精神障害と社会福祉 〜統合失調症を中心に〜 明治学院大学 村上教授
・村上先生は精神科の医師で、慶応大学を卒業した後、アルコール専門の久里浜病院に勤務した。その後、民間の病院に勤務した経験が
ある。精神保健福祉士という国家資格があるので、明治学院大学の社会福祉学科では医師が担当している。今日は統合失調症について
説明する。昔は精神分裂症と言っていた病気である。
・NAMI(National Alliance for the mentally lll)は、精神疾患が我々の生活を豊かにしたと言っている。リンカーン大統領やトルストイ、ニュートン
ベートベンなど沢山の著名な人が精神的に患っていたと言われている。ヘミングウエイはうつ病の家系であり、ムンクの叫びは幻聴から
出てきたと言われている。過去の天才は何らかの病を持っていたと言われており、歴史的に傑出した人物の生涯を精神医学及び心理学的
観点から研究分析し、その活動における疾病の意義を明らかにしようとする病跡学がある。人間としては普通が一番である。
・精神障害者福祉を進めるため、精神医学があり、その基盤となる精神保健という分野がある。精神障害者福祉が出てきた経緯を説明する。
1918年に京都で精神病患者の私宅監置の実態が発表された。 戦前の精神病者監護法と精神病院法を廃止して、新憲法のもとで 、精神
障害者に対して、適切な医療・保護の機会を提供することを目的とした精神衛生法が1950年に制定され、私宅監置が廃止された。1964年
に駐日アメリカ大使が精神障害者に刺されたライシャワー事件が起きて地域保険を充実させることになった。1984年に宇都宮事件が起きて
精神障害者の人権が守られていないと国連から査察を受けた。1987年に精神保健法が出来、1993年には障害者基本法が出来、1995年
に施行された。これにより、精神病患者が障害者として認められた。
・欧米では、12世紀以降は魔女狩りが行われていた。その後、啓蒙、人権の問題から理性の枠に入らない人を集めて囲い込んでいた。
日本はお寺さんが集めて面倒を見ていた。京都の大雲寺が心の病や目の病に効用があるということで、始めたと言われている。天台宗や
真言宗は滝修行等で面倒を見ていた。日蓮宗は読経で治していた。浄土真宗系では漢方薬で治療していた。
・エミールクレペリンが現代精神医学の基礎を作った。精神病を早発性痴呆(後の精神分裂症)と双極性障害(後のうつ病)に分類した。
統合失調症の精神症状としては、本人は幻聴、妄想、感情・意欲の障害がある。実際に存在しないものが見えたり、聞こえるようになる。
また、誤った考えを言うようになる。この場合は周りの人は訂正しない方が良い。感情の平板化が起きる。自分から何かをやろうと思うこと
がなくなる。 思考障害が起き、話がまとまらなくなり、それが進むと、言葉を羅列することが起きる。言っていることの意味は分からない。
周囲の人が気づく症状としては表情や態度の変化が起きる。ひとり笑をするとか独り言を言うようになる。また、表情が乏しくなる。
・統合失調症の経緯としては、前駆期、急性期、消耗期、回復期があるが、初期にくい止めれば良いと思っている。前駆期は、不眠やイライラ
不安、音に敏感になる。急性期は幻聴、妄想、混乱などになり、ドーパミンの過剰分泌が生じている。この時期になると治療が必要である。
心神喪失の状態になり、トラブルを起こすようになる。消耗期になると症状は一応治まるが、何事も億劫になり、活動が鈍くなる。回復期は
社会との関わりを持とうとする気持ちが出てくる。回復のペースはゆっくりで、少しづつやれることが増えてくる。
・統合失調症で認めら易い行動特性は、まじめで几帳面で、要領の悪い人が多い。安定性に欠けたり、持続性に乏しい人もなり易い傾向が
ある。基本的な日常生活が苦手で、対人関係やものごとを取り組む手順が苦手である。更に、生活リズムが乱れることもある。
・身体的な障害では原因と症状の関係がはっきりしているが、精神疾患では、障害と病気の関係がはっきりしない。統合失調症の急性期では
病気が活発なので薬の効果がある。慢性期は対応が難しい。新しい薬が出てきたが、効果はまだ良く分からない。例えば、薬が良く効き、
本人が長期間、精神病院に入っていたことをはっきりと気づき自殺した人もいる。日本の病床数は7000床と非常に多い。イタリアでは人権上
良くないということで精神病棟を廃止すると言って、激減している。今は殺人などを起こした人を入院させている病院が6ケ所だけになった。
イタリアはほとんど国立だったのでこのようなことが出来ているが、日本は90%が私立である。
・入院患者数は32万人であり、入院期間を見ると5年以上が50%と多い。1年以内は23%である。受け入れ条件が整えば退院可能という患者
が、平成11年には71600人いるが、対応が出来ない状況である。地域で対応する体制を整えないと、家族に負担を押し付けることになる。
統合失調症は思春期に発生する病気であるが、ほとんどが早い時期に回復する。精神障害は若年者の慢性病である。病気の全体的な原因
は分かっていない。一部が解明されている状況で、その部分的現象を見て原因を色々と言っている。アメリカの学者には暖かくなると発生する
ので、ウイルスだという人もいる。昔は母親の育て方が原因と言われた時期もある。幻聴や幻覚はドーパミン異常ではないかと言われている。
・現在の医療体制では、本人が何をしたいのか徹底的に聞く。医師等も含めてきめ細かく手をかけると改善できる。しかし日本ではきめ細かく
対応することが出来ていない。本人に良くなったと自覚を持ってもらうのが一番である。
Q.神戸の連続児童殺傷事件の酒鬼薔薇君のような人も普通になるのか?
A.完全に根治出来るかは分からない。時間をかけないといけないと思う。精神的な理由で裁判をしないことに疑問を持っている人もいる。
「感想」精神疾患については、噂や断片的なことは聞いているが、全体的なお話が聞けて良い機会が持てたと思います。
しかし、分からない言葉も多かったので、インターネットで調べながらまとめたので、時間がかかった。内容的にも
正しく理解できているかかなり自信がない状況です。