医療技術イノベーションと明日の医療  加藤相談役  H23.7.23

 1.医療機器の現状

   ・医療機器を製造している会社は303社ある。医療機器の市場は2.2兆円で、最近ほとんど変わっていない。

   ・医療機器は改良、改善の競争であり、製品は短いサイクルで少量多品種が特徴である。

    製品は改良に次ぐ改良により製品化されており、術者の使用経験の差により結果が変わる。

    医療技術として、まだ治験プロセスが確立していないことが大きな課題となっている。
   ・エレクトロニックスと精密技術、コンピュータの急速な進歩により、利用範囲が拡大している。

   ・医療は国家統制されており、社会コストと考えているため、機器を増やす気持ちがない。

    医療機器の輸出が増えているが、日米貿易摩擦で妥協したため、輸入が急増している。

    診断用の機器は輸出が増えているが、治験用の機器は輸入が急増している。

   ・日本の業種別の就業者数では、医療・福祉の就業者数が増えており、3位となっている。

    しかし、医療現場は過酷な環境になっており、医療の崩壊で、医療産業が弱体化している。

   ・世界の医療機器メーカは大規模化が進んでおり、日本は東芝メディカルが17位、オリンパスが20位である。

    医療機器は国が管理している規制産業であるため、新しい開発をしても儲からない状況になっている。

    医療機器も薬事法の下で管理されており、薬事法は安心安全が最優先されるため、新製品を出し難い。

   ・日本・欧州・米国の特許制度が違っており、日本の制度では時間と費用が掛かっている。

    審査期間が日本では13ケ月かかり、米国では3ケ月、欧州では手続きが不要なため期間がかからない。


 2.画像機器におけるデジタル社会の戦略

   ・画像診断は、診断が中心であり、治験での利用はまだ少ない。画像診断の原点はX線写真法である。

    X線写真法は1895年レントゲン博士により作られた。富士フィルムでは100年後の1975年にデジタル化した。

    1983年に商品化したが、長さが10n位で1.5億円もした。今では300万円位でシュレッター位の大きさである。

    各種のデジタル画像診断機器が出来た。1971年にCT,1979年にMRI1980年に超音波診断が作られた。

   ・デジタル化するには、イメージングの3つの要素である、センサ、表示、保存の機能が必要である。

    銀塩写真はセンサ、表示、保存のすべての機能を持っており、非常に使い易いのが特徴である。

    しかし、デジタル化では、センサ、表示保存の機能がバラバラになっており、ネットワークで繋がっている。

   ・デジタル化のメリットは、デジタル技術の急速な進歩と価値の変革・多様化である。技術の陳腐化も早い。

    デジタル技術は3年で10倍、10年で100倍、20年で100万倍と飛躍的に進歩するため、価値まで変わる。

   ・ハードウェアはコモディ化し、ソフトウェアやITが付加価値を産むようになってきた。

    1980年代は高画質、高品質がテーマであったが、2000年代はフイルムレスの時代になってきた。

    フイルムレス化により、富士フィルムではレントゲンのフイルムの売上は毎年35%減少している。

   ・診断医療のパラダイムシフトとしては、3D化、4D化が進んでおり、治験に直結するようになってきた。

    画像診療ではX線活用が進み、読影システムが高機能化し、医師の治療を支援するようになってきた。

    症例DBによる診断支援、遠隔診断ロボットの活用、医療連携など急速にパラダイムシフトが起こっている。


 3.まとめ

   ・日本の医療制度は、国民皆保険、フリーアクセス、高機能医療機材導入率などで、世界一である。

    しかし、医療費を社会コストと見て、削減することばかりを検討しているが、社会システムとして、産業の

    育成などを含め、前向きに検討する必要がある。発展途上記国では医療関係の需要が急速に伸びている。

   ・311日の東日本の大震災の反省として、消えた医療データと放射線被ばくの問題がある。

    津波により大量の医療データが消失したため、治療も出来なくなっており、薬も出せなくなっている。

    今回の反省として、医療データを国が保管することを検討している。

    蓄積したデータを分析すれば最適な治療方法が見つかる可能性がある。

   ・放射能については、1962年から大気中の放射能を調査してきたデータがある。

    ストロンチュームやセシウム、プルトニュームはいずれも1962年に比べ1/1000から1/1万に減少している。

    長い間、このような放射能にさらされてきた私たちが元気であるが、どのように考えると良いか。

   ・日本では最先端の医療機器が使えない仕組みになっている。薬事法が安全安心を最優先していることと

    薬事被害者が委員会で事故の責任を求めるために、最先端の機器が出来ても使いない状況である。

    国民もコストとリスクを真剣に考え、理解する必要がある。これまでの実例で治療されている患者が個人

    情報を出さなくなっており、治療例が使えなくなっており、次の発展に支障が出てきている。

   ・医療は平時の国防であり、産業としての医療技術を育成するため、日の丸医療機器が重要である。

   →IT革命が医療の仕組みを変えると思うが、薬事法ではソフトウェアを扱う仕組みがないことから、発展を

    阻害している恐れが強いため、医療関連のソフトウェアを発展させる仕組みが必要がある。