今、求められるパーソナルリーダーシップとは 慶応大学SFC研究所 小杉上席所員
1.リーダーの在り方の変化
・リーダーシップ1.0は、命令と統制を行う専制君主である。リーダー2.0は、ビジョンの明示とベストプラクティスを
推進させるために、皆を学習させる変革者であった。
・今求められるリーダー3.0は、ミッションを明確にし、創造し、双方で情報共有する人間味のある支援者である。
秀でたイノベーションが起こりえない時代に、もがきながら、人に良いこと、世界に良いことを目指す人である。
・差別化を追求した結果、戦略・戦術が同質化し、似たような収支構造になり、共倒れする現象が出てきた。
古いパラダイムに捉われていると戦略も戦術も機能しなくなるため、リーダーの在り方も変化する必要がでてきた。
利益だけを追求するリーダーは、メンバーからも、お客様からも受け入れられなくなった。
その結果、地球に優しいことや社会に正しいことを追求するために、使命感とビジョンを持ち、メンバーとそれら
のことを共有するリーダーが求められるようになった。
・2008年秋以降は、米国の金融システムが破綻し、名門の大企業が没落し、経営が破綻した。米国の企業では
信頼を求める流れが出てきて、企業と社員の相互信頼を目指すようになった。雇用の保障から安心して働ける
職場の環境を目指すようになり、人間力を重視すると共に、心、精神性に重点を置くようになってきた。
社員に対しても、従業員という考え方から、社内顧客という見方になり、大事にするようになってきた。
・日本では巨大地震災害で、リーダーシップの概念に大きな影響が出てきた。首相や政府のリーダーシップのなさ
に対する失望と政府、官僚、電力会社などの既存権力の信頼が崩壊した。一方、NPOに対する信頼が高まった。
2.パーソナルリーダーシップ
・パーソナルリーダーシップとは、地位や肩書には無関係で、企業の業績を上げるには何をすべきか考えて、自ら
を高めて、率先して取り組み、他の人に対しても、ミッションを共有して支援することである。
・パーソナルリーダーの原則は、自分に正直になること、メンバー等の信頼を築くこと、責任を持つこと、自ら行動
すること、困難に立ち向かうこと、夢を持つことなど、が求められている。
スターバックスでは、マニュアルで規制するのではなく、お客様と接している社員に自主的に考えさせ、行動させる
ことにより、より良いサービスを実現している。しかし、お客様となり、良いサービスを実現しているか点検している。
・部下に、あなたは、何故、今、ここにいるか聞くと、上司から指示されたと言って、不平・不満を言う人が多い。
人間は自分の行動を自分で選択することが出来ることを忘れて、他人の責任する傾向が強くなっている。
自律には、自分の意志で選択することと、やっていることをコミットすることであり、社員に自律を持たす必要がある。
独立する自立と自律ではレベルが違い、自律は自立を前提として、すべての責任を持つことである。
3.今、求められるリーダー像
・会社と自分のビジョンに重なりを見つける必要がある。ビジョンに重なりを見つけないとやらされ感一杯になる。
ビジョンを考えるのは、将来を予測することではなく、将来を想像することが出来ることで、明晰な必要はない。
ビジョンを考える場合、出来ることとやりたいことを重ねる方法では難しい。やるべきこと(Must)、もっとやれる
こと(Can)、やりたいことをやってみたい(will/want)を順に考えていき、重なりを見つける方法が上手くいく。
・グーグルでは、普通の仕事は4日でこなし、後の1日は将来やりたいことをやれと言われている会社である。
後の1日の仕事をすることで、社員は仕事にやる気が出てきて、良い仕事が出来るようになると思われている。
スリーエムでは、昔から、仕事の時間の15%は今の仕事に関係のないことをやれということを実施している。
・リーダーシップは自分にも発揮出来るため、自分に対し、リーダーシップを発揮することをパーソナルリーダー
シップという。自分にリーダーシップが発揮出来なければ、他人にリーダーシップを発揮することは出来ない。
・目標より高い目標の設定を行うことで、満足感が出る。これが成長の好循環を生むパターンとなる。そのため、
小さいことを確実に行うことで、出来るという感覚が生まれ、自分に自信を持つことが出来るようになる。これを、
セルフエフェカシ(自己効力感)といい、パーソナルリーダーシップを持つようになる方法の一つである。
・モチベーション1.0は空腹を満たすことで、生存本能に基づくことである。モチベーション2.0はアメと鞭による外部
的な動機づけによるもので、創造的な仕事には機能しない。モチベーション3.0は内部的な動機づけへの働き
かけがカギとなり、仕事自体が自己目的化するようになる。仕事を楽しく好奇心を持って取り組むようになる。
・マーケティング1.0は製品を販売することで、マーケティング2.0はお客様本位で消費者を満足させることである。
マーケティング3.0は、価値主導で、世界をより良い場所にすることが目的となる。
・環境変化に伴い、リーダー機能も変わってきており、ビジョンの提示、動機付けが求められるようになっている。
マネージャーとリーダーの違いは、マネージャーは今まで行ってきたことを守っていくことで、正しく行うことである。
リーダーは何かを変えることで、正しいことを行うことである。組織を動かす人は両方を行う必要がある。
・リーダーシップ1.5があり、70年代から80年代の日本的経営の中で、価値の共有、共同体、ファミリー化が行われた。
しかし、公私の区別がなく、滅私奉公や家庭を犠牲にすることなどの問題があった。リーダーシップ3.0とリーダー
シップ1.5との違いは、自律した個人の存在を前提としており、リーダーの役割はメンバーの信頼を築くことである。
・支援型リーダーシップには奉仕型のリーダーシップや召使型のリーダーシップがあるが、組織に参加する人は
自分の目的を持つ必要がある。組織に参加する人が目的を持たないと支援型リーダーシップは発揮できなくなる。
4.オープンな時代こそ求められるリーダー像
・コントロールをあきらめると新しい関係が生まれてくる。新しいルールは、顧客や社員が持つパワーを尊重する
ことであり、オープンにすることによって顧客や社員に責任を持たせることである。
・会社がすべてを社員に教えることが出来ず、全社員を適正に配置することが出来なくなると、会社と社員が対等
になるしかなくなる。その結果、社員には自律を求めることになる。
・会社は魅力ある仕事を社員に提供することが必要になり、社員には会社のニーズに合う自律型の成長を求める
ことになり、子供扱いから大人の扱いに変化する。
・会社と社員が信頼関係を築くには真実を語る必要があり、自律型組織に変化する必要が出てくる。
ミッションと行動規範が必要となり、お客様と接している現場に権限を任すが、ノーコントロールではなくする必要
が出てくる。社員は学習し続けることが大事となってくる。
・部下をやる気にさせるリーダーの資質とは、自分の弱点を認める、直感を信じる、厳しい思いやりを実践する、
他人との違いを隠さない、などがある。このことから、オープンな時代では仮面を取れと良く言われる。
人はあるがままの状態が一番パワーが出るし、オーラを放つ。
アメリカンエクスプレスの経営幹部には、人格を磨くこと、自分の人生観を確立することが求められている。
5.営業におけるリーダーシップとは
・影響力と対人関係の基本は、すべての人は“自分は重要な人物である“と思いたいということである。
周囲の人に対し、存在や価値を認める働きかけをすることストロークといい、人間はストロークなしでは生きて
いけない。ストロークの反対に、相手を軽視したり、無視することをディスカウントというが、多くの人はストローク
は良く行っているが、ディスカウントがあまり行っていないと考えている。これはディスカウントは無意識でやって
いることが多いためである。人はディスカウントされるとやる気がなくなるが、一発のディスカウントは強烈な場合
があり、回復が難しいことがある。ストロークは形から入れば良いと考えている。気持ちが乗らなくても意識して
実施すれば、行動となり、習慣化し、下意識へ発展する。
・ラッキーな人の法則というのがあり、迷ったらやる、やるなら難しい方を選ぶと良い方向にいくということである。
これは他人のためというより、自分を高めることになるためである。やると失敗しても成長するが、やらないと
失敗もしないが成長もしないし、やらなかったことで悔やむ場合は回復する方法がなく、長く悔やむことになる。
(まとめ) お話が3時間以上と長かったので、まとまりがなくなりましたが、まとめると以下のようなことと思います。
環境の変換が激しく、先が見えないので、コントロールが出来ない。そのため、会社と社員は対等な関係になる
必要がある。そのためには、オープンにすることで、信頼関係を築くと共に、責任を持たせることになる。そのため、
社員は自律的に成長する必要が出てくる。それを支援すのが新しいリーダー像である。