激動の世界と日本経済 慶応大学 竹中教授  H24831

1.激動の世界

   ・現在の状況を、統一的なテーマを鳥の目で見る必要がある。もう少し高いところから見るとものの本質が見える

    ハーバード大学のハインフェッツ教授はバルコニーに駆け上がれといっている。混雑するダンスホールでは、他の

    踊り手やバンドの様子が分らないが、フロアを離れてバルコニーに上がると全体の様子が分ると言っている。

   ・先日、欧州から帰ってきたが、欧州は比較的に落ち着いているように見えた。

    欧州で日本の電力不足の話をすると欧州の人は首をかしげる。欧州では電力は自由化されているため、需要と

    供給のバランスがとれるはずだという話をする。日本は独占することを認めているが、電力の供給義務がある。

    そのため、日本の電力会社は供給能力に余裕を持たせているが、今回の状況で余裕が多過ぎたことが分った。

   ・ここ10年で世界の国は大きく変わった。2001年にゴールドマサックスがBRICということが報告された。

    BRICは人口が多い国であるが、その頃は人口が多いことが良いことか悪いことかはっきりしていなかった。

    人口は資産か負債か見方が大きく分かれていた。中国とインドが人口が多いことは良いことだということ示した。

    更に、2007年のゴールドマンサックスの報告ではNext11という国々が急成長することを期待されると報告した。

    最近は中国やインドの成長に陰りが出てきているが、インドネシアの経済は元気が良い。最近はミヤンマーへの

    投資が増えている。ASEANの人口は6億人を超えており、欧州の人口よりも大きい。

   ・中国では中心国のワナに落ちないか心配している。一人当りの所得が500010000ドルまではいくが、3万ドル〜

    10万ドルにならないということである。韓国は過去30年で所得が13倍になったが、メキシコ3倍にしかなっていない。

    その差は企業のイノベーションを起こしたかどうかであり、日本が大いに貢献してきた。ここに日本の活路がある。

    中進国にはグローバルブランドがない。韓国はサムソン、LG電子、現代自動車などグローバルブランドを作った。

   ・中国はリーダーの交代が起こる。今後、新しいリーダーが中国をどのように引っ張っていくのかポイントである。

    中国には少子化問題があり、所得格差も非常に大きくなっている。成長で隠れていたが、今後矛盾が表面化する。

   ・アメリカも大統領選挙の年である。ロムニーが優勢になっている。 選挙の結果は分らないが、今回の選挙の結果

    は日本への影響は大きいと思う。オバマ大統領は金融緩和でドル安政策を取っている。TPPで貿易を増やし、雇用

    を増やしたいと考えている。共和党は強いドルを目指しており、アメリカの経済が保護主義に走る課題がある。

   ・欧州はOECDが面白い見方をしてきた。経済見通しに新しく危機シナリオを出してきて、2本立てとしたことである。

    ギリシャ、スペインの国債が問題になっているが、これらの国債を最も多く持っているのはフランスの銀行で、次が

    ドイツ銀行であり、これらの銀行が非常に大きな不良資産を持つことになり、銀行機能が不全となる恐れが強い。

    銀行を監督する制度や不良債権の基準がバラバラなため、これに対するため、銀行同盟という言葉が出てきた。

    欧州を引張っていくドイツのメルケル首相も来年選挙であり、大胆な政策を取れないため、長期化する感じである。


2.日本経済

   ・日本の株は5年前の半分になっており、異常である。アメリカはほぼ同じであり、欧州は1520%下がっている。

    日本には異常なことが一杯起こっている。例えば、働いている人の数は5年前に比べて150万人減少している。

    日本は異常な政策をやっているから、株価も戻らないのである。

   ・特徴的なのは、モラトリアム法である。中小企業が返済に困ったら、金融機関に返済猶予を申し出ると金融機関

    は認めないといけないということであり、返済延期が300万件となっている。この状況では銀行は金を貸せない。

    もう一つが、雇用調整助成金である。事業を縮小する企業が従業員に支払う休業手当を国は補助する制度で、

    退職予定者を雇用すると補助する制度となっており、450万人いる。これは失業者塩漬けとなっている。

   ・このような状況のまま、増税しようとしている。5年前の予算は82兆円であったが、今は95兆円となっている。

    リーマンショックで景気対策のために予算を付けたが、その後、それらは減っている。、その間に、大判振る舞い

    をした結果増えた。まず、予算を82兆円に減らすべきである。今回の増税は今のままでは穴を埋めただけである。

    社会保障と言っているが、低所得者対策が中心であり、中間層以上はなんら効果がない状況である。

   ・高齢者の社会保障は既に欧州並みになっている。若年者への社会保障は欧州の1/4程度と非常に少ない。

    現在は若年者への社会保障に力を入れないといけないのに、このままでは低福祉高負担になっていく。

    高齢者に対しては高齢者層の中で再配分すべきである。現状では非常に高所得者にも年金が支払らわれる。

   ・今の政策にはマクロマネージメントが求められている。

    原発の報告を見ると、日本中のリソースを集めて対応しなければならないのに、総理が細かな指示を出しており、

    ミクロなマネージメントのみをやっていたことが良く分る。(事務方がミクロなマネージメントを出来ていない。)

    今の政策を個々に見ると面白いことをやっているが全体を見ていない。日本再生の基本戦略では中間層を復活

    させると言っているが、どれ位難しいことか分っていない。昔の中間層の仕事はパソコンに変わったり、発展途上

    国が出来るようになっている。今の日本では中間層も先進的な高度な仕事をする必要が出てきている。

   ・決められない政治と言っているが、決められない政治には2つある。与党が与党内で決められない場合である。

    もう一つは衆参のねじれで決められなくなっていることである。衆参のねじれは、欧州のように与党がマニフェスト

    で示して選挙した結果は尊重するという紳士協定を結ぶ方法もある。

    政治が決められないのであれば、ギリシャのように、決められるようになるまで、何度も選挙をすれば良いと思う。

    今の政治は、決められる政治になったのではなく、安易なことを決める政治になったということだと思う。

   ・今回の問責は野田さんに対する不信感であると思う。野田さんは解散する力もなくなったのではないかと思う。

    第3極に対する期待が高まっているが、まだ、政策が出てきていない状況で、これからという感じである。

 
  私の感想
  久しぶりに竹中さんのお話を聞いた。今回はかなり政治の話をすると言っていた。今の政治家に日本のマスター
  プランを作る人が出てきて欲しいと思った。日本全体の将来のマスタープランがないまま、議論するとまとまらない
  と思う。