高齢者の医学  体と病気のメカニズム ー     昭和医大 横浜市北部病院  田口先生

1.日本の高齢化と医療費

   ・今日はコレストロールと糖尿の話をする。日本の人口は2007年までは増えていたが、徐々に減っている。高齢者の割合が増えており、

    世界保健機構が高齢者を65才と定義している2025年問題というのがある。2025年には高齢者が3650万人になると推定されている。

    日本の100才以上の人は5万人いる。世界では25万人いると言われている。最高齢者は米国の116才である。日本の70才以上の人は

    2300万人いる。大都市に集中している。地方の過疎化と言われているが、割り切った方が良いと思う。大都市は住むところで、地方は

    農産物などを作るところと考えた方が良いと思う。高齢化にスピードは日本は非常に速い。特に、都会での高齢化が速い。

   ・平均寿命は生まれてから死ぬまでの時間で、年々延びており、2012年は男子は85歳で世界1位、女子は87.3才で世界で2位だった。

    平均余命は、ある年齢の人がその後、何年生きられるかという期待値である。75の男性は平均余命は10.9年であり、女性は14.4

    である。90歳の男性の平均余命は4.2年であり、女性は5.4年である。日本の25年度の医療費は39.3兆円で、毎年増えている。理由は

    高齢化である。後期高齢者の医療費は14.2兆円で、割合は非常に多い。医療費の中の薬の費用も非常に多い。薬は出来ることなら

    飲まない方が良い。薬は身体に負担になっているのである。

2.生活習慣病

   ・生活習慣病は、生活習慣が病気の発症や進行に関与する疾患を総称したものである。日本人の生活習慣病の状況を見ると、高血圧や

    高血糖は年をとるほど、増えている。しかし、肥満や中性脂肪・コレストロール高値は高齢になると下がってくる。

   ・高脂血症は概念的には血液中の脂肪が高い状態をいう。血液中のコレストロールは130220mg/dlトリグリセライドは50150mg/dl

    LDLコレストロールは60140mg/dlを超えている状態である。血清総コレストロールが240mg/dkを越えている男性は10.3%であり、

    女性
16.3%いる。脂肪は糖質、タンパク質、脂質の三大栄養素の1つであり、生命維持に不可欠な物質である。栄養素とは食物と

    して摂取
される生命維持に必要な物質であり、エネルギーの源になる三大栄養素とビタミンやミネラルを含めた五大栄養素である。

    脂質はステロ
イドホルモンの骨格になるので、足りないと抵抗力が落ちてくる。ステロイドホルモンはドーピングにかかるもので、筋力

    を強くする。

   ・食物の消化と吸収は、糖質はアミラーゼで分解され、単糖類になり、吸収される。タンパク質はトリプシンなどでアミノ酸になり吸収される。

    脂質はリパーゼにより脂肪酸になり吸収される。体脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪があるが、皮下脂肪は体温を守ったり、物理的な

    衝撃から
身体を守るため必要であるが、内臓脂肪は動脈硬化や高血圧、糖尿病を伴うため、問題になる脂肪である。  

3.食物の消化吸収と高脂血症

   ・食物の消化と吸収は、糖質はアミラーゼで分解され、単糖類になり、吸収される。タンパク質はトリプシンなどでアミノ酸になり吸収される。

    脂質はリパーゼにより脂肪酸になり吸収される。LDL(悪玉)コレストトロールは肝内のコレストロールを抹消組織に運ぶため、コレスト

    ロールが血管壁に溜まり動脈硬化を起こすので、悪玉と言われる。
HDL(善玉)コレストロールは抹消組織からコレストロールを肝に運ぶ

    ため血管壁のコレストロールを低下させ、動脈硬化を抑えるので善玉と言われる。 

    高脂血症は動脈硬化性疾患の危険因子となるので困る。動脈硬化性疾患には、脳血管障害としては脳梗塞があり、心血管障害としては

    狭心症や心筋梗塞、高血圧がある。腎障害としては腎硬化症や慢性腎臓病があり、代謝性障害としては脂肪肝、糖尿病、膵炎がある。

4。高脂血症の治療

   ・高脂血症の治療としては、食事療法がある。摂取カロリーの適正化が必要であり、一日の適正Calは標準体重(Kg)×2530Cal である。

    摂取カロリーに気をつけることが重要であり、特に、コレストロールは300mg以下にして欲しいと言われている。食物繊維は25g/日以上を

    摂り、アルコールは25g/日以下とすることである。食物繊維はコレストロールの摂取を抑えることが出来るので、食事をする時には、先に

    食物繊維のものを食べる方が良い。

   ・高脂血症の治療として、運動療法がある。一分間の心拍数が138年齢の1/2になる程度の強さの運動を1日30分以上続けることである。

    薬物療法があるが、コレストロールを下げる薬と中性脂肪を下げる薬がある。

5尿病

   ・血糖値とは血液中の糖質(ブドウ糖)の数値であり、血糖値が一定以上の時を高血糖(糖尿病)という。糖尿病は尿に糖が出るのではない。

    糖のコントロールはインスリンが行っており、インスリンだけが糖を下げることが出来る。糖は肝臓と筋肉に蓄えられ、不足すると出してくる。

    糖尿病は血液中の数値の持続的な異常上昇で、摂取カロリーと消費カロリーのバランス異常である。たくさん食べるとたくさん運動をする

    必要がある。運動しないのならば食べるのを抑える必要がある。

   ・世界の糖尿病患者数は中国が最も多く9千万人で、インド、米国が続いている。日本は6位で、成人の11.2%であり、患者数は1067万人

    がいる。
最近、コンビニが多い地域に糖尿病有病率が高くなっているが、これはコンビニの弁当には美味しく感じる脂質がたくさん入って

    いるためと思われる。

5.尿病の診断基準と治療

   ・糖尿病の診断基準としては、血糖値が空腹時に120mg/dl以上で、食後血糖値が200mg.dlとしている。ブドウ糖負荷試験(75OGTT)では

    負荷2時間値200mg/dl以上としている。国際法でHbA16.3以上としている。HBA1は糖と結合するHb(ヘモグロビン)の構成因子の

    の一つで、23ケ月前の血糖レベルの指標となる。赤血球の寿命は3ケ月くらいであるので、23ケ月前の状況を判定できるのである。

   ・血糖値が滝と血管合併症を起こすので怖いのである。血管合併症のリスクは糖尿病が軽い内から高まっており、HbA1cが7以上になると

    症状が急に進むので、注意が必要である。糖尿病の合併症としては、しびれ、失明、腎臓疾患、壊疽、脳卒中、狭心症、心筋梗塞がある。

    糖尿病は軽い内から治療を開始すると病気の進行が抑えられるし、治療の効果が出やすく、進行するほど治療は難しくなる。

   ・糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法があるが、生活習慣の是正である。食事は規則正しく、腹七分目で、ゆっくりよく噛んで食べる

    ことにより、食べ過ぎのエネルギーの取り過ぎを防ぐことである。肥満度をBMIでは、体重(Kg)/身長(m)2乗、で表すことができる。

    BMIは
22が理想値であり、25以上が肥満である。

   ・糖尿病の治療薬には、食後の高血圧を改善する薬と空腹時の血糖値を改善する薬がある。新しい治療薬(SGLT2)が出ており、腎臓

    での
グルコースの再吸収を抑える働きをする薬だが、高齢者には身体に負担が大きいので勧められない。

   ・低血糖にも十分注意する必要がある。血糖値が低くなると、手足が震えたり、意識がもうろうとしてきて、生命にかかわる、ことが出てくる。

   ・糖尿の場合は症状がない場合が多いので、注意が必要である。また、糖尿病は遺伝的要素が強い。果物は中性脂肪を急に上げるので

    注意する必要がある。

「感想」高齢者の医学というテーマでお話を聞いたが面白かった。自分の身近な病気の話だったが、何時も聞いたようなお話で

     病気に対する対策も色々聞いていることが多かった。しかし、体系的にまとめて聞くことが出来たのは良かったと思う。