組織のリスクマ・ネージメント         経済学部   神田先生

   ・日本では一時、企業がどんどん潰れることがあった。企業には地域では重要な役割をしていたので困ってしまうことが出てきた。

    企業の競争力を如何に守るか、環境の中で位置づけをどうするのか。ノウハウの使い方をどうするのかなどを研究してきた。

   ・先生の専門は競争力の構築である。日本には長寿企業が多い。虎屋は紙の記録で残っているものでは450年続いているが

    実態500年以上続いている老舗と言われているところは京都や大阪が多い。東京は江戸から続いている企業が多く、港区

    中央区などに多い。老舗企業のノウハウを調査するプロジェクトを立ち上げた。今までは老舗企業しか調査していなかったが

    今回は老舗以外の企業も比較するために調査した東京の老舗企業354社から16社を選んで、217月から12まで、経営者

    からインタビューした。調査の枠組みとしては、強さ源泉から検討した。強さの源泉として、まず、暖簾を創ることは、「らしさ

    生み出すことであり、商いを創ることは、長期的、持続的な競争力を創り込むことである。人を育てることためには後継者

    社員の学びを促進している。関係性を創ることは、顧客や取引先と共に成長することであり、地縁・地域性を活かすため、社会

    に歩み、環境の変化には、環境を読み、創る必要がある老舗の強さは、個性の創り方にノウハウがあると思い、のれん、商い

    を育てる、関係者の創り方などに何かあると思い、調べた。また、地域の中心的役割はどうかということも調べた。

   ・老舗の特徴としては暖簾があるため、企業の「らしさ」を創りだすことが重要ではないかと思った。個性を創るマネージメントとして

    は自社が提供する商品・技術を通じて、顧客・取引先との関係を大事にしている。企業理念を文章にしている企業は1/3であり

    2/3企業は、企業の理念などを文章にしてなかった。企業理念には、取引先との関わり方や商品、サービスに個性を見出して

    いる企業が多い。個性「らしさ」を薄めない工夫をしているのではないかと調べてみると、身の丈にあった適切な規模を守っており、

    本業に拘り、大切にしていることが分かった。財務では保守的であり、無駄を戒め、大きな投資はしていないことが特徴的である。

   ・商いを創り込むことでは、素材、原材料を大事にしている。銀座ヨシノヤでは、靴は元来は海外から入ってきたものであるが、靴の

    基になる日本人の足型を計測して履き心地を追及してきている。老舗では小さな差別化を積み重ねている。古くからのものを守る

    と共に、お客様の接点でない、見えないところの合理化に取り組んでいる。商売を創る、環境を創るということでは、老舗は業界の

    トップにいるので、業界として努力している。業界そのもの、ビジネスそのものを維持していこうとしている

   ・伝統の味を守るというが、昔とまったく同じ味では満足して貰えないので、日常的な業務の改善を重視している。現代の企業で

    富士フィルムのように、写真のフィルムから化粧品へ大胆に転換しているが、老舗では伝統を大事にしている。しかし、代替わりでは

    大きな変革を導入している。最近は、お客様が高齢化しているので、若い人に向けたものを創っている。長期的な視点で、次の顧客

    を開拓している。千疋屋ではフルーツバイキングを実施している。個性を維持することでは、商品を大事にし、代表的な商品を持って

    いるのが特徴である。お客様にはアナログ的に個別に対応している。お客様はそれぞれの好みで選ぶので、自社の製品の個性は

    変えない、商品への思いを伝えている。もう一つは消費を演出している。千疋屋ではお召し上がりの時期を聞いて、一番美味しい

    食べ頃の商品を提供するなど演出している。お客様の声を聞くことも大事にしているお客様は特定の領域では豊富な知識を持って

    いるので、お客様の声に傾聴し、素早い対応に心がけている。また、お客様にとって意味のある情報を提供して、お客様との対話の

    場を創り、学び合う関係を創っている。

   ・仕入先に対しては、一般的には業者に対して高飛車に出易いが、老舗では仕入先を大切にして、一緒になってお客様にサービス

    するという気持ちを持っていると考えられる。人を育てることでは、老舗にはマニュアルや文章にする以上のものを持っているので

    先輩からのOJTで伝えている。市場との接点で効く「人間に幅」のようなものを時間をかけて育てている。

   ・家業を受け継ぐのは一人だけと決まっており、後継者については長男を選ぶ場合が多い。会社なりの考え方があり、本人も受け継ぐ

    意思を持たせるようにしている。中小企業では後継者難から、仕事が楽しいことを見せようと工夫している社長もいる。後継者も入社

    前には他の会社に入れて経験させている。老舗の後継者は長期的に育成している感じが強い。

   ・老舗の人達は地域の価値を認識しており、業種を越えて、世代を超えて、集まる場が多い。みんなが地域を高めようと努力している。

    欧州では、地域の企業には地域の雇用を創る義務があると考えている。地域の希少価値を大事にしている。模倣困難性を無形資産

    やつながりから創っている。

   ・これまでの仮説を検証した。永続経営のマネージメントの枠組みを、強みつくり、活縁、志、人づくり、関わりの5つの要素でまとめて

    みた。この場合、老舗の定義はないので、私達は100年を区切りとした。また、老舗だけでなく、そうでない企業と比較もしてみた。

    平均値の比較と割合の比較をして、統計的に有意な差がある項目から判断することにした。

   ・経営理念はどこでも持っており、行動規範や商品、サービス、事業領域は大差はなかった。企業理念の内容について、仕入先や顧客

    との関係つくり、生産や販売、技術に言及していることが老舗には多い。経営理念の継承と活用については、老舗が高い得点である。

    ブランドの整合性を重視することや商品・サービスでは細部までこだわること、会社の歴史や商品の謂れなどの物語を積極的に発信

    している。商品・サービス、素材・原料、生産・販売技術については変えてはならないものを持っており、大きな変革は時間かけて

    導入している。知識が豊富なお客様からは学ぶという姿勢を持っており、会社の歴史や商品の謂われなどの物語を伝えている。仕入

    先とは生産・販売、商品・サービス、更には顧客・市場動向などについても積極的に情報交換している。 従業員教育では大きな差

    ないが、会社の歴史や伝統をより熱心に伝えているところが違っている。後継者の育成は体系的に積極的に取り組んでおり、老舗の

    6割は既に後継者を決めているが、非老舗では後継者を決めているのは4割にとどまっている。業界活動などの社外活動に積極的に

    参加して、人脈づくりに心がけ、そこで学ぶ姿勢を持っている。地域の価値を認識し、地域貢献や地域価値向上に参画している。

   ・次に、老舗同士について因子分析により、どれが一番効いているが調べてみた。まず、経営理念へのこだわりについて優先順位を

    つけた結果は、経営理念の活用の意思があり、理念を社内で共有し、将来へ継承する志を持って、文章化し、社外に明示化している。

    変革と改善では伝統を守ることより、日々の革新の方に力を置いていることが分かった。

   ・先代の変革と当代に変革について、先代も当代も変革が低い企業を伝統重視型に、どちらも変革が高い企業を変革活動維持型に、

    当代の変革が高い企業を変革活動移行型に、先代の変革が高い企業を変革活動定着型というように、4つに分類した

   ・変革の4類型因子間の相関を調べたら、幾つかの発見事項が出てきた。

    ☆変革パターンは存続年数は影響しない。存続のための変革には幾つかのパターンがある。

    ☆伝統重視型は創業家の所有と支配が強い。同族経営が多いが、変革活動継続型と変革活動移行型も同族経営が多い。

    ☆伝統重視型は規模が小さい会社が多く、変革活動定着型は規模の大きい会社が多い。

    ☆変革活動定着型は、非創業家所有・経営が多い。非同族型の企業の方が社訓を持っている。(同族経営では家訓がある。)

   ・生き残りをかけたイノベーションの導入事例としては、新橋玉木屋では、現代人の好みに合わせた味にするため自社工場作った

    また、大きい魚の佃煮をつくり、時代に合わせた商品展開をしている。おかもとポンプでは、温泉毎の状況に合わせた保守を行う

    、小規模なポンプに対応して、ニッチな市場の深掘りをしている。樽屋の豊島屋は白酒の販売や蕎麦屋の調味料の販売をする

    ことで顧客の拡大変革に対応している。


  「感想」東京で有名な老舗の調査の話を聞き、非常に興味がもて、聞いていて楽しかった。伝統のある会社は小規模な会社が
    
       多いと聞かされて、時代の風潮に流されないようにしていると感じたので、強いと思った。