社会保障の国際基準と国際法          社会学部  岡教授

1.国際社会保障

   ・社会保障に関する国際的な取り決めがあり、決めているのは、国連、ILOEU欧州評議会の4つの国際機関である。国連は世界

    人権宣言、国連人権規定なとがあるが、あまり拘束力はない。ILOも色々な条約や勧告はあるが、批准するのは各国の自由である。

    批准したら監視されるが、実際、条約等を守らなくても何も起こらない。ILOは国連からお金を貰っているが、国連の外郭団体である。

   ・ILOは第一次大戦後に出来た。その理由はソーシャルダンピングに対応するためで、米国と欧州の労働者が立ち上がり、経営者を

    巻き込んで作った組織である。ソーシャルダンピングは社会保障を抑えてコストを下げ、競争力を強化しようとする動きで、競争が

    激しくなると、限りなく社会保障を抑えることになる。社会保障を駄目にしないで、競争するようにした。ILOは規制ばかりなので低迷

    している。外国人に対する規制もたくさんある。

   ・EUはヨーロッパ統合を目指して各国の法律と合わせようとしている。EUの規定は強力であるが、27ケ国すべてが賛成しないとEU

    として成立しない。イギリスが度々反対するので、なかなか成立しない状況である。日本に制裁する法案が出てきた時には日本の

    政府はイギリス政府に賛成しなうように協力を求めることが多い。欧州評議会は緩やかに合意できる国からやっていくと考えである。

   ・国際的な社会保障に対する基本原則はILOEUと同じである。1つは内外人平等待遇原則で、外国人を差別してはいけないという

    ことで、平等に扱うことである。差別を定義することは難しく、間接的な差別が起き易い状況である。2つ目は権利保持の原則であり、

    日本のようにいつまでに申請しないと認めないと言うのはおかしい。3つ目は一法律適用の原則で、ヨーロッパでは雇用主義である。

    ILOEUも雇用主義を適用している。滞留が5年内ならば適用を免除するという日本の2国間ルールはこの原則と反対になっている。

    大きな問題になる恐れがある。4つ目は送金の原則であり、国外居住者には国外送金をする必要がある。日本は送っては下れない。

.事例紹介

   ・フランスとドイツの医療サービスを国境を越えて出来るようにした。フランスとドイツの国境付近の人が医療サービスを受ける場合に、

    自国の医療機関が近くになく、相手国の医療機関が近くにある場合、近くの医療機関で医療サービスを受けられるようにした。

   ・ドイツは職場で社会保障を適用するが、デンマークは市役所で適用するので、ドイツ人がデンマークで働いている時、労災があって

    も保障がないことになる。そのため、欧州裁判所に訴えた結果、両国が雇用主義を適用するように判決が出た。その結果、フランス

    とデンマークの間で国境を越えて仕事をする人には両国が雇用主義を適用することになった。

   ・ライン川海運業者協定については、ライン川を通航する船舶は、ライン川が流れている6ケ国の船籍である。船で運搬している時に、

    自国以外で社会保障が必要になった場合、社会保障が受けられないことが問題になった。同じ利害に属する労働者に対して共通

    に対応するため、6ケ国どこでも受け入れることになった。

   ・ヨーロッパでは同じような条件なので、二国間協定が多国間協定になり、ILOで採用した。ヨーロッパでは各国の社会保障を統一しよう

    と思っていない。ヨーロッパを活性するためには、労働者の自由移動は大事であると考えており、労働者の自由移動を阻害しない考え

    である。ヨーロッパで統一が難しいのは教育で、共通の本を使ったが、使っている国はない状況である。次が社会保障であり、整合化

    で対応しようとしている。整合化とは、国内法を必ずしも改正することはしないで、運用上の裁量規定により対応する方法である。

    調和化とは、国内法を改正して、各国の法律を統一していく方法であり、非常に難しい。法律を改正した数少ない例として、年金支給

    年齢がイギリスとギリシャは男性が65歳、女性が60歳だったが、イギリスが欧州裁判所に訴えられ、男女平等で負けたので、両国共

    女性を65歳にするよう法律を改正した。

   ・外国人をたくさん受け入れて、自国に送金するようにすることは国際協力であると思う。日本の国際協力のためのODAの金額は大きい

    が、日本のための場合が多い。そのため、批判されている。北欧のODAは金額こそ小さいが、一人当たりの額は多く、使い方は自由な

    ことが特徴である。ODAで送るのなら、福祉を送ろうと言うのが私の主張である。

   ・ILOは世界中に社会保障を拡げようとしている。しかし、開発途上国は一部の人が権力もお金も握っているので、社会保障を導入する

    のは難しい状況である。そのため、より多くの外国人を受け入れることが国際協力につながる。開発途上国の労働者が先進国で福祉

    国家を体験することが一番の啓蒙活動になる。開発途上国の労働者が先進国で社会保障の適用を受け、給付を本国に移転すること

    が富の移転になり、南北問題の解決に貢献できると考えている。このように、日本にも有益であり、相手国にもメリットがある。


 「感想」国際的な機関である国連やILOなどの動きが丁寧に説明されたので、理解し易かった感じがする。

      事例も具体的で面白かった。海外の人を受け入れることが国際協力になるという説明は面白いが

      海外の人をたくさん日本が受け入れる感情的な素地がまだ不十分な感じがする。人種問題や宗教

      など、何か基本的な検討課題があるように思う。