日本の国家戦略とその行方 日本総研 寺島理事長 24.6.14 .
1.震災後の日本の状況
・震災後、1年以上経ち、宮城県や岩手県、福島県など、県レベルでのがれき処理などの復興計画は出来た状況で
あるが、今後、人口減少が3割減少し、老齢化が50%以上に進むと言われる東日本全体の構想は見えていない。
・震災以前は日本の空洞化ということが強く言われてきたが、最近は、税金などの安い海外へ日本の資産を動かす
キャピタルフライトということが話題となっている。
・今日は、世界の経済とエネルギーの動きを示すデータを資料集にまとめてあるので、それを基に説明する。
震災後、急いでまとめた福島原発事故後の進め方に対する提言も掲載しているので、後で読んで欲しいと思う。
2.アジアダイナミズム
・日本の貿易相手国との取引額は大きく変化しており、アメリカが1990年に比べて1/3位に減少し、1割程度になった。
一方、中国との貿易額は1990年は3.5%であったが、2011年には20.6%と大幅に伸びており、大中華圏では3割まで
増加している。更に、アジア全体では50%を超えており、アジアへのシフトが急速に進んでいる。
・貿易もネットワークで考える必要があり、中国は香港、台湾、シンガポールと連携して大中華圏として成長している。
中国が、政治的な違いを切り離して、香港などの技術と資本を利用して、経済的に伸びていると考えている。
中国の海外渡航者は7000万人を超えるが、香港やマカオへ旅行する人が5千万人もおり、香港の需要を支えている。
日本の企業が台湾の企業と手を組んで、中国に進出した場合は成功しているケースが多いと聞く。政治的には中国
と台湾は大きく違っているが、台湾から中国に進出する場合の経済r的な壁が非常に低くなっている状況である。
・シンガポールは謎めいている。資源もなく、土地がないのに、一人あたりのGDPが4万ドルになっており、日本の3.5
万ドルより多くなっている。シンガポールはITとバイオの研究に力を入れており、中国の大金持ちの病人を集めており、
大中華圏の研究部門とするバーチャル国家的な立場になっている状況である。
シンガポールは、目に見えない技術、ソフト、サービスに力を入れて、経済的jに拡大している状況である。
・日本とアジアとの貿易が急速に増加し、貿易シェアは5割を超えており、大中華圏との貿易収支は5兆円の黒字に
なっている。韓国なども含めると貿易収支は7兆円もの黒字になっている。日本はアジアで稼いている状況である。
日本が韓国に押し負けしているように言われているが、円は高くなり、ウオンは安くなっていることが不思議である。
欧米の専門家と非公式な場所で話をすると、韓国や台湾などが伸びているが、これらの国は日本の周辺国であり、
韓国は日本の技術を使って伸びており、台湾は日本企業のOEMで競争力を上げているということを聞かされる。
・日本は、アジアの各国と連携して伸びており、今後もアジア地域の中心として活躍することが必要である。
アジアダイナミズムを見ていくと、日本の企業は国内に留まっていないで、アジアに積極的に出ていく必要がある。
3.新しい国家エネルギー戦略
・地震、津波の問題は2〜3年で克服するのではないかと考えている。原発の問題は直ぐには解決するのは難しい。
福島原発の事故後、早急に検討した結果、国際的信用の得られる情報発信体制の整備と大きな構想力を持って
方向付けをすることを提言したが、まだ実行できていない。エネルギー戦略はベストミックスで取り組む必要がある。
・日本のエネルギー戦略は脱原発、再生エネルギーにシフトしているが、世界のエネルギーに対するパラダイムが
転換している。アメリカのエネルギー政策は複雑になってきており、長い間、中止してきた原発4基を認可した。
オバマ大統領は再生エネルギーと言って出てきたが、再生エネルギーには政策的な支援が必要であり、財政が
厳しくなった状況では支援出来なくなった。また、再生エネルギーではアメリカの雇用が出てこないことも分かった。
・5月7日のニューズウィークの表紙には、“America is winning and why“ と見出しが出ている。
その論拠は、@S&P500が2009年に比べ105%上昇(株高)、 A海外からの訪問者が6200万人と史上最多、
B輸出が2.1兆ドルと2009年に比べて34%増加、C2010年2月に比べて民間の雇用405万人創出 である。
・アメリカの輸出が増加しているトップはエネルギーであり、最も大きいポイントはシェールガス革命である。
シェールガスの回収技術が進み、シェールガスの価格が2ドルにまで低下している。日本のLPGは17ドルである。
シェールガスの生産が急激に増加し、アメリカのエネルギー需要の20%まで増加したことにより、石油の輸入が
減少しており、アメリカはエネルギー輸入国から輸出国に転換している。シェールガスの輸出については、FTP
相手国を優先する動きであり、韓国への輸出は認めているが、日本への輸出はまだ認められていない。
このため、エネルギーを大量に必要とする日本の化学メーカなどはアメリカに進出することを検討する動きがある。
・シェールガスの埋蔵量の最も多い国はアメリカであるが、次が中国である。しかし、シェールガスの回収に大量の
水を必要とするため、中国での生産は難しい状況だが、新技術が出てきており、アメリカと中国が検討している。
次はシェールオイルの回収に向かっている。現在、アメリカの産出量は60万バーベルであるが、100万バーベルに
増大する計画であり、これを達成すると、アメリカの原油生産量が800万バーベルになり、中東の900万バーベルに
肩を並べるようになる。このようにエネルギーの動きは激しい。エネルギー分野は技術が大きく変革しており、市場
も多面的な動きが出ているため、今の日本のように、エネルギーに対しては一面的な見方をしては駄目だと思う。
今後の日本のエネルギー戦略としては、技術を持ち、バランス感覚を持って、立ち向かっていく必要がある。
日本は技術に立ち向かっていかなければならないのに、一部に停滞化する動きがあることが気になる。
交流人口や移動人口の増加により、技術も経済も活性化することが可能である。
今後の日本は、アジアダイナミズムの中で新しい国家エネルギー戦略を持って、立ち向かうことが重要である。
感想
資料集にまとめられたデータを基に説明されたので、講演後、資料を見ながらまとめることになった。
やはり、現在でも国家戦略は貿易とエネルギーが中心になるような感じがした。これからも国家の競争には、
研究や技術開発は非常に重要になることも痛感した。
寺島さんは三井物産にいたこともあり、海外の情勢やエネルギーの動きは良く把握されていて、参考になった。