創発的破壊:未来をつくるイノベーション 一橋大学 米倉教授
1.日本の現状
・日本のGDPが中国に抜かれた。借金は1000兆円となった。それよりも1人当たりのGDPが16位と低下している。
1995年からは日本の一人当たりのGDPが世界で3位だったが、1億人を超える国としては珍しい状況であった。
最近は一人当たりのGDPが落ちており、これは自分達の付加価値を上げてこなかったことを意味している。
・今でも昔のバブルを考えている人がいるが、もうバブル景気は戻らないと考えるべきである。1986年は団塊の
世代が40歳で、家や自動車など買いたいものが沢山あり、需要が急増しており、生産すれば売れる時代だった。
1947年の出生率は4.54人であったが、1973年は2.14に、1996年は1.42に減少しており、一人っ子となっている。
今の40歳の若い人は、自動車などは欲しがらなくなり、欲しいものはない状況で、日本のマーケットが縮小してきた。
2.今の日本がやるべきことは2つ
・一つは成長のあるところ(アジア)に出ていくことである。もう一つは内需の丁寧な掘り起しである。
日本のGDPは500兆円であり、その内、日本全体の消費は300兆円であり、他の国に比べても大きな規模である。
今の日本では年金に問題が出てきているため、若い人も老後の心配があり、消費を抑えている状況である。
・内需としては、少子高齢化の社会ニーズがあるが、本当に欲しいものを企業がつくっていないのが問題である。
ルイヴィトンの箱を静岡で作っていたが、中国で作るようになり、困っていた。同じ静岡の名物であるさつま揚げを
50個単位で売っていたため売れずにいたのを、小分けして販売するための箱に利用して、活路を見出している。
老眼鏡も老眼鏡と言えば売れないが、リーティンググラスと言えば売れている。トイレットペーパーに本を書いたら
30万部も売れたことがある。ホタテやカキの養殖に1万円出資すると、摂れたホタテを10個(2千円相当)送ることで
2000万円を集めたマイクロファイナンスもある。内需を作るマーケットやクリエーションが必要である。
・3月11日の東日本の大震災に伴い、新しい日本を創造する時がきており、日本はパラダイムチェンジが必要である。
アメリカと戦っているアラブ諸国は脱アメリカ、脱欧洲に向かっており、日本の経験が重要であると考えている。
1945年には戦争で焼野原だった東京も今ではビルが林立しており、原爆で破壊された広島も復興している。
・戦前は、日本は天然資源に恵まれず、海に囲まれた島国なのに、7500万人もの人口過密国家であるという不利な
状況であり、戦前の日本の限界が悲惨な戦争に繋がっていったと思われている。
・今の日本もこのような条件は変わっていないと思うが、発想の転換によって有利な条件に変化させている。
資源がなければ輸入して加工して売れば良いとし、島国は良好な港に恵まれた貿易立地であることで、造船の
軍事技術を民生化している。過密人口も巨大な内需と優秀な労働力が存在するとして、繁栄を達成した。
製鉄所も八幡、釜石、室蘭の原料立地から消費地立地に転嫁するため、川鉄が千葉に製鉄所を建設し成功した。
このようなことに匹敵する発想の転換によって、これまでの日本を根底からつくり直す時がきたのである。
3.大きな時代観と決断力
・川崎製鉄の西山弥太郎は鉄を材木より安くして見せると製鉄に取り組み、鉄を安くしていった。ソニーの井深さん
はトランジスターをポータブルラジオにし普及させた。ホンダの本田宗一郎さんはバタバタをスーパーカブにした。
プリンスホテルの堤さんは、敗戦の時、天皇制が変わり、皇族や華族は生活に困るので、その土地を買い取り、
次々とホテルを建てていった。このように、大量生産と大量販売に基づく大衆消費社会を実現していった。
・3月11日に潮目は変わったと考えている。日本は脱原発、脱炭素社会のリーダーに向かっていくべきだと思う。
これからの日本は、分限化された都市国家で、半分のエネルギーで豊かに生活できるようにし、その解決策を
世界と分かち合うようにすることを、目指していくべきだと考えている。
・ビジョンに根拠があるかと聞かれるが、ビジョンには根拠がなくても良いと思う。ケネディー大統領がアポロ計画
を打ち出した時、アメリカは有人衛星には一回しか成功していなかった。大統領は“易しいからやるのではない、
難しいからやるのだ!“と言っている。実際、多くの若い人が目標に向かって頑張ったから実現したのだと思う。
・日本にリーダーはいるかと聞かれるが、リーダーがいるかどうかではない。カリスマ的リーダー論は敗北主義で
ある。必要なのはカリスマではなく、プロフェッショナルである。国民一人一人が付加価値を上げることである。
先日、国を大きく変えたチュニジアやエジプトに明示的リーダーはいなかった。そのため、今回のイノベーション
は創発と言っている。一人ひとりがNoと言うことが出来、一人ひとりが出来ることをすることが大事である。
・日本はこの夏30%の節電を達成する必要がある。供給サイドと需要サイドのダブルイノベーションが必要である。
日本の原発依存度は30%であり、供給サイドだけでなく、需要サイドの各種のイノベーションにより実現できる。
松下幸之助が、“3%のコストダウンは難しいが、30%ならできる”と言っているように、大胆な変革が必要である。
地中の温度は変わらないため、犬島のデータセンタでは、電力を使わず、地中の温度でサーバを冷やしている。
これから建設する新しい小中学校は太陽光発電とし、図書館もインターネットにすれば良いと思う。
・インドのタタ・モーターズでは、タタナノという20万円の自動車を販売開始した。不安視す発言があるが、昔、日本
が安い自動車を開発した時と同じだ。電気自動車化しており、内燃機関が合理的だったか考える必要がある。
タタナノの駐車場を太陽光パネルの近くに駐車することで、電気の安定提供が出来るようになると思う。
・今の日本人は知的好奇心が低下しているのではないかと心配している。日本人は世界を目指して欲しいと思う。
→これから日本が進むべき方向を明快に説明されており、非常に面白い話だった。