暮らしに役立つ民法 法学部 今尾教授
・今日は民法の考え方をQ&A方式で説明する。民法とは、私法の一部として私法関係を規律する原則的な法である。
一般私人同士の関係で権利関係を規律する法であり、常識を基本としているものである。しかし、法律特有のことが
出てくることがある。世の中には人とものしかなく、ものは動産と不動産に分かれる。民法がカバーする領域は人が
生まれてから死ぬまでのすべての段階にかかわる。
・民法は5編から成り立っており、総則、物権、債権、親族、相続の5編である。物権と債権は財産法と言い、親族と相続
は家族法と言う。すべてで1044条あり、憲法などに比べると非常に膨大である。民法は百数十年前に出来た。最初は
フランスのボワソナードが旧民法を作成し、1890年に公布したが施行されなかった。梅原、穂積、富井先生が現民法を
編纂された。親族と相続は戦前の家という制度が変わったので、昭和の時代に変えられた。
・例題として、親と主人が殺された人が、親と主人のいづれの仇を先に討つべきかという問題で、薩摩藩の若手を育てる
郷中の中に出てくる問題である。家族を守ると言うことでは親を先に討つべきだと言う考えがあり、組織や仕事を考える
と恩義のある主人を先に討つべきだと言う考えがある。結論は最初に出会った方を討つべきであるということである。
・ケース1は床屋で髭を剃って貰っているとクシャミをして大けがをしたら、どう損害賠償をしてもらうかという課題である。
415条では債務不履行には賠償を請求することが規定されている。418条では債権者の過失を考慮することになって
いる。その結果、双方が悪いので、賠償はして貰えるが、賠償額は調整することになる。
・ケース2は駐車場に車両が放置されたままになっており、駐車料がとどこうっている。車両はクレジットで購入しており、
完済されていないので、駐車料をクレジット会社に請求できるかという事例である。自動車の所有権はフランスでは意思
表示だけで動くことになっており、ドイツでは完済した後にしている。今の最高裁の判断では支払いがとどこうっている時
は信販会社が所有権を持つとしており、車両の移動は信販会社に要求できるが、駐車料の請求は難しいことになる。
・ケース3は高齢の主人と二人暮らしの妻が、夫の資産や預貯金が少なく、夫の死後に財産や預貯金を分割して遺産相続
すると老後が心配だいうことで、安心して老後を送れるようにしたいということである。これは遺産相続の問題である。
遺産相続には遺言がある場合とない場合があり、遺言がない場合は900条が適用され、配偶者と子供が2分の1づつを
相続することになる。これを変えるには遺言が必要になる。遺言には自筆証書遺言や公正証書遺言などがあるが、方式
が厳格に定められている。遺言を作成しても、子供たちには遺留分があるので、今回の例では夫の遺言に、財産の2/16
を妻が、16分の1づつを子供が相続する遺言状がベストである。
家族で話し合って円満解決することがベストだが、相続は争族になる傾向がある。
・ケース4は長男が同居するので、相続する土地と家屋の名義を長男にすることを長男から相談されたが、長男名義
にしても良いかということである。相続には長男から親への相続はないので、長男が死亡した場合は長男の奥さん
と子供に家が相続され、母親は相続する権利がないので、トラブルが起きることが考えられる。そのため、財産は死ぬ
まで持っておいた方が良いと思う。
・ケース5は年金と預貯金を切り崩しながらひとり暮らしをしている夫人が、子ども達とは良好な関係がないため、老後
が心配だが、良い方法はあるかということである。任意後見人制度がある。細かく取り決めて契約しておく必要がある。
後見人制度は15年くらい前に出来た法律である。任意後見人は任意後見監督人が選任されて、はじめて有効になる。
後見人が良い人とは限らないので、後見監督人は後見人が適正に行っているかを監督するために重要である。身の
回りのことも細かく行って欲しい場合は福祉関係の人に委任することもある。また、後見人制度支援信託を利用する
ことも検討しておくことがある。
・ローマ時代のマルクス・カトの話であるが、失敗したことは、妻に秘密を話したこと、歩いて行けるところを船に乗った
こと、遺言をきちんと書かなかったことであると言っている。遺言は大事であり、安易に作成することは難しい。
「一言」民法と言うのは普段の生活で知っておかなければならないことと思いますが、なかなか分かり難い感じがしました。
ケーススタディで説明して頂けて、何となく分かった感じがしましたが、良く考えると民法は理解していないと思います。