世界経済の構造変化とこれからの資産運用   東大伊藤教授   H23.6.5


  ・世界の経済を見ていると、3〜5年毎に大きな波がきているように思われる。

   また、10年、20年、30年という長い期間に経済のシフトが起こっていることが分かる。

   大きな流れとしては、G7の先進7ケ国が世界に占める割合が減少し、新興国が伸びていることである。

  ・世界のお金がBRICsに動いていることであり、大きな変動の中で動いているため、見え難い状況である。

  ・最近の経済を考える場合、3つのキーワードがある。

    1つ目はデフレとインフレ、2つ目は新興国へのシフト、3つ目はソブリンリスク(国債のリスク)である。

    長期的トレンドとしては、先進国から新興国に動いていると考えられる。

  ・先進国は人口が減り、高齢化が進んでいる。一方、新興国は人口が増加しており、社会的に活気がある。

    先進国はお金が余っており、お金が幾らでも集まってくるが、運用の競争が非常に激しくなっている

    新興国への投資はリスクが高いが、リターンも高い。そのため、お金が集まるようになっている。

    新興国は人口が増えているため、不動産が伸びている。エネルギーへの投資も増えている。

    資産運用を考える場合は、人口の変動は今も進んでいるということを考えておくべきである。


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2つ目の長期的なトレンドは技術革新である。情報のデジタル化とIT化(コンピュータ処理)は急速に進んでいる。

    グローバルに情報のやり取りが行われており、産業を進化させている。

    金融工学の先駆けとなったブラックショールズによる金融の分析はIT技術の進歩により、進んでいる。

    このIT技術により、新興国に大きなチャンスが出てきた。ウォールマートは中国から大量の物を輸入している。

    米国内の店舗に輸送している状況を人工衛星を使って情報を集めて、IT技術で処理して効率を上げている。

    流通業界では、IT技術を積極的に活用しており、日本でもセブンイレブンやヤマト運輸がIT利用の上位にある。

  ・液晶テレビの最先端を進んでいたシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との合弁を検討している。

    台湾の企業は世界の企業から生産を請け負っている。世界中の企業が台湾や中国に製造を任せている。

    中国の深せんの富士康で自殺者が出たが、世界中から製品の製造を請負、従業員が55万人となっている。

    IT技術の進歩はまだまだ続くと考えられる。また、先進国と新興国の所得格差が減少していくと思う。

  ・リスクについては、加熱する新興国のリスクとデフレに恐れる先進国のリスクがある。

    新興国に対する銀行の投資は倍くらい増えている。新興国では5%以上のインフレとなっている。

    インフレは物価が上がっていくことになり、弱い人を襲っていく。そのため、国内が不安定になる。

    不動産の需要が増えるとの考えから不動産の価格が上昇している。実際の需要ではなく、投資物件が増えている。

    インドやブラジルでもインフレが起こっている。注目しなければならないのは中国である。

  ・中国は輸出を促進するため、輸出企業が海外から買う場合の関税をかけないなど、輸出企業を優遇している。

   そのため、中国では輸出が増加しており、外貨が沢山入っている。最近では日本の倍以上外貨を抱えている。

    しかし、中国の雇用構造は非常に脆弱である。人民元が上昇するとインフレが起こり、国内が不安定になる。

   そのため、中国政府は貸し出しを抑えたり、物価を抑えたりして、人民元を抑えて、景気の過熱を抑えている。

   人民元が抑えられると輸出が増加し、外貨が沢山貯まってくることになり、人民元を流通させる必要が出てくる。



  ・先進国のリスクの一つとして、欧州の問題がある。欧州ではギリシャ、アイルランド等が破綻している。

    そのため、ユーロが信用をなくし、下落している。一方、ドイツは中国への自動車の輸出が非常に好調である。

    フランスやオランダ、イタリヤ等も景気が好調となっている。景気が過熱するのを恐れ、金利を上げている。

    ギリシャの国内では、福祉の優遇や公務員を抑える必要があるが、国民が納得しない状況である。

    そのため、今後もユーロでは金利を引き上げる必要があるが、スペイン等が破たんする恐れがある。

    元来、ドイツやフランスとギリシャ等が同じ通貨にいること自体に無理があり、落としどころが難しい状況である。

  ・アメリカはリーマンショックの影響もあり、経済が弱い。しかし、米国は新興国と同じように人口が増加している。

    現在、米国の人口は37千万人であるが、10年後は優秀な人が集まり、42千万人になる予定である。

    白人は先進国と同じように減少しており、高齢化している。米国は白人の国ではなく、大統領も白人ではない。

    米国に集まった優秀な人が最初に欲しがるのが自動車と家である。自動車と家の需要はあると考えている。

    米国はITや金融、バイオ、などの分野では世界で最も進んでおり、世界を牽引している状況が続いている。

  ・日本は、10年間デフレが続いており、国民がものを買わない傾向が続いている。

    お金の行き場がなくなり、銀行は国債を買い続けている。それにより、経済が安定している状況である。

    これから5年間このまま続くと経済は安定すると考えられるが、国民に閉塞感が強まると思われる。

    3月の東日本大地震の復興のため、膨大な復興需要が起きているが、電力の影響で供給が不足している。

    需要は強く、供給が弱い状況から、今後はインフレになるか、スタフグレーションが起きる恐れがある。

    これまでの日本政府は膨大な借金はあるが、低金利で助かっていたが、インフレになると対応が難しい。

    しかし、インフレになると税金が増えるので、国としては助かる場合が多い。

  ・今後、先進国でもデフレからインフレに変わることが考えられる。

    インフレにならなくても、インフレになる予測で金利は上がる。しかし、物価の上昇は金利の上昇より遅れる。

    このような状況から考えると、資産運用を考えるには、グローバルな動きを良く見ておく必要がある。

  ・日本では右か左かという考えがある。右は市場に任すべきだとの意見であり、左は市場は信じられないから

    規制をするべきだとの意見であり、市場は重要であるが、規制も必要であり、バランスが大切だと考えられる。

    違う見方としてシュンペーターの考えがある。シュンペーターは創造的な破綻から新しい時代が出てくる。

    断層が創造的な破壊を起こす。経済的には色々な断層があり、それをプラスに転換する発想が大事である。

    色々なエネルギーがあちこちにある。断層が起きれば大きく変わるため、資産運用ではそれを考える必要がある。