時代の変化に即応するためには、創造的革新の持続が必要だ! 
大星元ドコモ社長

 1.マネージメントに対する考え方

   ・業種業態や経営環境、企業の歴史や文化などが異なることから、すべての企業に適用可能なマネージメント

    はない。各企業毎にマネージメントは異なる。各企業がトップの自己責任で戦略を勇断することであるが、

    大企業では失敗を恐れることから大胆な戦略を行わない状況になっている。

   ・競争市場において「勝つ」戦略は、競争市場で競争しないことである。競争しないためには、「差別化」に

    より、他の企業と競合しないことである。継続的に、「差別化」を保持するためには、経営革新(イノベー

    ション)を持続する必要がある。差別化するためには、企業が技術革新していくことが必要である。

   ・イノベーションを持続するには、すべての社員に、自分で考え、自分でトライする自由を与え、失敗の責任

    は社長が負うこととし、失敗からイノベーション創出を学習させることである。現在は人間の能力が上から

    抑えられているので、大胆にチャレンジし失敗を重ねている人を登用すべきで、何もしない人はいらない。

   ・会社の形態や運営システムを変えるような「Big Change」は社長自らが熟慮発想してチャレンジする必要が

    ある。失敗したら、後任を指名して、自らは社長を退任するべきである。全社の大きな変革は社長でないと

    出来ない。これをやらないと駄目と思ったら、失敗を恐れていては上手くいかない。中小企業も同じである。

    大星さんはNTTドコモを「音声通信」の会社から「情報処理」の会社に大きく脱皮させた。 

 
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.ドコモの変革

   ・昔、ドコモは無線技術では世界でも進んでいたが、13年間売れていなかった。赤字が続いていた会社である。

    大星さんは、独占から競争時代に進むべきと言ってNTTから追い出されるようにドコモに出され、任された。

   ・ドコモで本当に売れないのか考えた。色々と調べた結果、黒川紀章さんが「人間があちこち動き回るように

    なる。行動範囲が拡がる」と言っていた。人間の行動範囲が拡がると時間が必要になる。無線通信は時間を

    有効に使える手段になる。そうするとドコモは時間のニッチ産業になると思った。

   ・何故売れないか考えた。売れない理由は苦情処理表を見れば分る。お客様が何で苦情を言っているか調べる

    必要があると思い、苦情処理表を自ら調べた。主な苦情の23つを解決すれば良くなることは分っていた。

    お客様の多くの苦情は、@つながらない、A高い ということであった。

   ・つながらないのを調べると、道路に沿ってアンテナを立てていたため、街の中ではつながらなくなっていた。

    当初、自動車電話から発達したので、道路に沿ってアンテナを立てていた。そこで、ネットワークを線から

    面にすることにした。300億円くらい資金が必要であったが、生命保険会社から借りることが出来た。

   ・高いのは、携帯電話を購入する時に保証金が14万円かかっていたためである。携帯電話は固定電話のように

    線につながっていないため、持ち逃げされる恐れがあるため、高い保証金を取っていた。直ぐ止めさせた。

    これらの取り組みにより携帯電話は飛躍的に売れるようになった。

   ・ドコモのように技術革新の激しい会社では5年先くらいのことを考える必要がある。携帯電話も普及していく

    と共に、競争が激しくなり電話機の価格が下がると、ドコモは赤字になる。“もしもしハイハイの通話では

    付加価値はない。通信に付加価値をつけるべきだと考えた。アメリカの経済学者が議論していたが、ものが

    飽和状態になると成長が下がると言っていた時に、ダニエル・カーネマンがものが豊かになると、精神的な

    豊かさを求めるようになり、サービス産業が成長すると言っていた。

   ・そこで、ドコモは通話から情報処理に転換することにした。情報処理を行うには、ネットワークをパケット

    にする必要があり、1年で開発した。電話機をパソコンにしたICが進歩したので、パソコンが電話機に入る

    ようになった。もしもしハイハイの通話から情報処理会社に変えた。それがiモードである。松永真理さん

    はコンテンツを考えていたが、ドコモは情報処理のネットワークを目指していたので、考えが違っていた。

 
 3.ノブレス・オブリージュ

   ・ノブレス・オブリージュという言葉が好きである。経営の基本にしている。ノブレスとは選ばれた人という

    ことで、社長に選ばれた者としては、ノブレス・オブリージュが必要であると考えている。

    ノルマンディーの戦いの時、兵士が恐れて上陸をためらっていた時、貴族が先頭に立ち、上陸し勝利を勝ち

    とったため、戦死者に貴族が多い。貴族がノブレス・オブリージュを意識し行動したので、尊敬されている。

    経営とは、黒字にすることである。稼いだ金をどう使うかというと、最初は値下げである。次は、社員

    ボーナスを出す、更には、派遣社員を社員にすることである。その次は、利益はその地域から得たのだから、

    地域に還元することである。地域の困った人を助けることである。

   ・ドコモでは県の福祉協議会にお金を出してたり、植樹をしたりして、全国にドコモの森を作っている。

    タイに生活困窮者が多い。学校で学ぶことが出来ず、仕事も出来ないので、学校を作って欲しいと頼まれた。

    100万円くらいで学校を作ることが出来るので、お金を出してタイに学校を作っている。

   ・ドコモでは下請けは止めさせた。下請けは元請けから買い叩かれるため、下請の社員は士気が上がらない。

    お客様が安いものを手に入れる時には、生産者が買い叩かれた上に成り立っていることを考えて欲しい。

 感想:80歳と思えない発想で、なかなか面白い話が聞けた。特に、ネットワーク屋的な見方が明確に示されたので
     私としては分り易かった。