現代社会の貧困にみる社会的排除の諸相           清水教授

   ・今日来ている人は中流の上の方にいるので、貧困はあまり関係ないと考えているかも知れないが、今後、何があるか分からない。

    貧困の実態を把握しようとしているが、世界的に標準が出来ており、量的に測定できるようになった。世界標準は相対的貧困率で

    あり、国際的に比較できるようになった。

   ・国際的に比較する時、家族関係や生活環境が異なるので、一人当たりにしないと比較し難いので、一人当たりに換算する。その

    ため、個人所得は、世帯所得/√世帯数 とする。その上、個人所得を最小から最大まで並べて、真ん中の所得を中央値とする。

    中央値の50%を計算して、それ以下の所得しかない人の割合を計算して、相対的貧困率とする。

    2010年の日本の中央値は224万円で、貧困線112万円以下の相対的貧困率は16%である。OECD34ケ国では下から6番目である。

    5位はアメリカ、3位はトルコ、2位はメキシコ、1位はロシアである。中国や韓国より低い状況である。

   ・最近も貧困の割合は増えてきており、格差社会になっている。日本の一人世帯のこどもの貧困率は1位となっており、高齢者への

    支援は
高いことが分かる。働いている母子家庭の貧困率は高くなっており、こどもへの支援が少ない状況である。働いている

    低所得者に対しても
課税がかかっており、生活が一層厳しくなっている。

   ・現代日本の貧困例は、@ホームレス(路上生活者)が多い。ホームレスでも昼は働きに行っている人がいる。次がA非正規雇用者

    や失業者であり、ネットカフェに泊まっている人もいる。

    次はB高齢者であり、下流老人である。このような人はサボってきたのではなく、零細企業を渡り歩いて頑張ってきたが、健康保険

    に入っていないし、年金も少ない。サラリーマンや公務員の人は年金が多いので、下流老人になる人は少ない。元来、国民年金は

    農家の人には年金がないので、、孫にあめ玉を上げたいと言うために作ったのが国民年金であり、年金が低いのは仕方がない。

    時代が変わり、国民年金に生活が依存するようになってきたので、生活が厳しくなっているのである。元自営業者や農家出身者が

    深刻で、生活保護者が増えている。初めから生活保護を受ける人は少なく、病気等をきっかけに生活保護の生活に入る人が多い。

   ・次がC子どもの貧困である。一人親世帯では教育費の負担が大きく、奨学金に依存して大学を卒業した後、多額の奨学金の返却

    に追われている若い人が多い。外国の奨学金は返さなくて良いところが多い。アメリカも奨学金の返却に追われている。これを

    が利用している。その他、D東日本大震災の被害者もあるが、一段落した感じである。しかし、地域によって状況は違っている。

   ・貧困の事例としては横浜の寿町の例がある。横浜寿町は日本の3大寄場の一つである。横浜の港で人夫として集まってきた男性の

    日雇い労働者が集積した町である。現在は、
6千人余りの高齢単身男性が暮らしている。簡易宿泊所が立ち並んでおり、宿泊所の

    一部屋は3畳程度で、風呂はなし、トイレ・台所は共用で、一日2千程度のところが多い。料金は年金が6万円程度なので、それに

    合わせている状況である。経営者は韓国人が多い。部屋の管理はきちんとしているので、老人の健康などの管理で、区役所等も

    頼っている面がある。街は福祉団体が支援しており、綺麗であるが、ダンプでゴミを不法投棄されることが多い。

    女性のホームレスが少ないので、本当に苦しくなると実家が受け入れているので、ホームレスにならないと思われる。また、女性

    がホームレスになると性犯罪の恐れがあるので、警察が保護する。男性は実家と切れている場合が多く、警察も放置している。

    炊き出しなどを定期的に行っており、明治学院大学の学生が実習に行くと、オジさん達の優しさを感じることが多いとのことである。

   ・貧困とは何かと言う場合、色々な貧困論がある。一つは絶対的貧困で食えるか食えないかの貧困で、昔はたくさんいた。最低水準

    の生活とは何かということで、最低生活費の研究がある。2つ目は相対的貧困で、日本の貧困とアフリカの貧困は同じかということ

    で、格差社会論になる。3つ目はアンダークラス論で、貧困者たちは自業自得なのかとか、貧困者には特有の文化があるということ

    を研究している。実態的には、自堕落な人でない人が多い。むしろ、くそ真面目な老人が多い。4つ目は社会的排除としての貧困で、

    ヨーロッパでブームになり、日本に入ってきた。貧困は社会の主流が移民などを排除した結果ではないかということで、排除として

    は制度や風習など色々なものがある。5つ目は21世紀の危機ということで、市場原理の席巻と貧困の蔓延である。社会の中間層

    の下の方が排除するのが社会的排除論であるが、その中間層が分解し貧困化してきたということである。

   ・現代日本で何故貧困が出ているか。正規社員中心の産業社会が非正規社員中心のポスト産業社会に移行すると共に、国際競争

    により企業が海外に移転し、産業の空洞化してきた。更に、高齢社会になり、社会保障も危機になってきたと言うことが考えられる。

    しかし、何故貧富の差が生じるか考えてみると、日本の資本主義では貧困層を生み出す仕組みになっているということではないか

    と思う。

 「感想」貧困とは何かとか、貧困はなぜ生まれるかというお話を聞いたが、世界標準があるということには驚いた。

      確かに、地域の状況によって貧困のイメージが大きく変わると思うので、面白い方法だと思ったが、相対的

      貧困というのは貧困というより格差状況を示しているように思い、私の考える貧困とは少し異なる感じがする。