日本経済再生の処方箋 日本総研 藻谷主任研究員 24.12.12
1.日本経済の現状
・日本人は戦術が得意であり、戦闘が好きである。戦略を忘れて、戦術、戦闘に力を入れて過ぎて失敗する。
日本の歴史上、大きな失敗の一つは第2次世界大戦である。特異な地域で奇襲のより、大きな成果を
上げることに集中して、大きな犠牲を出して敗北した。
・旅行やイベントを増やして地域振興を考えることが多いが、今の社長や課長は昔の温泉旅行のことしか知らない。
客を集める人数を増やせば良いと考えているが、儲かる地域振興をやらないといけない。
・工場を誘致すれば、地域振興になると言われているが「工業主導の成長」の現実を考える必要がある。
日本の工業の出荷額は、1985年から2010年まで微増である。工場で働いている人は3割減っている。
これは人が機械に置き換えられているためである。これにより工場の生産性を向上している。
日本の輸出額はプラザ合意の1990年は42兆円であったが、2011年は63兆円と大幅に増えている。
地域の従業員が減少しているので、工業が駄目になったと言われているが、人が機械に変えられて、
工場は生産性を上げている。工場が活性化するのは、従業員を減らして生産性を上げていることである。
昔のように工場は若い人の雇用を増やすものではない。もの作りは雇用を増やさない分野であることを
考えるべきである。
・製造業は外貨を稼ぎ食料や石油を買ってくる産業であり、人を雇って喰わせる産業とは違うと考えるべき
である。今後、雇用を増やすのではコンベンションである。
2.日本の収支
・貿易収支は石油やガスを買うのが急増しているため、赤字となっている。しかし、金融部門は14兆円稼ぐ
産業になっているので、日本の経常収支が良いため、当面は問題はない。最近、多少ピンチになっている。
輸出が増えないのに、化学燃料の輸入が急増して、輸入が増えている。今は、米国はシェールオイルやガス
が出て、石油を輸入しなくなり、石油が余って価格が下がっているので、これが追い風になっている。
大震災で輸入する石油を増やしているが、円高のおかげで、貿易赤字はそれ程、大きくならなかった。
円安になると、輸入額が大きくなり、貿易赤字が大幅に拡大する。円安は良いことだけではない。
・今の日本は、中国と香港を合計した収支は大幅な黒字である。中国が栄える程、日本が儲かるように
なっている。旅行収支も昔の大幅な赤字から大幅に改善されている。原発事故や尖閣の問題で今年は
中国からの旅行者数は大幅に減少しているが、富裕層の旅行は減らなかったので、売上は減らなかった。
・強いと言われている韓国との貿易収支は2兆円の黒字であり、韓国のウオン安であるが、日本の貿易黒字
が増えている。韓国との旅行収支も韓国の人口が少ないため、大幅な赤字であったが、今は収支均衡した。
3.日本のデフレ
・不景気を分析してみると、90年以降は所得が増えており。小売も増えていた。その後、小売が減少した。
小泉、安倍内閣の時期に金融緩和したため、所得は増加したが、小売は増えなかった。それは、所得は
増えても使う必要がない人が増えてきたということである。小泉首相の時期に、東京では3兆円の所得が
増えたが、小売の売上は減少したため、百貨店の統廃合が進んできた。
働いていない高齢の富裕層の所得が増えている。特に、地方に高齢の富裕層が多い。この人達はお金を
使うより、貯めることに力を入れており、マネーゲームにお金が回っているという状況である。
・日本の人口は1995年をピークに6%減少しており、1000万人いる団塊の世代が退職していくため、生産人口
が急速に減少している。働いている女性も出産すると所得がなくなるため、子供を作らなくなっている。
企業もベースアップしていないため、給与総額が減っており、消費が減っている。企業も昔からの若者を
相手にした商売をしているため、お金を持っている高齢者も消費をしないため、日本の消費が減っている。
現在のデフレの正体は、生産年齢の人口が大幅に減少し、日本の経済が縮小していることである。
・日本を再生するためには、若者中心のビジネスから富裕者向けのビジネスに転換することである。
4.日本の観光が何故不振か。
・会社の旅行を中心とする客は急減し、高齢者はこのような旅行を望まないため、客数は半減している。
今の旅行者は“ここでしか○○・・”ということにお金を使っている。寺社や名所ではお客様を呼べない。
・京都が努力して成果を上げているように、桜やもみじなど今でしか見られないとか、ここでしか食べられ
ないと言うことには客が来る。イベントは若者が多く、売上が増えない。イベントが終わるといなくなる。
・滞在する理由を作る必要がある。このためには、宣伝の前に顧客満足度を調査をする必要がある。客の
消費を増やす工夫が必要であり、お客様の声から要望を見つけることがポイントである。
これには客からの視点が必要である。日本語には主語がないと言われるが、これは常に私が主語で考えて
いるため、主語を省略しているので、自分からの視点である。そのため、客からの視点は苦手である。
・客を細分化して狙いを付けることが大事である。誰を相手に商売するのか考え、利益や経済効果が出る
相手に絞り込むべきである。高マージン、高リピート、良い情報を得られる人に的を絞る必要がある。
・観光で言うと、敢えて当地を選ぶのか明確に掴んで売り出す必要がある。言い訳の立つ行事や場所に人は
集中している。それ相応なことには満足している人には、分かり易い言い訳が必要である。
その土地の人には、「そんなことは当たり前」は、お客様を侮辱していることになる。当たり前でない
から、わざわざ来る言い訳になっていることが分かっていない。ここだけにしかないものが必要である。
(感想)
藻谷さんの話は初めて聞いたが、面白かった。日本の政治家は数字が読めないので、現状認識が間違っている
ことが多いと話していたが、もっともだと思う。今日はイベントを盛り上げるイベントだったので、観光の話が多かった。
話の中で、シンガポールの政治家や実業者が今は日本に行きたいと行っているが、その理由が四季だということは
面白いと思った。これから四季をテーマとした写真を撮ることにしたいと考えた。