地域福祉の推進と地域福祉計画         社会福祉学科  和気教授


  ・地域福祉推進は、経済成長が終焉し、生活の質の向上が重要になっており、日本が超少子高齢社会になって、

   地域住民による地域福祉活動を推進する地域社会の再生と新しい社会システムが必要となってきたことである。

  ・これまでは社会福祉は国や行政が実施するものと考えられているが、本当は地域でくみ上げていくものである。

   日本経済は1945年の敗戦でマイナスからスタートした。敗戦で軍備を取り上げられたので、経済力の復興に力を

   集中できた。1945年から1970年までは人口の増加と生産性の向上で経済は成長した。農業と違って、第2次産業

   は生産性の向上が可能であったので、生産性を向上していった。第2次産業が成熟すると第3次産業に移行した。

   第3次産業はサービスが中心となり、生産性の向上が難しい。そのため、経済成長が続くことが難しくなり、経済

   成長が終焉するので、生活の質を重視する必要が出てきた。21世紀の課題は生活の質の向上であると思う。

   .北欧の諸国は比較的小さな国であるが、豊かな国として一目も二目も置かれている。日本も世界から一目も二目

   を置かれる国を目指すべきである。21世紀の日本は超少子化・高齢社会になるので、新しい社会システムを作って

   いく必要がある。ポイントは地域住民による地域福祉活動の推進であり、地域社会の再生である。港区は先進的

   に地域福祉活動に取り組んでおり、地域福祉計画も作成しており評価できる。CC大学の修了生にもそれに対応

    することを求められているのである。

  ・1970年代に高齢化社会(aging society)になり、高齢化率が7%になった。1990年には高齢社会(aged society)になり、

      高齢化率も14%になった。21世紀初めには超高齢社会(super-aged society)になり、高齢化率も21%になった。

   国連も高齢社会は定義していたが、高齢化率が21%になる超高齢社会が直ぐくるとは考えていなかった様子である。

   高齢化の進行に大きな影響を及ぼすのは少子化の進行でり、出生率が1.3になった。家族の形態も3世代同居の

   拡大家族から核家族になっていった。1990年代には高齢の夫婦か高齢の一人暮らしが増えている。更に、イエ意識

   の希薄化や女性の社会進出により、家族の福祉機能が弱体化している。このため、何かあった時に家族が面倒を

   見る
ということが難しくなった。昔は、映画「三丁目の夕日」のように地域社会の相互扶助機能があり、遠い親戚より

   近い
他人というように言われた。高度経済成長により、地域社会に新住民の流入により個人主義化が進み、都市

   中心部の
空洞化が進んできた。家族はもと拡大家族に回帰することは難しく、地域社会も単純な回帰は望まない

   ため、新しい
地域社会が福祉の視点からも必要となってきた。互助を考えた新しい地域社会が必要になってきた

   のである。


  ・戦後の社会福祉の歴史としては、第一期は貧困問題が最大の課題で、生活保護が中心だった。経済成長期

   第二期は色々な問題が出てきたので、個別の福祉問題に対応するため、福祉施設が中心になった。福祉施設

   では何かと自由が制約されることがある。これに対し、自由に過ごしたいと言う意見えてきたので、第三期

   の高齢者保健問題に対応するため、在宅福祉が中心となった。2001年以降の第四期では福祉問題が多様化

   してきたので、地域福祉の仕組みを作ることが中心となった。

  ・地域福祉の基本的な視点としては、日本社会を巡る環境変化として、国際化、少子高齢化、情報化、分権化など

   に対する構造改革が必要となった。社会福祉の改革が進み、介護保険法が出来た。2000年には社会福祉法が

   始動した。社会福祉改革では、契約化、多元化、計画化、分権化、総合化が進み、今後はこのような原理原則に

   基づく新しいシステムに社会福祉は移行していくことになると思う。日本全体を統一的に福祉を実施してきたが、

   地域毎に福祉に対するニーズが大きく異なってきたので、地域が考えて行う必要が出てきた。そのため、分権化

   を行う必要が出てきた。それに伴い、個々に対応してきた福祉も総合化する必要が出てきた。

  ・従来の社会福祉は保護することであったが、地域福祉の目的は自立と共生に変わった。現在の社会福祉は利用者

   の自己決定と自己実現を支援し、個人の尊厳を尊重するように変わっている。利用者が地域社会において援助・

   支援すること(自立支援)と、それを可能とするように地域社会そのものを変えていくこと(共生)を目的としている。

   地域福祉の主体は、従来のように行政や社会福祉協議会だけでなく、福祉NPOやボランティア団体、町内会、福祉

   企業などの多元的な主体が協働して推進する時代になっている。地域福祉の対象も、目に見えるニーズだけでなく、

   高齢者虐待や児童虐待、DV不登校、引きこもりなど、目に見えにくいニーズも積極的に捉えることが重要になって

   いる。地域福祉の方法や技術も多様化している。地域福祉は一つのシステムとして動いていく多様な、しかし、一定

   の理論に基づきで統合された方法や技術を確立していくことが必要になっている。

  ・地域福祉計画は地域福祉を実現するために作成される社会計画である。2000年の社会福祉法で、地域福祉

   計画が
法制化され、市町村が地域福祉計画を作成しており、都道府県が地域福祉支援計画が作成されている。

   地域福祉
計画は地域の特徴を反映し易い、より地域に密着した計画であり、他の社会福祉計画とは異なるのが

   特徴である。

  ・地域住民が地域福祉活動に参加することは、地域住民がエンパワメントされるという意義がある。地域住民が

   地域の問題や課題などに気づき、それらを共有し、自らの力で解決しようとすることは、住民のエンパワーメント

   そのものである。

  ・港区の地域保健福祉計画では、策定の目的を“本計画では港区民が安心して生活が送れるように、人を思い

   やり、気遣い、お互いに助け合う、やさしさが満ちあふれる地域社会を育み、多様性を受容しながら共生しあう、

   温かな地域社会づくりに向けた保健福祉施策の総合的、計画的な推進を図ることを目的に策定します“として

   いる。地域の将来像は、“区民が生涯を通じて、ともに健やかに、安心して、いきいきと自律して暮らすことが

   出来る地域社会の実現を目指します“としている。5つの目標として、安心した子育て、元気な高齢者、障害者

   の自立、区民の健康の保持と増進、低所得者の自立、を上げている。今後の地域における保健福祉の推進と

   しては、地域の新たな支え合いの推進、地域特性を踏まえた施策の展開、ライフステージに対応した施策の

   展開の3つを掲げている。

   「感想」日本の福祉の変遷を経済や社会の動きと合わせて、良くまとめられており、面白かった。最近は、

        地域福祉が中心となり、地域住民が積極的に参加する必要があるとの説明であるが、その時、

        強制力を持ち、住民からお金を取っている行政はどのような立場であれば良いのかは良く分から

        なかった。住民が自由に活動出来るように行政が支援できるかが課題になると思った。