日本経済の現状と今後の見通し 東京大学 伊藤教授 24.6.1
1.世界経済が転換期がきている
・現在のマクロ経済には2つの動きがあり、一つは世界経済が転換期にきていることであり、もう一つは日本
経済の動きである。世界経済は大きな安定期が終わり、転換期に入ったということである。
これまでは、アメリカは物価が安定し、経済成長してきた。欧州や発展途上国も影響を受け発展してきた。
大いなる安定期とは普通じゃないということであり、最初にアメリカでリーマンショックが起こった。
その次が欧州問題である。膨大な資金が欧州の銀行からアイルランドやスペインなどに流れ、土地の投資に
使われた。ギリシャは破綻している状況であり、欧州問題は2〜3年で回復するとは思われない状況である。
・これで終わりではないかも知れない。これまで最も発展してきたのは中国であり、無傷でいけるとは思わない。
中国経済は大きく転換しなければならないが、なかなか難しく、中国経済は想像以上に悪くなっている。
昨年、中国に世界のキーマンが集まった会議で、話題になったのは中所得国のワナと言うことだった。中所得
国から高所得国になるには、輸出中心だけの経済から転換する必要があるが、上手くいかない場合が多い。
中国の年間所得は5千ドル/年人であり、韓国は2万ドル/人年になっているが、中国では内陸との大きな格差
を考えると、平均所得が5千ドルでは、都市部は韓国と同じとなっており、中国の賃金は安くなくなっている。
今後、中国の経済の状況を良く見ておく必要があると思う。
2.日本経済もデフレから転換する動きがある
・マクロ経済のもう一つの動きは日本の問題である。今の日本を海外から見ると不思議に見えると思う。
これまで10年間、デフレの状況が続いてきたが、この後もデフレの状態が続くと思うのはおかしい。
デフレで国民がものを買わなくなった。しかし、ネット資産が年間の可処分所得の4倍もある。世界でも珍しい。
日本の企業は、チャンスがあれば社員を切り、採用を抑え、正社員を非正規社員にして、金を貯め込んでいる。
企業が貯めた金で、国債を買っている。企業は利益を投資して稼ぐべきなのに、リストラのみを行っている。
景気は良くないが、安定的な状態である。日本は全員が貧しくなっているため、格差問題は起こっていない。
景気は閉塞感に満ちているが、安定しているおかしな状態である。このような状態が続くとは思えない。
3.日本経済の今後の見通し
・日本には3つの動きがある。最初は財政の問題である。日本には国内の意見が2分されている消費税やTPP、
原発の問題がある。野田総理は消費税を上げるのに全力を挙げると言っているが、国会審議が進んでいない。
結果により、日本の国債の格付けが変わる可能性がある。今の日本国債の格付けは最も高いところの下に
いるので、銀行が沢山国債を買っているが、格付けが下がると資産評価から銀行が沢山国債を持てなくなる。
低金利で多くの企業が持ち応えてきたが、金利が上がると企業が選別されるようになり、多くの企業が消える。
・2つ目は東日本大震災の復興と供給の問題である。東北地方では復興需要がすごく多く出てきている。
仙台のスーパーでは売上が昨年の3倍になったとか、被災者の借上げで8万円以下のマンションは空きがない。
このように復興需要は非常に旺盛なのに、供給側は電力不足や天然資源や石油が急騰しているため、供給側
がついて行っていない。そのため、電力不安が足を引っ張り、消費者価格が徐々に上がっている状況である。
・3つ目は世界でデフレなのは日本だけであることである。世界は資源がどんどん高騰しており、新興国はすべて
インフレになっている。アメリカも欧州もインフレを心配する必要がある。このように色々な資源が高騰している
中で、日本だけがデフレが続くということは疑問である。今は円高がデフレを救っている状況になっている。
このような状況では、世界や日本の為替や物価など経済の動きを良く見ておく必要がある。
4.企業等への影響
・今後はスマイルカーブ的方向に進むようになると考えている。上流と下流は儲かるが、中流は儲からなくなる。
インテルのように世界をリードしている上流の企業は競争力を持ち、儲かるようになる。
また、アップルやユニクロのように下流部分の会社は、良いビジネスモデルを持つところは儲けることが出来る。
・これからは日本の中流部分の会社が最も厳しくなってくる。中国では逆スマイルカーブになっており、中流の会社
が儲かり、上流と下流の会社は儲からない状況である。日本も10年前までは逆スマイルカード型であった。
そのため、日本には、ものを作る中流の会社が非常に多く出来て、すべての会社が儲かってきていた。
日本がスマイルカーブ型になってきたが、中流企業が変わっていない。早く変化しないと問題が出てくると思う。
・上流でニッチなところでやっている会社は問題がない。下流で良いビジネスモデルを持っている会社も問題はない。
中流の会社は、ものを作るため面白いが、マーケットが大きく縮小しており、企業の数は大幅に減っていくと思う。
マーケットの減少に伴い、誰かが潰れていくのを待つことになるため、生き残るかどうかがポイントである。
・上流でオンリーワンのものを持つ会社はチャンスである。住友化学や東レなどは世界にない技術を持っている。
これからの日本は、素材とデバイス、製造装置を作る会社は強いと考えている。
日本企業が海外に進出して、現地生産しても、日本から持って行った製造装置を使わないと良い製品が出来
ない場合が多い。現地生産しても、重要な素材やデバイスや製造装置から利益を上げている場合が多い。
これからは、世界の企業と連携して、グローバル化を進め、大きなマーケットで商売する必要がある。
・下流は面白い。世の中は変化している。そこを上手くやりながら、チャンスにしていくことが出来る。
これから経済が激しく変化する時代になると思うので、企業も時代の動きに合わせて変化する必要がある。