第一回
地域福祉と住民参加 社会学部 河合克義先生
1.地域・生活を見る目
・社会福祉の話になると暗いものが多い。しかし、その暗い社会福祉の研究している人は明るい人が多い。
・港区の財政は日本で最も豊かである。それもあり、港区は全国水準で見てもトップレベルの施策をしている。港区の未就学児を調査したら、
親の所得が1千万円とか2千万円と非常に高い人が多い。そのため、港区の文化や港区民としてのことを知らないで、成長して、社会で活躍
する人が多い。港区では麻布十番が賑やかだが、本当に豊かなのか考えることがある。港区の小売業の人は仕事に熱心でない感じがする
人が多い。その理由は、仕事で赤字を出しても、税金対策的な感じがする。港区の区役所は大企業の対応をしていれば、潤うことになるので、
それで良いのかというと疑問に感じることがある。
ビデオ「母さんが死んだ−生活保護の周辺−」 日本テレビで放送された映像である。
・3人の子供を抱える39歳の母親が餓死した。主人が働かないので離婚して母子家庭になった。札幌市の白石区に住んでいたが、働いている
ということで、生活保護を打ち切られた。この母親は働いていても月収は15万円しかなく、生活保護の支給より9万円少なかった。母親は病気
になり、働けなくなり、収入がなくなったので、餓死したということである。3人の子供は養護施設に預けられた。社会福祉事務所の扱いが問題
になったことを放送したものである。生活保護は申請することから始まるが、実態はその前の相談から始まり、振るいにかけられている。児童
手当は支給出るのに支給していなかった。公営住宅の住居費の免除もしていなかった。
・厚労省は暴力団の不正支給防止のために、生活保護の適正化を指導していた。豊かさの中で見え難くなった貧困をどうするのか考える必要が
ある。離婚した母子家庭が苦しくなっている。北海道の三笠市では生活保護者が20人に1人と非常に多い。炭鉱がなくなり、子供が出ていって、
一人暮らしになった老人が多い状況である。北海道では炭鉱の閉山、北洋の減船により失業者が増えている。厚労省では、生活保護の支給率
の下がっている福祉事務所を推奨し、支給率が高くなっている福祉事務所を問題視している。これに対して、札幌弁護士会の人権保護委員会
から人権保護の問題として指摘している。
・番組を作った水島ディレクターは東大出で、豊かな環境で育った人だったので、当初はこの話は母子家庭で働きたくない人の話と考えていた。
調べていくに連れて状況が分かり過激になっていた。その後、ロンドン支局長から日本に帰ってきた時、若者がネットカフェで暮らしている人が
増えていることを知った。その時に見た若者の目は難民の目に似ていると思ったとのことであった。今の学生にこのビデオを見せると、昔より
悪くなっているという学生と今の方が良いという学生がおり、実感がない。学生に餓死、孤独死を調べさせると図書館で検索してまとめてくる。
・豊島区の母子餓死事件がある。子供は長い間寝たきりで、母親が身体が悪く、食べ物がなくなって4月の4〜5日に餓死した事件である。
母親は3年間、日記を書いていて、3月11日に終わっていた。4月27日に半ミイラ化状態で発見された。地域と関係が切れている孤独死
が増えている。NHKが1年間孤独死の調査をした。行倒れた時は亡くなった自治体が処理することになっており、全国で32000人がいた。
・研究室で協力して孤立している人の調査をしようとしたら、足立区で111歳で生きている筈の人が30年前に死亡していて、生活保護費を
子供たちが受け取っていたことが分かり、NHKが忙しくなり、調査が中止になった。最近、孤独死のことを検索すると非常に増えている。
UR(公団)での孤独死亡者数は、1990年に207人、2009年は665人と増えている。東京都の監察医の報告では、65歳以上の孤独死者数
は2002年に1364人、2009年は2194人、最近は3000人を超えているということで、非常に増えている。
・地域にある生活の問題は普通に生活しているとなかなか見えない。コミュニティ大学は地域のリーダーを育成しようとしているので、各人
が生活に対して考えを持っていることを認識する必要がある。サングラスをかけた時、初めの内はフィルターをかけていると思っているが、
段々サングラスをかけていることを認識しなくなるのと同様である。自分を客観視することが大事である。例えば、生活保護を受けている
人がパチンコをしたり、競馬をしたり、寿司をとるのはけしからんと思うが、一面的にだけ見るだけでは解決しない。
・生活を見る時、日本の高齢者は豊かか、豊かでないかという話になると、高齢者は豊かであるということを前提に考える。高齢者所帯は
格差があるので、平均すると高くなる。その格差のため、実態を分からなくしている。地域にある問題として、貧困の問題を考えると、
法的には生活保障が対応している。更に、民間の団体や自治体が対応しているが、それでも潜在化している。生活保護を受けている人
は、基準以下のため生活保護を受けられる人に対する割合(捕捉率)は20%以下である。
2.住民生活の実態と地域福祉活動
・フランスから来た留学生が何故、日本の社会保障は世帯単位なのかと聞いてきたことがある。欧州は個人単位の社会保障になっている。
ECの人が来た時、何故、日本では孤独死があるかと聞いてきた。自殺しか考えられないと言われた。日本の家族関係が変わっている。
1ケ月に親子で食事をする回数を調査した時、日本では数字が出てこない。欧米では平日は親子で別々に生活しているが、土日は親と
生活する慣習になっている。フランスでモナリザ計画という名前で、孤立化対策に取り組んでいる。日本は深刻な状況になっていると思う。
・ひとり暮らし高齢者について、1995年と2010年のデータで調査した。ひとり暮らし高齢者の出現率(65歳以上の人口の内、単身者の
割合)が、上位30の自治体を分類すると、島と過疎地、大都市に分かれる。2010年に島や過疎地が減少しているのは、町村合併により
都市に合併されたためである。大都市では、大阪が多いが、大都市のひとり暮らし高齢者が急速に増加している。
・都道府県別では、鹿児島県が多く、東京が2位、大阪が3位である。東京都のひとり暮らし高齢者の出現率を見ると島が上の方にくる。
区で見ると、新宿区、杉並区、渋谷区、豊島区、中野区に次いで、港区が出てくる。港区は人口が減っていた時期があり、2005年には
全国で13位になったことがある。今では、タワーマンションが増えたので、38位になっている。
・1995年に港区のひとり暮らし高齢者を社会福祉協議会に話して調査した。回収率を上げるため、民生委員が訪問して確認して貰った。
2004年には40%抽出で調査した。その時は、30%の人に訪問面接調査を実施した。
・横浜市鶴見区では2006年に住民基本台帳の65歳以上でひとり暮らしの人12000人に対して、民生委員が全数訪問した。19ケースに
1週間の日記をつけて貰ったが、一週間だれとも話をしていない人がいた。山形県でも調査を実施したが、回収率が94.8%だった。
・経済問題では、港区では150万円以下の人が37%だった。生活保護に相当する200万円以下の人は56.3%である。山形県でも150万円
以下の人は56.6%であり、港区と同じである。港区では200万円〜400万円以下の人は29.4%であるが、山形は4%と大きく違っている。
・調査の結果、ひとり暮らし高齢者は近くのコンビニで買ったり、売りに来る人から買ったりしており、買い物に困っていることが分かった。
そこで、特に困っている虎の門や新明に買い物支援を行った。港区のお店から買ってくるなど地域振興にも配慮した。
75歳以上の高齢者の2人世帯を調査すると、老人夫婦がほとんどかと思ったが、2割が親子世代の所帯があり、生活に困っていた。
そこで,ふれあい相談員を創設した。11人の相談員により、保険等を使っていない4000人、買い物に困っている1500人に対応している。
このように、前向きにひとり暮らし高齢者に対応している自治体は港区以外には未だない。
「老後破産の現実−老人漂流社会-」 NHKが放送したが、本人の名前を出しているのは珍しい。
この中で出てきたひとり暮らしの老人は生活保障を受けるようになり、生活は安定したが、今の趣味は競馬とのことである。どのように
考えるかポイントである。港区でも色々と地域の社会福祉の材料はあると思うので、今回の研修生は考えて欲しいと思う。