日本の社会保障のグローバル化対応         社会学部  岡教授


   ・専門は社会保障であるが、今日は私でなければ出来ない話をしたい。港区は大変特殊な町だと思う。大使館が多く、海外へ行ったり

    している人も多い町である。社会保障とは何かと説明する。社会保障には、社会保険と社会福祉、公的保護が含まれている。社会

    保障の中で、社会保険は規模が大きく90%程度の規模である。社会保険の半分は年金であり、30%が医療と大きい状況である。

   ・日本の社会保障はヨーロッパに比べて遅れている。ヨーロッパの方が制度が多い。学生をヨーロッパに連れていくと驚いている。

    ヨーロッパでは、すべての人に教育を与えようということで、自分で生活が出来ない障害者にも教育をしている。その場では介護者

    が一杯いる。デンマークでは一人の障害者が生活して教育するためには9人の介護者がいる状況である。

   ・社会保障は元来国内問題であるが、今はグローバルの問題である。日本の外国人の割合は0.7%であるが、ヨーロッパではクリープ

    メントパーカーという制度があり、域内を自由に行き来が出来るようになっている。スイスのジュネーブの国際機関で働いている人の

    多くはフランスに住んでいる。ジュネーブの横はフランスで近いことと物価が安いためである。ベルギーでは1時間で他の国に行ける。

   ・日本の社会保障は日本国内に厳しく制約されている。属地主義である。厚労省は保障したくない感じであり、先進国の中でも、日本

    の社会保障は遅れている。日本の社会保障は適応を厳しくしている。例えば、日本の社会保障の制度では申請に期限がある。

   ・ヨーロッパでは社会保障の制度は国毎に違っている。ヨーロッパの社会保障には2つの方法がある。一つはドイツのビスマルク風で、

    職場で対応する方法であり、2つ目はイギリスタイプの居住地で対応する方法がある。実際には、人は自由に国の間を移動する。

    社会保障のグローバル化には各国の制度を修正する方法と国際ルールを作って各国が適応する方法がある。

   ・国際社会保障協定としては、2国間で協定を結ぶ方法がある。1904年にフランス・イタリア社会保障協定が最初である。イギリスでは

    1906年にエリザベス権金法が出来たので、イギリスが社会福祉の最初の国と言っているが、実態的には福祉ではないと考えられる。

    1883年にビスマルク健康保険がすべての人を対象とする初めての保障であると考えられる。ビスマルク健康保の実施を最も遅く

    導入した国がイギリスだったので、フランスの国ではイギリスは最も遅れた国と言っている。

   ・イタリアはヨーロッパで各国に多くの人を出している。イタリアとフランスの関係は良かった。人の行き来も多く、最初に問題になった

    のが労災であった。そのため、必要に迫られて社会保障協定を結んだのが最小である。フランス、イタリア、ドイツ、ベネルック3ケ国

    が
EEC発足の国であり、社会保障協定を結んだのが、その後のEEC全体に広がっていった。

   ・日本は1999年にドイツと協定を締結した後、イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー、韓国、カナダ、オーストリア、スペイン、イタリア

    チェコ、オランダの12ケ国と締結している。日本の社会保障協定は雇用主義である。2国間の社会保障協定がないと、両国に社会

    保障費を支払う必要がある。ヨーロッパの社会保障費は高く、日本の会社には大きな負担になっていたので、社会保障協定を結ぶ

    ことは企業にとってはメリットが大きい。日本の協定では、5年以内の場合は免除するということであり、企業が派遣している多くの

    社員は免除されることになった。チェコは日本と協定を結ぶことに積極的に動いたが、その理由は日本の企業を積極的に誘致した

    かったためである。日本の協定は海外に5年以上滞留する場合と企業以外の人は協定の適用対象外となっている。日本の場合は

    雇用主義のため、外国で困っている日本人に対しては国は何もしない。フランスの場合は、海外で困っている人に対してはフランス

    国内と同じように福祉が適用される。

   ・EPAは貿易政策であるが、最近は介護士の受入れなどが出てきている。貿易が活発でないと経済が発展しないので、貿易の自由

    化を進めるのが各国の政策である。EPAも当初は商品の輸出入のことであったが、最近はサービスが増えてきた。フィリピン政府

    からは人の移動が要求されてきた。フィリピンでは看護師をたくさん海外に出して、その人達の国内への送金が経済を支えている。

   ・海外の人の受入れは非常にデリケートな問題になる。日本の年金を受け取るには25年支払うことが必要であるが、米国や韓国では

    10年である。日本に働きに来る外国人が25年も日本に滞留することはほとんどないため、年金を納めるだけで受け取ることが出来

    ないで不利になる。最近、一時払い清算方式も採用したが、支払われるのは納めた額の1050%である。ヨーロッパでは3ケ月〜

    1年でも受給権を保持できる国が多い。一度、権利を保持するとその権利は保持されるが、日本では2年以内に申請する必要があり、

    それを過ぎると権利がなくなる。北欧には、働いていても、働いていなくても居住していれば、夫と妻に年金資格が保障されている。

    最低保障費があり、それ以上は医療費等は取ってはいけないことになっている。介護保険も40歳以上の人は支払う必要があるが、

    65以降に帰国したら対応しないことになる。

   ・不法滞在外国人の扱いは各国で同じではない。フランスでは人権問題として社会保障を適用するが、その他のアングロサクソン各国

    では駄目である。先進国で国籍条項があるのは日本だけである。すべての親子は一緒に生活出来る権利があるが、日本では国籍

    条項で親だけを国外退去した例がある。日本の生活保護法の適用は国民に限ることになっている。必要原則で例外もあるが少ない。

    インドシナ難民の問題で国連の指導で国民年金等は国籍条項はなくなったが、生活保護は国籍状況が残ったままになっている。

「感想」日本の社会保障については常々聞いているが、社会保障が始まったヨーロッパの状況を聞くのは初めてで
    
     非常に興味が持てた。良く考えるとヨーロッパと日本では歴史的な問題が大きく、必ずしも、ヨーロッパの

     制度を日本に入れることが難しいように思いました。日本には既に韓国や中国の人が多く住んでいて、永住

     する様子であり、ヨーロッパのように常に人が行き来するのではない状況があると思うので、一時的に日本に

     稼ぎに来る人との整合が課題になる感じがした。