グローバル経済と日本の進路 慶応大学 竹中教授 H24.7.6
1.グローバルな中での日本の立ち位置
・真柄昭宏さんが書いた「ツィッターを持った橋本徹は小杉純一郎を越える」という本が出ている。
小泉純一郎総理はテレビを通じて国民に情報を発信したが、橋本徹市長はツィッターを通じて情報発信をしている。
橋本徹市長のツィッターには80万人がフォローしており、ツィッターの普及と共に大きな情報発信力となっている。
・ITを使って情報のディジタル化が進み、グローバル化を進めており、ITが社会を大きく変革してきたと思える。
・グローバル化とは何かを考えると、東西冷戦時の20年前は市場経済は27億人であったが、ベルリンの壁が壊され、
ソ連が解体し、中国が市場経済に入ってきた結果、市場経済は60億人を対象するように拡大した。今は70億人と
なっており、チャンスが非常に広がってきたということである。同時に、ライバルも70億人に増えたということである。
・デジタル化を考える時、慶応大学の村井教授はインターネット革命の本質は デジタルであると言っている。
情報をデジタルにすると、すべての情報が0、1の数字に置き換えられるようになる。電話をデジタル化すると都内の
通話と海外への通話が同じなる。ブラジル銀行の東京支店のオペレーションをブラジルで行うようになっている。
デジタル化が進むと、オペレーション業務などを世界中で出来るようになり、世界がフラットになるということである。
その心構えが日本には十分出来ていない。従来と同じことをしていれば良いということではなくなったこというである。
フラットの中で留まっていると沈んでいくので、フラットの世界では挑戦し続けていく必要がある。
・一方、フラットになっている中、まったくその逆の動きが出てきている。人工衛星から見ると地球上に大きな光の
かたまりがある。地球上のイノベーションは光のかたまりの7つくらいの都市で起こっている。最も、大きな光の
かたまりは東京であり、次が、ボストン、ニューヨーク地域であり、これらの都市はドイツの経済規模を上回っている。
2.世界の経済
・最近の世界経済を見ると、急速に成長してきた中国、インド、ブラジルなどが減速していることである。欧州はギリシャ
やスペイン問題などが出てきて低迷している。アメリカは比較的順調であるが、失業率などの問題がある。
・欧州問題は経済的メカニズムが機能しなくなったことである。ギリシャのような問題が出ると通貨が下がり、その国
の生活が下がり、その後、回復する筈なのに、ユーロはドイツやフランスがおり、暴落しないことが問題である。
モラルハザードが起こっている。ギリシャの国債はフランスの銀行が最も多く持っており、次がドイツの銀行である。
ギリシャを支援することは、フランスやドイツの銀行を支えていることになっており、これは金融の問題となっている。
・金融機関を監督する担当が各国毎にバラバラになっており、まともなものがないため、解決には時間がかかると思う。
もう一つ時間がかかる要素は、ドイツのメルケル首相の選挙が来年夏のため、大胆な政策が出来ないことにある。
3.BRICsとASEAN
・BRICsの存在が大きくなっており、世界経済の1/4を占めており、アメリカを越えるまでになっている。BRICsという言葉
はゴールドマンサックスが2001年のレポートで言い出したことであり、これらの国は人口が多いことが特徴である。
人口が多いことが良いことか悪いことか分らなかったが、中国が人口が多いことが良いことを証明した。中国はグロ
ーバル化により、海外の資本を使って伸びている。更に、Next11が人口が多く、発展していくことに目を向けている。
・ASEANには人口が6億人もおり、急速に成長しているが、大きな悩みがあり、ここに日本とwin-winの機会がある。
ASEANは中進国のワナを心配している。先進国のように成長するには人口だけでなく、イノベーションが必要である。
日本にはグローバルブランドがある。韓国にはグローバルブランドが出来たが、中国にはまだない状況である。
・過去30年に韓国や中国の一人当たりGDPは13倍位に成長し、OECDの仲間入りしたが、メキシコは上手くいっていない。
韓国や中国が成長する過程で日本の支援があった。ASEANが成長するにも日本が支援することが考えられる。
4.日本の進路
・日本の株価は5年前の半分である。アメリカはリーマンショック前を越えた。低迷している欧州も2割安の状況である。
日本の経済は異常な状況である。日本には、異常ことが非常に多いことから、日本人はこれらに鈍感になっている。
例えば、雇用調整助成金の対象者が400万人もおり、これらが企業内失業者となっている。日本の失業率が4%程度
と言っているが、これらを含めると日本の失業率は10%を越えることになり、非常に厳しい雇用情勢になっている。
「借金の返済を先延ばしする」モラトリア法も、返済猶予の件数が100万件を超えており、今年3月に終了する予定で
あったが、1年間延期された。これが終了すると金融機関の不良債権が1.5倍となる見込みで、貸し渋りが出ている。
・今の日本は異常な状況を失くすことである。これにより、GDPは1.5%は成長する。物価と合わせると3.5%は成長する。
・グローバル競争はアクセスがポイントであり、都市間の競争である。人が動くことにより、イノベーションが起こる。
インチョン空港は町までの距離が遠いため、古い空港となっている。羽田空港を使えば韓国、中国が日帰り出来る。
・森記念財団が世界都市の総合力ランキングを発表している。経済や研究・開発、居住性などの6分野、69指標で
評価しており、1位はニューヨーク、2位はロンドン、3位はパリ、4位が東京である。東京は税金、規制、空港への距離
の3つの要素が変えると、1位になる。
・民主党で良い政策が一つだけある。官民パートナーシップ(PPP)で、インフラの所有は国が持つが、運営は民間に
売るということで、これにより効率化を進め、価値を高めることが出来る。しかし、最も重要な高速道路が外されている。
・社会保障について調査をすると、厳しい競争を賛成するのは50%程度であり、国の全面補償を支持するのも50%である。
どちらも支持が80〜90%と高い国が多いのと異なっている。日本は仕組み的に支え合うべきという独特な価値観がある。
☆日本にはチャンスがある。こんな政治でも、日本がなんとかなっていることである。
(感想) 世界の状況と日本の現状、及び、今後の課題と進めべき方向を明確に説明されており、非常に興味深かった。