ニッポンのものづくりは高付加価値で生き残る!!  産業タイムズ社 泉谷社長

1.半導体は30兆円の巨大市場で高度成長の歴史

   ・1947年に米国ベル研究所でトランジスタを発見してからリーマンショックの2008年まで年10%の成長と続けた成長産業で

    である。2009年以降はIT産業が成熟しているため、成長率が鈍化している。

   ・半導体はパソコンで40%液晶TVのデジタル家電が25%携帯電話が20%自動車等の産業機器が15%を使っている。

    通信とネットワークなどは伸びているが、パソコンやテレビ、携帯電話も普及が飽和しており、成長は止まったと思う。

    世界のIT産業は順調に成長して120兆円となったが、今後はこれ以上、伸びていくことは考えられない。

   ・主要な半導体企業の売上のトップはインテルであり、次がサムソンである。伸び率ではクワルコムが33%でトップである。

    メモリー勢(Hynix、Micron、Elpidaなど)は総じて減収となっているが、13位のソニーは16%伸びている。

    ソニーはカメラで利用されるCMOSセンサが順調で、多くの工程を手作業で行っており、他社では真似が出来ない。

    世界の半導体市場では、価格競争から品質、納期が重要になっている。


2.三次元立体構造のトランジスタの実現

   ・4月にインテル社が3Dトライゲートトランジスタと呼ぶ三次元構造の技術を採用した第三世代Coreプロセッサを発表した。

    インテル社では、立体構造の導入で性能向上と省電力化が可能となり、リーク電流は1/10に抑えられると主張している。

    三次元立体構造のトランジスタを製造するには、年間で数千億円の設備投資が必要なため、インテル、サムスン、東芝

    などの4社程度に絞られ、半導体業界は、先端を行くAグループと先端に行けないBグループに二分すると思われる。

   ・DRAMの微細化が限界にきていることや電子機器の省電力化のため、メモリーシステム全体の不揮発化は必須となり、

    MRAMの開発が活発化しており、東芝とSK Hynixと共同開発しており、サムソンはベンチャー企業を買収している。


3.半導体製造プロセスの革新と日本の問題

   ・日本の半導体製造プロセスは、設計から回ってきた方法論を徹底的に機械にやらせる手法を取るため、時間がかかる。

    サムスンは不具合が出れば、回路設計を含めて設計部門が修正するため、開発期間が短く出来、競争力を持っている。

   ・最近は半導体製造プロセスにコンピュータシステムが導入されるようになり、生産性が劇的に改善されている。しかし、

    日本では各セッションのエゴイズムが解消されず、全体最適が出来ていない。トップダウンでやるしかないが、日本の

    カルチャーはボトムアップのままであり、生産効率が悪く、コストが高くなり、競争力がない状況になっている。


4.パワー半導体の市場

   ・パワー半導体は風力発電や太陽電池などで利用されており、発電装置の中では半導体が大きな比重を占めている。

    今後伸びているのは、トランジスタ(MOSFETIGBT)とダイオード(SBDFRD)である。

    パワー半導体の製造では三菱電機が33%とトップで、日本の上位3社(富士電機、Infineon)で67%を占めている。


5.
CMOSセンサーの医療分野での利用

   ・CMOSセンサーは携帯端末向けを中心に生産数量は右肩上がりである。しかし、成長率が少しずつ下がっている。

    ソニーの狙いは医療分野と次世代環境自動車であると思う。オリンパスを取り込んで、内視鏡の市場を拡大するが、

    その後は、カプセル内視鏡を開発すると考えられる。カプセル内視鏡では、ライトやカメラ、対外との通信など色々な

    機能を半導体に持たせる必要があり、カプセル内視鏡の70%が半導体になると考えられている。

   ・医療分野では信頼性が要求されるため、半導体に対しては高価格だが、高品質が求められることになる。

   ・医療分野の市場は、医療機器が40兆円、医療品は100兆円に成長することが予測されている。


6.シェールガス革命

   ・主要なエネルギーコストを見れば、kwhあたりで石油が10円、風力が20円、太陽光が40円といったところである。

    米国では、掘削方法や資源の探索方法が確立したため、シェールガスのコストは6円と凄まじく安くなっている。しかも、

    埋蔵量が米国だけで150200年はあると言われている。ロシアや中国など全世界では300400年と予想されている。

   ・石油が2030年、石炭が7080年でなくなると予想され、原子力発電か、再生エネルギーしかないと言われていたが、

    原子力発電が世界的に後退する傾向の中で、シェールガスが出てきたので、米国は大きく変わる可能性が出てきた。

   ・シェールガスの登場で環境車の世界も変わる。シェールガスは環境にも良いので、EVはいらないという声も出ている。

    米国はデトロイトにフォード等が新工場を建設することを内定しており、日本の輸出も米国に変わることが予想される。

   ・シェールガスは2000m掘り下げる必要があるが、この圧力に耐える鋼管パイプを作れるのは、新日鉄住金のみである。

    シェールガスを液化して運搬する船のアルミ厚板は古川グループと日軽金しか作れないなど日本の企業も活性化する

    ことが考えられる。日本も秋田県でシェールオイルが発見されたり、メタンハイドレートを含めて開発が活性化している。


7.自動車は500兆円の巨大市場に

   ・自動車産業の世界市場は直近で300兆円となった。ここ数十年の内に500兆円に拡大する見込みである。ハイブリッド、

    プラグインハイブリッド、バイオディーゼル、電気自動車の開発が加速しており、環境車の比率は2030年に50%になる

    との予想もある。これらの重要部品はリチウムイオン電池、パワーIGBTであり、日本の企業がトップシェアである。

   ・CO2削減のため、自動車の骨格の素材を軽量化する必要があり、炭素繊維やマグネシウム合金、などの新素材が

    必要になる。炭素繊維は東レ、三菱レイヨン、帝人などが高いシェアを持っている。

   ・自動車が衝突を防ぐ装置を開発しているが、装備の法制化の動きがあり、欧州で2年後に法制化されるという意見が

    ある。この装置には四方にセンサが必要であり、半導体が多く使われると思われる。


.日本は高品質、高付加価値で生き残る

   ・日本が空洞化していると言われているが、昨年度の日本の設備投資は22兆円であるが、国内の設備投資は20兆円で、 

    海外への投資は2兆円でしかない。日本は内需に支えられている状況である。

   ・3.11の東日本大震災の状況から、日本が見直されてきている。大きな津波がきた割には、死者が少なく、建物の破壊も

    少ない、ライフラインも早急に復旧した、暴動なども起きていない、など世界から日本が評価されている。

   ・最近は海外の有力企業が日本に工場を建設する動きが増加している。マレーが九州に、ユニコアは神戸、横浜、名古屋

    などに、サンコアは三重に、HPは上海の工場を撤退し、筑波?に工場を建設するなどの動きがある。

    現在、海外の有力企業の50社以上が日本に工場を造る動きをしている。日本の信頼性が認められたものである。

   ・世界が日本に期待するのは最高レベルの品質を持ち、最先端の技術を積み込んだものである。そのため、日本に企業
    は高価格、高品質、高付加価値で生き残るべきである。


 感想:泉谷様は半導体を専門に編集に長年関わっているためか、非常に面白い見方を
教えて貰った感じがした。
     私が関心を持っている医療や自動車、エネルギー分野の動きについての説明には大いに興味が持てた。