杭の人は常識に捉われないで考えていく人であり、行動する人であると思う。ニュートンのリンゴの話の

    ように、リンゴが落ちるのを見て引力を考えるのは特殊な人だと思う。未常識のところで新しいものを切り開く人

    である。ジョン万次郎も4人が遭難してハワイに行ったが、3人は帰ったが、ジョン万次郎だけが船長の勧めで

    アメリカに渡った。船長室で世界地図を見て日本が東洋の端にあることを知り、造船と航海技術に目をつけた

    ところが違う。カシオもあったら良いなという発想から、発明は必要の母であるという見方をしたところが違う。

   ・これからは、色々な発想を持った人材を見つけ育てる必要があると思う。

  「感想」
    高知県知事だった橋本大二郎様のお話を聞いた。1時間半と長かったが、なかなか面白かった。
    県知事時代の取り組みが中心であったが、出る杭の人を採用し、育成することの難しさを感じた。