認知症の理解とその予防 心理学部 野村教授
1.認知症とは
・認知症は、知的機能全般の非可逆的な低下を特徴とする器質性疾患であると言われている。物忘れは若い頃からある。認知症
の特徴は粗大な物忘れであると言うことである。加齢による正常な物忘れは断片的な忘却で、自覚され再認が可能である。旅行
に行って、旅館で何を食べたかとか、何をして遊んだかいうことを忘れているが、指摘されると思い出すのが正常な物忘れであり、
旅行に行ったことそのものを忘れるのが認知症の特長である。認知症の障害は、記憶、知能、人格の順に出てくる。回復が期待
できない場合が多い。そのため、認知症は予防や早期発見が重要である。認知症は心因的なものでなく、器質性の疾患である。
・認知症は、1907年にドイツのアロイス・アルツハイマーにより発見され、アルツハイマー病と言われるようになった。短期記憶や
見当識の障害、問題解決能力の障害、失語・失行・失認が出てくる。時間や場所の正しい感覚を見当識と言うが分からなくなる。
今まで出来たことが出来なくなる。それまでは認知症と統合失調症の区別がなく、すべて統合失調症として扱われた。
・認知症の罹患率は74才以下では10%以下だが、加齢とともに増加し、85才以上では40%である。それでも、2人に1人以下である。
64才までの若年性アルツハイマー症の発症率は0.03%であるが、若い人もなる病気である。日本の認知症患者は462万人で、65才
以上の高齢者の15%である。
2.認知症の様々なタイプ
・症状としてはすべての人に見られる中核症状と中核症状から出てくる周辺症状がある。中核症状は、記憶障害、実行機能障害、
失行、失語、失認であり、これらに伴って、心気症や抑うつ状態、焦燥、幻覚、不眠など色々な周辺症状が出てくる。周辺症状は
行動心理学的症候と呼ばれ、治療やケアによる改善が可能である。認知症は様々なタイプがあり、症候群の名称である。症状は
同じでも、その原因は様々である。
・アルツハイマー型認知症は、脳内にリン酸化したタウタンパク質が蓄積されて細胞死を生じさせ、老人斑が生じるとともに、脳の
萎縮が生じて、徐々に全般的な機能が失われていく。脳血管性認知症は脳梗塞や脳卒中の後遺症として発症し、特定の機能が
段階的に失われていくので、アルツハイマー型認知症では自分の症状を自覚しないが、脳血管性認知症は自分の症状を自覚して
いる場合があり、本人にとっては辛い場合があると言われている。レビュー小体型認知症は日本の小阪医師により発見された。
レビュー小体という物質の沈着が脳全体に生じるもので、四肢の震えや筋委縮のパーキンソン症状や幻視や認知機能の変動が
ある。
3.認知症の治療
・アルツハイマー病の治療として、薬物療法がある。アルツハイマー病は神経伝達物質のアセチルコリンの減少が原因とされており、
アセチルコンの減少を抑えるアリセプトが1999年に認可され販売された。薬の服用により、落ち着きがみられるが、約10ケ月間は
認知症の症状の進行を抑制する効果があるが、1年後には効果が低下する。これは人間の対応性が原因と思われる。このため、
完治する薬はまだ出ていない。認知症が発症後の余命は10年ないと言われているため、一時的でも効果があることは大事である。
・オーストラリアの認知症患者のクリスティン・ブライデンは体験記として「私は誰になっていくの?」を書いた。自分の体験を執筆し、
周辺の状況を把握するため、絶壁にしがみついているような努力が必要なこと、自分の気持ちを説明出来ずに圧迫感を感じること、
簡単なメモ書きでもつづりを間違えること、賑やかな場所では視野狭窄が生じることなど貴重な内省報告が書かれている。彼女は
認知症患者の人権保護を訴えるために世界中を講演して回り、2004年には来日した。最近の動向は分からない。
4.認知症の予防
・認知症は回復が期待できないので、早期発見と早期治療が重要になる。認知症の予防に有効とされている取り組みは、食生活と
頭を使う習慣、対人的交流がある。動物性脂肪を多く摂る人の認知症発症のリスクは摂らない人より2.2倍である。コレストロール
が高い食べ物は良くない。頭を使う習慣が認知予防力を高めるので効果がある。タバコ屋のおばあさんが認知症になっていたが、
仕事を続けていたという話がある。これには、ルーチン的な決まりきった生活を続けていると認知症になるということと、認知症に
なってもルーチン的な仕事は出来るということである。ひきこもりや独居は認知症のリスクを増加させるので、対人交流は大事で
あるということである。後出しジャンケンは、いつも勝つ手を出すジャンケンで、後出しではあるは、負ける手を出すという、いつも
考えていないルールで行動することになり、認知症の前駆症状である前頭葉機能の低下を調べることが出来ると言われている。
・学習療法がある。ワーキングメモリーは、会話、読書、計算、推理など様々な認知機能の遂行に用いられる記憶であり、認知機能
の維持には重要な役割がある。川島教授の「脳を鍛える大人のDSトレーニング」が流行になったが、今は下火になっている。四則
計算や音読、瞬間記憶などは脳をたくさん使うので、予防効果がある。
・回想法というのがある。高齢者に過去を想起するように促すことで、情動の安定などの心理的効果がある。回想はエリクソンが
唱えた老年期の心理社会的危機である自我の統合を達成する具体的な手段とされている。
「感想」認知症がどのようなものか少し分かった感じがする。根本的に治療する薬はないので、早期発見と
早期治療が重要だが、予防が重要ということが分かった。予防法は日頃、良くしているものもあり、
努力したいと感じた。